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響く炎:5
2008.01.01 |Category …箱庭の君 短編2
魔性「お前が終わらせる? 散らない花を散らせて見せる? それもよい」
響「………………」
魔性「さ、どうする? 首を持ち帰れば、褒美は思いのまま…」
響「………………」
魔性「けれど、己を解放してくれりゃあ、己が願い事をかなえてやるよ?」
響「…!」
魔性「どうする、お前さん? 人がかなえてくれる褒美なんかたかが知れてるじゃあないかえ?」
響「………………」
『それは…そうだ…………いや……』
「…………あ……」
「甘く見るなっ!」
声を聞かぬように、短刀を素早く抜き放って、魔性の首に片手をかける。
響「そんな口車に乗るとでも思うたか、化け物!!」
▽つづきはこちら
魔性は言う。
“タダシ、願イ事ハ、一ツダケ”。
響「………………」
「…く…」
ワシは、一番してはならないことをしてしまっていた。
お前は魔性の者に出会って、まず一番してはいけないことを知っているだろうか?
それはな、話を聞いてしまうコトなのさ。
魔性に応えてはならぬ。
魔性は、あの手この手で心の隙をつくのだから。
知らぬ間にだまされて、魂(タマ)までとられちまうって話だ。
……それなのに。
ワシはこの者を見た瞬間に、もう自分から話しかけていた。
これこそがすでに術中だったのかもしれない。
桜を見たときから、いや、声を受け取ってしまったときにはすでに遅かったのかもしれない。
響「………………」
短刀は振り下ろされず、首にかけた手は相手の細アゴを持ち上げる。
ワシは、この魔性の正体が知りたくなったのだ。
乱れた黒髪の合間から、やはり漆黒の瞳が覗く。
響「……願い事は一つだけか?」
そう尋ねたワシに、勝ち誇った笑みを浮かべるのは魔性。
人がいかに目の前の欲望に弱いかを知っているのだろう。
ああ、そうだ。妖というのはそういう輩だ。
そうやって人を滅ぼしてきたのであろう。
……だが、いつも人が滅ぼされるとは限らない。
何しろ、我は加賀美 響。
お前の術にハマッてやろう。
我が願い、とくと聞け。
響「ではそこから解放してやるから、ワシの望みをかなえよ、妖」
魔性「よかろ。さぁ、何が欲しい?」
真っ赤な毒の華が咲くように。壮絶に微笑する魔性の者。
それはワシの全ての意識を奪う。
響「言うぞ」
魔性「…ああ」
響「……………………………………………………………………嫁になってくれ」
………………。
魔性「………………」
響「…………………」
木魚、ぽくぽくぽくぽく……ちーん。
…終了。