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響く炎:3
2007.12.31 |Category …箱庭の君 短編2
今は紅葉の季節も終わり、冬将軍が足音を立てて近付く頃。
それなのに、ひとひら。
……また、ひとひら。
誘われるようにして、ワシは力無く花びらの向かってくる方へと歩きだした。
そこで見たものは、
なんと……
響「魔性かっ!?」
なんと、開けた場所に大きな古い桜の木がぽつんと立っており、しかもそれは満開に花開いているではないか。
そして…
刀を構える。
▽つづきはこちら
魔性の者「…なればどうする?」
赤い唇が薄く開く。
響「斬るっ!!」
満開の老木に捕らえられていたのは、女…!
桜の幹に手足を埋もれ、数本の矢で縫いとめられ、なおも生きているその女は魔性の者に違いなかった。
そいつはワシの答えに問うた。
魔性の者「何故…?」
響「…え。な…何故って…それは…妖(あやかし)だから…え…アレ…?」
思わずワシは言葉に詰まってしまい、少し考えてから何を迷ったのだろうと頭をふる。
鬼は斬るに決まっている。それに、
響「貴様が鬼の大将だなっ!? 鬼はワシが消し去ったぞっ」
魔性の者「…知っておる」
響「…フン。もはや手下はおらぬようじゃな!?」
魔性の者「違うな」
響「ん?」
魔性「あれらは己(おれ)を封じ込めるために人が作った鬼よ…」
響「…なんだと!?」
魔性「己(おれ)は人に封じられし者…。この老木も…」
響「……………」
桜を見上げる。
魔性「この矢も…」
響「……………」
女の体に突き刺さった数本もの矢に視線を落とす。
魔性「あの鬼も…」
響「……………」
魔性「我を二重、三重に封じ込める策」
響「…まさか…」
嫌な予感がした。
魔性「そうさ。鬼の札を破ってくれてありがとうよ」
響「…あの声は…」
そう。あの鬼は、霧は。
無知の人間が入り込んで、この者の封印を解かぬように守るためのものだったのだ。
だから鬼共は人里には降りてはこなかった。この山に立ち入る者だけを殺し歩いた。
……人を守るために。