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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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響く炎:16

 …矢が。

 矢が遅く見えた。

 ゆるりと。

 ゆるりと降りしきる雨のように。

 ととととと…。

体の上に降ってきて…

 お焔が何か叫んでいるのが見えた。

 でも…

 何を叫んでいるのか聞き取れない。

 …そのような顔をするな…

 何か心配ごとか…?

 珍しいな。

 お前が。

 どうした?

 言うてみ?

 何でも。

 ワシは力になれるか?

 お前の…。

 …あ…、あ…。

 風景が…斜めに見える? これは…、どうしたことか…?

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響く炎:15

 屋敷の周囲はすでに武装した間宮の軍勢に取り囲まれ、逃げ場もない。

 刀を手に外へ走り出る。

 

響「何故…っ!? 加賀美は謀反など………。応えよ、柳殿っ!!」

柳「主君の妻に手を出して、何を偉そうに…! 間宮の面子を汚した罪は重いわよ、加賀美殿」

響「…バカな…」

柳「それに調べはついておる。単筒を隠れて買い集めおって…」

響「隠れるなどと…それは和成様の命(めい)だったハズ…! ちゃんと証拠の文は届いておるわ」

柳「何の話かしら? 和成様はそのようなものは知らぬと申しておったわえ?」

響「…和成様に会わせろっ!! 直接、説明を聞きたいっ!」

柳「問答無用!」

響「……深之殿はっ!?」

 『…まさか…』

柳「会いたくないって言っていたわよ? むごたらしく…殺して欲しいって。アタシにそう言ったの」

響「……………深之……」

 

 今、ワシはハッキリと悟った。

 

響「…深之ぃぃ        っ!!!」

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響く炎:14

深之「その妻は人ではありませぬ…。響殿はだまされておる」

響「なぜ、そのようなことを申されるのです?」

深之「………いえ。その…」

響「……………」

 

 知っているだろうともさ。深之殿はワシのお焔を殺めようとしたのだから…

 けれど、何をしてもお焔は死にはしなかった。

そうでしょう、深之殿?

 

深之「…では…。その愛妻が他の男と逢瀬(おうせ)したなら?」

響「…その男を、斬って捨てましょう」

深之「もしも、それが和成様だとしても…?」

響「…和成様? それはナイと存じます」

 

 これが…。

 ワシと深之様の最期に交わした言葉となった。

 何故なら…

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響く炎:13

響「知っているか、京次」

 

 風呂上がり。

息子をあぐらのひざに乗せて、縁側。

 

京次「しらねー」

響「聞いてから言えよ」

 「あのな。魔性の者に出会って、まず一番してはいけないことを知ってるかー?」

京次「しらねー」

響「それは、話をしてしまうこと。目を合わせてしまうことだ」

 「魔性に応えてはならぬ。本物の魔性は、あの手この手を尽くさずとも、的確に心の隙をつく。知らぬ間にだまされて、魂(タマ)までとられちまう。…わかったか、京次?」京次「うん。…ちょっと」

 

 指で“ちょと”を示す。

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響く炎:12

焔「これは己(おれ)宛だ。勝手に読むでないよ」

響「オイオイ、いいじゃねーか。何て書いてあったんだよ?」

焔「己にお前さんから手を引けと。お前では響殿に釣り合わぬから実家に帰れとな」

響「……………」

焔「金子も包まれておったぞ?」

響「何だって!?」

焔「やるな、この色男っ♪ あははははっ」

響「……笑い事かよ」

焔「返事を書こう。下賎の者は、帰る実家もございませんとな」

響「金も返しておけよ」

焔「わかっておる。己は金目に興味はない。光り物なら好きだけど」

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響く炎:11

深之「…ねぇ、そのようなコトよりも響殿…? ここには妻も子もいない。幸い誰も見てはおりませんし…」

 

 周囲を見回して、急に甘えた声を出す。

 

響「…! な…何を…」

 

 寄り掛かられて、ワシはあわてた。

 …そうだ。前々からわかっていたことだ。

 深之殿はワシに恋心を抱いている。

 何年も前から。出会っていくらもしない内から。無理もない状況であったから。

 だがワシと深之殿では立場が違う。

 初めから相入れない。主君と家臣の壁は厚い。

 それより何より…

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響く炎:10

 自分も子を持つ身。

 ワガママで手のかかる子だが、可愛い。

可愛がるから、またワガママを言い出す。

 だが、それが童の姿だろう。

よく笑い、よく泣き、よくかんしゃくを起こす。

 それが。

 もっと年は上とは言っても、10に満たぬ童であるハズの十音裏様は…

 

響「十音裏様、またお一人でございますか?」

十音裏「…十音裏でございます、みゆ…」

響「響でござる。加賀美 響」

十音裏「………………」

響「…………………」

 

 十音裏様は、暗い牢獄から逃げ出そうとしたのか、壁を狂ったようにひっかき、その血で自分に与えられた名を記していた。

 もう、気狂いとしか思えなかった。

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