HOME ≫ Entry no.179 「響く炎:11」 ≫ [184] [183] [182] [181] [180] [179] [178] [177] [175] [174] [172]
響く炎:11
2008.01.04 |Category …箱庭の君 短編2
深之「…ねぇ、そのようなコトよりも響殿…? ここには妻も子もいない。幸い誰も見てはおりませんし…」
周囲を見回して、急に甘えた声を出す。
響「…! な…何を…」
寄り掛かられて、ワシはあわてた。
…そうだ。前々からわかっていたことだ。
深之殿はワシに恋心を抱いている。
何年も前から。出会っていくらもしない内から。無理もない状況であったから。
だがワシと深之殿では立場が違う。
初めから相入れない。主君と家臣の壁は厚い。
それより何より…
▽つづきはこちら
響「…なりません、深之殿。目をお覚まし下さい。貴女は和成様の妻で、私は…」
深之「今はそれをいいやるな。…響殿…」
ワシはあわてて、しなだれかかってきた深之殿の体を引き離す。
深之「深之が嫌いですか、響殿…」
響「いいえ。そうではありません。しかし、私には…」
深之「むろん、二人だけの秘め事じゃ」
響「…………申し訳ございませんが………」
ワシはお焔を裏切るつもりは毛頭ない。
ないのだ。
響「…ただ今戻ったぞ…」
焔「おや、ずいぶんとお疲れだこと。深之様とご一緒でさぞや楽しかったでしょうねぇ?」
深之殿にあの手この手で引き留められて、1カ月ぶりにようやく我が家に戻ってみれば、お焔が仁王立ちで出迎え。
響「…ハイ…?」
焔「…先日、文が届いた」
その例の文で、おもしろそうにワシの頭を叩く。
響「ウソんっ!?」
焔「…誰とは言っておらぬぞ。何故あわてる? 内容も知らぬクセして」
響「いや…それは…」
焔「さては身に覚えありか?」
響「…………めっそうもございません、お焔様…」
両の手をこすりあわせて、作り笑顔。
焔「ふぅん、まぁいいさ」
あっさりとしたもので、それ以上はなじらない。
響「…お…おい…。よかないだろうっ! お前はそれでいいのかっ!?」
焔「アレ? 妬いて欲しかったのかえ?」
響「………………ちったぁな…」
…ちぇ。…コレだよ、この女は。
思わず目をそらして、ボリボリと頭かいた。
焔「だったら、もっと度胸つけたらどうだい? 他に女囲う甲斐性もないクセに」
煙草を吸って、ワシの顔に煙(けむ)を吹きかける。
響「うあっ、コラッ!」
なんって可愛くないヤロウだ、チクショウ!
…でも、まぁ…。信用がある…ということにしておくか。ふふん。
立ち直りの早いワシは、結論にたどりついて大満足。
…あ~あ。なんて操りやすい男なんだろうとか思われているのかな…まぁいいか。
響「…で? 何と書いてあった?」
文を見ようとすると、ひょいと奪い取られた。