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響く炎:9
2008.01.03 |Category …箱庭の君 短編2
深之「十音裏、会いにきてやったぞ」
離れにある蔵の鍵を開けると、真っ暗な部屋の中で、壁に名を刻んでいる子供が一人。
眩しそうに目を細めて振り返る。
響「…これが…鬼子…?」
十音裏「……………」
十音裏…様は、陶器でできた儡人形(でくにんぎょう)のようだった。
色のない顔からは表情が消えうせ、死人のように濁った瞳には希望の一欠けらもない。
響く炎:8
2008.01.02 |Category …箱庭の君 短編2
……どうやらワシとアレの子であるらしいソレを、我々は京の次で京次と名付けた。
本当はワシの子だから、「響次」にしようかと思ったが、「京」の方が華やかだと思い、そうなった。
だが、ワシはあまり自分の子だとは信じてはいなかった。
一月(ひとつき)くらいで「ハイ、赤ん坊ができました」って……んな無茶な話があるか。
浅漬けじゃないんだぞ!?
しかし、そうと言われたからには、どこかに捨ててくるワケにもいかず、テキトーに育てることになった。
だが。
響く炎:7
2008.01.02 |Category …箱庭の君 短編2
焔「お前様は、ほんに変わっておるわえ」
響「何がじゃ?」
焔「己(おれ)を嫁にして、願いをいくつも叶えさせようって腹かい?」
響「……おっ。そんな手もあったなぁ? お焔、お前は頭がよい」
焔「……はっ。では何を思うて、せっかくの願いをこのようなことに……」
響「せっかくの…って…。願いは一つだなどとケチなことを言うから……。初めに思いついたままを口にしただけよ」
焔「…あきれた」
響「……………」
焔「お前様のような馬鹿者は初めて見たよ」
響「珍しいなら、得したな?」
焔「……………」
嫁さんを手に入れたから、しばらくはその膝(ひざ)でのんべんだらり。
周囲の者共がうるさく言ったが、もう祝言も済ませたし、言われる筋合いもない。
あとは……
響く炎:6
2008.01.01 |Category …箱庭の君 短編2
………………えー。こうして、ワシは…
響「無事に帰ってこれたワケだが」
配下の者「………………」
響「ワシの葬式があの翌日に終わったってどーゆーコトだ!? …説明してもらおーか?」
配下の者「いや、響様があまりのお覚悟だったので、お帰りにはなりますまいな…と」響「七日は待てと言ったろうがっ!!」 相手の首を締め上げる。
配下の者「いやいや、今日は8日目でございますれば~……」
響「たわけっ!! 葬式はそのずっと前に終わっておったではないかっ!!」
配下の者「備えあれば憂いなし! 次に討ち死にされたときには葬式をせずに済みますな。いやはや…」
響「いやはやじゃねぇっ!! 次に討ち死にするときってのはどんなだっ!?」
女「…お前様…」
配下の者「…ほ? 何ですな、そこな汚い女は?」
響「おお、よくぞ聞いてくれた。これはだな、我が妻の…………」
言いかけて、はたと気づいた。
名前なぞ聞いておらなんだ。
響く炎:5
2008.01.01 |Category …箱庭の君 短編2
魔性「お前が終わらせる? 散らない花を散らせて見せる? それもよい」
響「………………」
魔性「さ、どうする? 首を持ち帰れば、褒美は思いのまま…」
響「………………」
魔性「けれど、己を解放してくれりゃあ、己が願い事をかなえてやるよ?」
響「…!」
魔性「どうする、お前さん? 人がかなえてくれる褒美なんかたかが知れてるじゃあないかえ?」
響「………………」
『それは…そうだ…………いや……』
「…………あ……」
「甘く見るなっ!」
声を聞かぬように、短刀を素早く抜き放って、魔性の首に片手をかける。
響「そんな口車に乗るとでも思うたか、化け物!!」
響く炎:4
2007.12.31 |Category …箱庭の君 短編2
そこまでせねばならぬこの魔性は、どんなにか強大な魔物だったか…
ワシは冷たい汗が噴き出るのを感じていた。
響『あの声は、この女だ…。封印を解いてしまったのか…? ワシが…?』
「くそっ…」
魔性「よくあそこまでたどり着いてくれた…。さすがだな」
響「うるさいっ! よくもたばかってくれたなっ!」
魔性「異なことを…。己(おれ)はたばかってなどおらぬよ。ただ、在かを教えただけ。それにお前、助かったろう?」
響「おのれっ!」
魔性「力のなくなった我の声を受け取れる者は少ない…。受けたとしてもあそこにたどり着く前に殺される…。お前はよくやってくれたよ」
響「ああ、そうだろうともさ。ワシは加賀美家が当主、加賀美 響だからな! 今、貴様も冥土に送ってやる。そこにつながれたままでは不憫(ふびん)だろう」
『とどめを刺してやるぞ、化け物め!』
魔性「哀れと思うなら、解放しておくれな。ずっとここにいていい加減、退屈だったんだ」
響「ふざけるなっ!」