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響く炎:8
2008.01.02 |Category …箱庭の君 短編2
……どうやらワシとアレの子であるらしいソレを、我々は京の次で京次と名付けた。
本当はワシの子だから、「響次」にしようかと思ったが、「京」の方が華やかだと思い、そうなった。
だが、ワシはあまり自分の子だとは信じてはいなかった。
一月(ひとつき)くらいで「ハイ、赤ん坊ができました」って……んな無茶な話があるか。
浅漬けじゃないんだぞ!?
しかし、そうと言われたからには、どこかに捨ててくるワケにもいかず、テキトーに育てることになった。
だが。
▽つづきはこちら
テキトーに育てて数年もすると、すっかり可愛くなってしまい、どこの子でも別にいいような気がしてきた。
それに周りがあんまりワシに似ているというし、確かに自分で言うも何だが、気味が悪いくらいに似ておる。
お焔も嘘などついていないというし……。
まぁ、相手は妖だ。普通に考える方がおかしいか。
だから、気にしなくなった。コレは違う(たがう)ことなく、ワシの子だ。
さて。そんなことよりも、今のワシの心をわずらわすものは他にあった。
……深之殿だ。
深之殿は主君・和成様の妻。
彼女は13の時に、20も年が離れている和成様のもとへ嫁いできた。
当然のように政略結婚の犠牲者である。
いつの時代も姫君は気の毒なこと……
恋という恋もまだ知らぬ13の小娘に、初めてお目にかかる33の男をいきなり愛せよというのは、所詮、無理な問題。
酷というものである。
当時、ワシは17歳。
深之殿とはさして離れてはいなかった。
だから話しやすかったのかもしれない。
まだ健在だった父について城を出入りしていたワシを、彼女は頼っていた。
遠くから嫁いできており、城の中に味方はおらず、また夫であるハズの和成様は別の姫の元へ通っていたのである。
そんなところから同情もあったことだし、妹のようにも感じていたワシは、よく話相手になって慰めてやっていた。
……が、それがいけなかったのかも…。
深之殿は暗く、陰気で激しい気性を隠し持っていたのである。
響「…鬼子…でございますか?」
深之「さよう」
響「それは見てみとうございますな」
……などと口先で言ったものの、さほど興味はなかった。
家に帰れば鬼子ならぬ、鬼嫁が……ゲフン、ゲフン。
深之「ふふふっ。十音裏というて、ほんに気味の悪い子じゃて」
響「トネリ…?」
深之「十の音の裏と書いて十音裏」
響「…変わった名ですな?」
深之「本当は、詩腥(シセイ)というらしいが…」
詩腥と言えば、腥姫(セイヒメ)様の忘れ形見。
和成様がご執心だったという美しい占い姫。
その間の詩腥は不義の子として、深之殿に酷く嫌われていた。
当然と言えば当然だったが、子に罪はないというは、他人事だから気楽に思えるのだろうか。
ワシは深之殿が披露したがっている、鬼子・十音裏を見にゆくこととなった。
その子は、北の院という、人あらざる者たちからこの国を守るための門…そこに幽閉されていた。
不義の子とはいえ、和成様のお子。
それが何故このようなところに…?
ワシの疑問にはすぐに答えが与えられた。
深之「だから、鬼子と言っておりましょう、響殿」
十音裏は人あらざる者と心を通わせてしまう体質の持ち主だったために、悪霊などを呼び寄せてしまうのだとか。
それで結界に守られた北の院に入れられることになったということだ。
だが…本当にそれだけなのだろうか…?