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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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妖絵巻番外編 1番の価値。:5

 割りとお人よし。
 無理やり先生から聞きだした情報を整理してみると、高校一年で恋してその翌年にフラレて、でもずっと好きだったみたい。
 うーん。気まずかったろうなー。その後の学校生活。同じクラスだったというし。
 忘れたフリして普通に過ごしてたんだろうけど。
 片思いの彼女さんには好きな人がいて、その人しか見てないから、先生は初めから眼中になかったとか。
 初めからそれもよくわかっていたけど、フラレるのがわかってて気持ちを伝えたのはその人に自信を持ってもらいたいとかそういう考えとかもあったみたい。
 そういう風には言ってなかったけど、言葉の端から。
彼女、どうも身体の弱い人だったらしいの。
 それでやっぱりちょっと自信のない子だったみたい。
 だから、君にはこんなにいっぱいの価値があるんだよ、少なくとも自分にとっては。
 そういう気持ちを伝えたかったんだろうね。
 例え気持ちを受け入れなかったとしても、他人からそこまで想われたっていうのは、誇りになるもん。
 価値を認められるってそういうことだし。
 


▽つづきはこちら


「ま、結局、何の力にもなれなかったし、俺から想われても大してプラスにはならないだろうけどさ。ちょっとはイイ気になれるだろ。……いや、逆に迷惑だったかもしれないけど」
「そんなに想われてたのに……。その人、先生を選ばなくて失敗だよ!」

 先生びいきのアタシは肉まんをほおばりながら、口を尖らせた。

「いや、大正解じゃないのか。好きな人と一緒になったんだから。すごかったぞ、プロポーズ。学校違う上に、1学年上だから、全然ウチの学校と関係ないのに、卒業式に乱入してきて体育館のマイクぶんどって、プロポーズだからな」
「ゲッ。漫画ですか、ソレ」
「相手の返事も聞いてないのに、OKだと思い込んでしゃべっている辺りがスゴイんだよ、アイツは。あれこそ真の自信っつーんだろうなー。その出所がかなーり謎だが。……赤い薔薇の花束をトラックで運び込んでくるし。当人たち意外はドン引きだった」

 懐かしむと言うよりは、頭痛にでも襲われたような苦い表情で先生はこめかみを抑える。
 彼女さんの旦那になった人、どんだけっ!?

「それって先生を遥かに上回る変な人だよね!?」
「常識で量っちゃダメな相手だ。何もかも規格外だからな。そんなのとマトモな俺を比べるな」
「うはぁ~。でも彼女さんはその人が良かったんだ? 変なのに」
「そう。人の気持ちってのは、理屈じゃないからな。それに、相手の旦那さん、変だけど、いい人さ。彼女はあの人と一緒になって良かったんだよ。幸せでいてくれるならそれが一番。一番、……この世で一番幸せになってもらわなきゃ」

 身体の弱い彼女さん……ひょっとして、長くないのかな。
 それとも先生の感傷から?
 今、なんだかとても…………

「ベクトルが向かない方には、どうあっても向かないものさ。やんわり優しく、俺が傷つかないように気を使って断ってくれだけど、例えあの人がいなくてもきっと彼女は俺の方に向かなかったと思うよ」
「そんなぁ」
「道が平行で、交わる接点がない。……お前もそういうことにして、忘れちゃいな。特にそんな相手の欠点を並べて自分の言い訳にするようなペライ奴なんかな。……ていうか、だいたい、中坊でカレカノとか早いんだよ。ちょっと前までランドセル背負ってたクセにー」
「先生はっ」
「んだよ。2年前の小学生」
「先生は今でも彼女のこと、好き?」
「……なんて答えて欲しいんだ?」

 アタシのいい所を見つけてくれた彼は、アタシの嫌なところを突きつけて去っていった。
 アタシにも悪いところはあったと思う。
 でも何もすぐに美羽ちゃんと付き合うことはないと思う。
 事情を知っていた男子に後から教えてもらったんだけど、美羽ちゃんから告白して、奥田君はまだアタシと付き合っていたのにOKしちゃったんだって。
 やっぱり可愛い子から告白してきちゃったら、グラつくものなのかね。
 男の子全部が、キライになっちゃいそうと思ったけど、先生の話を聞いていたら、ちょっとホッとした。
 一途でいてくれる男の人もちゃんと生息してるんだ!

「一途とかキモイことゆーな。いいか、一途っていうのはな、相手のことに多少でも好意がある場合においてのみ、有効な言葉だ。悪くない相手だと思えば一途という言葉で装飾・美化されるが、相手をキライであってみろよ。たちまち一途って言葉がしつこいとかストーカーとかキモイとかに早変わりだぞ」
「じゃあ先生、キモイ人?」
「……見ようによってはしつこくてキモイ人だろうよ。言っとくけど、フラレた後は付きまとったりしてないからな。卒業以来会ってないし、会うつもりもない。用があれば別だけど、用が出来るとも思えない。ちなみに何年も経ってまで未だに感傷に浸るほどロマンチストでもないしな」
「えーっ!? ショックー。まだ引きずってて欲しかったのにー」
「なんでだよ。お前がしつこく聞くからしょうがなく話しただけだ。今は昔の話だよ」
「21でジジクサー」
「黙れ、ランドセル」
「ランドセル呼ぶなーッ! ……アタシ、先生だったら、即OKなんだけど?」
「俺は御免だね。2年前のランドセルなんか」
「だからランドセルって呼ばないでってば!」




 3年生になったアタシはあの二人と別のクラスになってホッとした。
 あまり顔を合わせなくなったし、美羽ちゃんに電話もしなくなった。
 アタシの心の傷は思ったより浅かったのか、それとも先生が浅くしてくれたのか。
 割りと立ち直りは早かった。
 ベクトルが向かない方には、どうあっても向かない。残念だけど。
道が平行で、交わる接点がない。だからしょうがなかった。
 無理やりではあるけど、忘れるためには有効な呪文だ。
 しばらくするとアタシも薄情なのかな。
 どうやら先生のことが好きなのではないかと意識しだした。
 初めはあんなに嫌だったのに、いつしか来てくれるのが待ち遠しくなっていたし、あれだけ苦手だった数学も苦じゃなくなってきた。
 ひょっとしたら、もっと前から好きだったかもしれない。
 こんな風に考え出したら、夏休みを目前にして先生がぷっつり。来なくなってしまった。
 嘘でしょう?
 アタシの態度で気持ちがばれちゃったのかな?
 嫌になって来なくなっちゃったのかな?
 それとも病気? 病気だったらお見舞い行っちゃおうかな?
 お母さんに聞いてみたら、

「お父さんがね、文ちゃんも成績上がったし、もう家庭教師はいらないだろうって……」
「待ってよ! それでクビにしたの!?」
「クビってワケじゃないけど……。ホラ、古賀君も4年生だから大変でしょう?」
「先生が辞めたいって言ったの?」
「……そうは言ってないけど……お母さんはね、これからが本番の受験なんだからってお父さんには言ったんだけど……。古賀君、いい子だし……でも……」
「酷い、お父さんなんか大嫌い!!」

 引き離されたと思ったら、無性に会いたくなって、会わなければいけないような強い気持ちに突き動かされる。
年賀状出したいと無理やり免許証を取り上げて写した住所を頼りにアタシは見当違いな行動を起こす。
 先生……ただの学生アルバイトの家庭教師の家を直接、訪ねていこうとしたのだ。
 ニコニコマートで野菜と肉とお魚買って、カゴにぎゅうぎゅう押し込んで。
 相手の迷惑なんか考えず、この行動が喜ばれるものだと信じて疑わず、まして先生が一人ではない可能性があることなんか、頭の隅にもなかった。
 先生は一人だから、満足なものを食べていないに違いない。
 先生はアルバイトするくらいだから、きっと極貧でキャベツだけかじって生きているに違いない。
 男の人だから部屋は汚いだろう。
 掃除してあげたらきっと助かる。
 色々考えて自転車をこいでいたら、なんだか楽しくなってきた。
 ボロいアパートを見つけて、鉄製の階段をカカトで音を立てながら軽快に上がる。
 奥から2番目。
 たぶん、ここ。
 チャイムを押したけど、なかなか出てこない。
 留守かな? そしたらちょっとガッカリだ。
 テンションが下がりかけたとき、ドアが開いた。
 でも、

「あ、あれ?」

 現れたのは、知らない女の人。

「す、すみません、間違えました」
「? そう?」

 閉じられたドアを見つめる。
 ここじゃないの?

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