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響く炎:4
2007.12.31 |Category …箱庭の君 短編2
そこまでせねばならぬこの魔性は、どんなにか強大な魔物だったか…
ワシは冷たい汗が噴き出るのを感じていた。
響『あの声は、この女だ…。封印を解いてしまったのか…? ワシが…?』
「くそっ…」
魔性「よくあそこまでたどり着いてくれた…。さすがだな」
響「うるさいっ! よくもたばかってくれたなっ!」
魔性「異なことを…。己(おれ)はたばかってなどおらぬよ。ただ、在かを教えただけ。それにお前、助かったろう?」
響「おのれっ!」
魔性「力のなくなった我の声を受け取れる者は少ない…。受けたとしてもあそこにたどり着く前に殺される…。お前はよくやってくれたよ」
響「ああ、そうだろうともさ。ワシは加賀美家が当主、加賀美 響だからな! 今、貴様も冥土に送ってやる。そこにつながれたままでは不憫(ふびん)だろう」
『とどめを刺してやるぞ、化け物め!』
魔性「哀れと思うなら、解放しておくれな。ずっとここにいていい加減、退屈だったんだ」
響「ふざけるなっ!」
▽つづきはこちら
魔性「ふざけてなどいない。人の勝手でこんなところにつながれて、可哀想だとお思いでないかい?」
響「何故、お前のような妖(あやかし)に情けをかけなければならんっ! 貴様が悪さをしたから封じられていたのであろうがっ」
魔性「悪さ? 己(おれ)に今、会ったばかりで何故そう言える?」
響「…うっ…それは…」
魔性「それは?」
響「それは、魔物は悪いに決まっている!」
魔性「誰が決めた?」
響「ええいっ! そんなことは知らぬっ! 重箱の隅をつつくような設問はやめいっ!」
魔性「それでは困る。己は人間ではないのだから、人間の作った決まり事などわからぬし、従う由(よし)もない」
響「しかし、ワシは人よ!」
魔性「…なるほど。人とは初めて会うた者を礼もなく斬り捨てるが正しいというか…」
響「…ナニ…!?」
魔性「まぁ、それもよい。今ならできよう。己も力を吸われ続けておるでな。けれどこちらも生きるためだ。最後まであがらわせてもらう」
響「…ふん、そんな縫い止められた姿でか?」
魔性「そうさ。だって、仕方ないだろ?」
響「フッ…気の強い女子(おなご)は好きだぞ?」
鼻の先で笑ってやった。身動きできずにどうするつもりなのか。
ワシは一歩、二歩近づいて女を見据えた。
魔性「……なぁ。見なよ、」
響「…ん?」
魔性「この桜の花を」
響「………………」
見上げる。
魔性「桜だけじゃないよ。ホラ、足元にも」
響「…………」
言われるままに、足元を見る。
魔性「真っ赤な彼岸の華」
桜と魔性だけに気をとられていたが、見渡せば確かに一面の赤。
響「…桜と彼岸の華が共に咲くなんて…っ!」
驚きを隠しきれずに、思わず叫んでしまう。この美しくも異様な風景に。
魔性「ここは季節ナイ桃源郷。赤い花だけ咲き乱れる理想郷。己がここにつながれている限り…。血を流す限り…」
響「………………」
『人間の勝手でつなぎとめられた……』
斬る。
…何故?
魔性だから?
それは、何故?