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響く炎:14
2008.01.05 |Category …箱庭の君 短編2
深之「その妻は人ではありませぬ…。響殿はだまされておる」
響「なぜ、そのようなことを申されるのです?」
深之「………いえ。その…」
響「……………」
知っているだろうともさ。深之殿はワシのお焔を殺めようとしたのだから…
けれど、何をしてもお焔は死にはしなかった。
そうでしょう、深之殿?
深之「…では…。その愛妻が他の男と逢瀬(おうせ)したなら?」
響「…その男を、斬って捨てましょう」
深之「もしも、それが和成様だとしても…?」
響「…和成様? それはナイと存じます」
これが…。
ワシと深之様の最期に交わした言葉となった。
何故なら…
▽つづきはこちら
焔「お前様に文が…」
響「…和成様からの…?」
…内容は、お焔をよこせというものだった…。
…ありえない。
なぜ。
家臣の妻を所望するか?
深之殿…?
いや…
ともかく…
ワシは、文を取り落とした。
焔「…………お前様の立場が問題ならば、ゆこうか?」
響「…お前はそれでよいのか…?」
何を聞いている。
よいハズがない。
焔「…なに、どうせ一時(いっとき)であろうが。ちょいと相手をしてやりゃあいいんだろ?」
響「行きたいのか?」
焔「そんなワケはない」
響「………………」
焔「だが、お前様の必要あらば、従おう。己は和成に従うのではない。己の約束した者に従うのよ。己も今や加賀美家の者だからな」
響「…よい。ゆくな」
妻の黒髪に指を通す。
何のひっかかりもなく、擦り抜ける絹糸の髪…。
…ワシは、お焔を他の者に預ける気はなかった。
無論、それが和成様であったとしても、だ。
そのせいで代々仕えた加賀美の印象が悪くなろうとも。
だってそうだろう?
自分の身内を差し出してまで、機嫌をとるなどと…そのようなことをせずとも加賀美家は立ってゆける。
焔「…大丈夫かえ? 顔色が優れない」
響「いや…。なんということはない。ただ…」
焔「うん?」
響「お焔…、人の醜さに巻き込んで悪かった…。お前は、人ではないのにな…」
焔「何を言っている?」
響「お断りしよう」
焔「何の言い掛かりをつけられるかわからぬぞ?」
響「何が言い掛かりか。このような無茶は初めから道理に外れておる」
断りの文を書き上げ、
響「…焔…心配はいらぬ…。誰もお前を差し出したりはせぬ」
まぶたを下ろし、自分が望んで手に入れた者を、両腕の中にゆるく閉じ込めた。
焔「……………。心配などしていないよ、お前様…」
……………………………………。