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響く炎:7
2008.01.02 |Category …箱庭の君 短編2
焔「お前様は、ほんに変わっておるわえ」
響「何がじゃ?」
焔「己(おれ)を嫁にして、願いをいくつも叶えさせようって腹かい?」
響「……おっ。そんな手もあったなぁ? お焔、お前は頭がよい」
焔「……はっ。では何を思うて、せっかくの願いをこのようなことに……」
響「せっかくの…って…。願いは一つだなどとケチなことを言うから……。初めに思いついたままを口にしただけよ」
焔「…あきれた」
響「……………」
焔「お前様のような馬鹿者は初めて見たよ」
響「珍しいなら、得したな?」
焔「……………」
嫁さんを手に入れたから、しばらくはその膝(ひざ)でのんべんだらり。
周囲の者共がうるさく言ったが、もう祝言も済ませたし、言われる筋合いもない。
あとは……
▽つづきはこちら
響「お焔、妖と人は子をなせんのか?」
あれから2年経ったが、一向に子宝に恵まる気配がない。
焔「なんだ、お前様、ややが欲しかったのか?」
響「そら、もちろん」
焔「では今からとってこよう」
急に立ったので、ワシは転げて頭を打った。
響「あ~、待て待て待てっ!」
寝転がったまま、着物の裾を引っ張って止める。
焔「…?」
響「どこから“とってくる”つもりじゃ!?」
焔「ガキなんぞ、その辺に落ちているわえ。いくらでも」
響「違う、違う。お前とワシの間の子が欲しいのだ」
焔「………………」
響「…無理か?」
焔「無理はない。…では、そうしよう」
響「…?」
『なんだ…大丈夫なんだ…』
それからしばらく。
焔「ホレ、やや子」
無造作に放ってよこされ、ワシはあわてて受け取った。
響「…オイ」
焔「なんぞ?」
やや子をワシに預けたお焔は、いつも持ち歩いている扇で口元を隠す。
響「どっから持って参った? 今すぐ返してきやれ」
焔「なんで?」
響「なんでじゃなくて、よその子を勝手に連れてくるのは…」
お焔は我らと少々違っていた。
人でないのだから、人の理(ことわり)に従う由(よし)もない。これがお焔の言い分で、それは確かにそうなのだが…。
共に暮らすなら、こちらの理に従ってもらわねば困る。…と、説き伏せたのが先日。
焔「それはいかぬと前にも聞いた」
響「理解してくれたか。では…」
焔「己とお前様のややだ。これで文句なかろ?」
煙草をうまそうにひと吸い。
響「待て。お焔。あの話からひと月も経っておらぬし、お前が腹を膨らませたのを見た試しがない」
焔「そのようなことを申されても……」
響「……………」
焔「気に食わぬなら、捨ててこよか?」
響「いやいやいやっ! 待て待て、早まるなっ!」
人でないお焔を相手に話すのは、それなりの苦労がいる……。