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響く炎:12
2008.01.04 |Category …箱庭の君 短編2
焔「これは己(おれ)宛だ。勝手に読むでないよ」
響「オイオイ、いいじゃねーか。何て書いてあったんだよ?」
焔「己にお前さんから手を引けと。お前では響殿に釣り合わぬから実家に帰れとな」
響「……………」
焔「金子も包まれておったぞ?」
響「何だって!?」
焔「やるな、この色男っ♪ あははははっ」
響「……笑い事かよ」
焔「返事を書こう。下賎の者は、帰る実家もございませんとな」
響「金も返しておけよ」
焔「わかっておる。己は金目に興味はない。光り物なら好きだけど」
▽つづきはこちら
それからしばらく経って、深之殿はまた手紙をよこした。
先日は失礼したとお焔に対しての詫びの文であり、ワシはホッとした。
深之殿は永きに渡った道ならぬ恋に敗れて気が動転していたと。
焔「…ふん、どーだか…」
響「いいじゃないか。ともかくこれで一件落着っと♪」
焔「まぁいいけどね。でも己を自分の館に呼びたいって何だろう?」
響「何だ、そりゃあ!?」
焔「お前様が惚れた女と一度会って話がしたいそうな」
響「…そうかでは一緒にゆこう」
焔「いいやダメだ」
響「何故っ!?」
焔「だってこの日はお前様、和成に呼び出しくらっていたろう」
響「“様”をつけろよ、“様”を!」
焔「様」
響「よしよし。…では、帰りにその足で、お前を拾って共に戻ろう」
焔「ではそうしよう」
正直。ワシは心配でならなかった。
詩腥様への仕打ちを思えば、このお焔にも何をしてくるかわからない。
だが深之殿から直々のお呼びとなれば断れる身分でもなし。
お焔が言うには、行き先がわかっていてそこで客が死んだなら、疑いかかるのは深之だからさすがにそれはないだろうとのこと。
言われてみればそうかもしれぬ。
それで安心はしていたのだが…
訪問を終えて…
焔「よう山賊が出るところよな」
響「賊が出やったかっ!? それでっ…」
焔「…ああ。覆面の侍姿の山賊よ。間抜けにも家紋が見えておったがな」
響「……………」
焔「それに、毒入りの酒はうまかったぞ」
響「…っ! おいっ…」
焔「…そう青ざめるな。我を何と思う?」
響「……………化け物」
そうだった。
忘れていた。
コイツは、妖だったんだ…
しかし…。
間違いなくこのお焔を亡くすつもりでおったのだ、深之殿は。
恐ろしきは女子(おなご)の執念か…
まぁ…恐ろしいといえば、ウチの家内もアレなのだが…
その侍共がどうなったのかは、あえて聞かぬこととした。
響「だが、許せお焔。ワシのせいだ。ワシがハッキリとした態度を示さぬから…」
焔「なに、気遣いはお前さんの良いところ」
いつもの扇で口元を隠す。
響「…お? なんだ、今、褒めたのか?」
焔「…気のせいだ」
響「いや、今確かに言ったぞ。なぁ、もう一度言ってみ?」
焔「…忘れた」
響「なぁ、オイ」
焔「しつこい」
響「つれぬ奴よな、何年経っても」
焔「…そうでもない」
振り返って、意地悪く笑う。
ホラ、いつもズルイ。
………女は、魔性だ。