忍者ブログ
NinjaToolsAdminWriteRes

ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

HOME ≫ Entry no.1675 「妖絵巻番外編 1番の価値。:4」 ≫ [1683] [1680] [1678] [1677] [1676] [1675] [1674] [1673] [1672] [1670] [1669]

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


妖絵巻番外編 1番の価値。:4

以前までは奥田君がいなかった。それでも退屈なんて感じていなかったはず。
なのにその時間に何をしていたのか、ちっとも思い出せないの。
仕方がないから、古本屋にでも行こう。
面白い漫画を発掘するのもいいし、ゲームが安かったら買ってしまおう。
とにかく何か気を紛らわせてモヤモヤした気持ちをどこかにやっちゃわなきゃ。
靴を履いて、街に繰り出す。
自転車を店の駐輪場で止めてキーを抜いたら、仲の良いグループの子たちがナナメ向かいのゲーセン前に群がっているのを見つけた。
プリクラ写していたり、UFOキャッチャーで白熱していたり。
いいところにいるじゃない。
アタシも混ぜてもらおうと駆け寄ろうとして、あることに気がついてしまった。
どうして誘ってくれなかったの?
少なくとも電話、午前中にかけたはずだよね?
予定が入ってるって断られたよね?
予定って、皆と遊ぶことならそう言ってくれればいいのに。
一緒に誘ってくれてもいいのに。
 


▽つづきはこちら

考え過ぎだったかもしれないけど、急激な孤独感が襲ってきて、アタシは泣きたくなってしまった。
古本屋に入るのをやめて、急いでこの場から逃げ出した。
一人でいるのを見られたくなかった。
友達から誘われていない自分が猛烈に恥ずかしかった。
どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
誰かに話を聞いて欲しい。
そんなのヒドいよねって一緒に憤慨して、気持ちに同調して欲しい。
慰めて欲しい。
がむしゃらに自転車のペダルをこぐアタシ。
踏み切りに差し掛かったとき、進行を邪魔してバーが降りた。
電車が通り過ぎるのを待つのももどかしく、この間に電話を取り出して、美羽ちゃんの番号を押した。

「ねぇ、夕方になってからでもいいから、会えない?」

 美羽ちゃんにはもちろん、初めに電話をかけていた。
 用事があると断られていたから、夕方でもいいとお願いした。
 ……そしたら。
 聞こえちゃいけない声が後ろから入ってきていた。

「誰?」

 見知った少年の声。
 忘れもしない、このつい最近なのに懐かしく聞こえるその遠い声は。
 なんでそこにいるの。
 春休みにどうして一緒にいるの?

「あ、うん……友達」

 美羽ちゃんが少年の声にそっと答える。
 重量のある電車が目の前を横切って、冷たい風が髪をかき回していく。
 電話の声が轟音にまぎれて聞こえなくなったが、もう関係なかった。
 ゆっくりと携帯電話を折りたたみ、カバンに突っ込む。
 アタシなんか、事故に遭えばいいんだ。
 そしたら皆がきっと後悔する。
 アタシに冷たくしたこと。
 涙が後から後からこぼれた。
 ずっと春休みならいいな。
 もう学校に行きたくないな。
 アタシはある日突然に、世界中から嫌われてしまったみたいだった。
 思い当たる節はあったの。
 アタシが奥田君に夢中で、彼の話しかしなくなって、友達からの誘いも断って彼との時間に全部宛ててた。
 友達は寂しがってくれていたけど、それさえも心地よかった。
 じゃーねって友達の電話を早く切るのが、彼氏がいる特権みたいに思っていた。
 だからとうとう嫌われちゃった。
 全部、自分が悪いんだ。
 発展性のない考えをグルグル無駄に巡らせていたら、道の溝にタイヤがハマッて転んでしまった。
 そんなに痛くなかったけど、泣きたくなってうずくまった。
 見知らぬおばさんが気づいてくれて、大丈夫とかけてくれる声が温かくてまた泣きたくなった。
 それでもアタシはお礼を言って大丈夫なフリをした。
 心配されるのも情けなくて辛かったから。



「先生って、恋したことある?」
「……は?」

 翌日、先生が到着するなり聞いてみた。

「バカなコト言ってないで始めるぞ」

 マフラーを外して、カバンの上に放る。
 でもアタシは話し続ける。

「アタシ……奥田君にフラレちゃった」
「ふーん? でもそれと数学は関係ないからな」
「アタシ、ウルサイかな」
「ウルサイな」
「ウザイ?」
「別に」
「友達に付き合い悪くなったって言われたって」
「あ、そう。じゃあ始めるぞ。宿題あるだろ」
「先生!」
「んだよ」
「先生、本当はモテたでしょ?」
「本当はってどーゆー意味だ」

 彼女ができないとか散々言ったけど、本当はわかってるよ。
 頭良くて運動できて、剣道部の主将だったり生徒会だったり、モテないワケないよね。
 多少性格に難ありだとしても。
 優しいところもちょっとはあるし。
デリカシーが致命的だけど。

「男の人って、彼女と別れた後、すぐに他の子と付き合ったりできるものなの?」
「……まるで俺がそれをやったみたいな質問やめてくれる?」

 先生は肩をすくめてノートを開く。

「男の人っていうか、その人によるんじゃないか?」
「先生は? モテる先生は彼女なんかよく取り替えてたりした?」
「……あのさ。俺、どんだけイイオトコなワケ? 残念だけど、さほどでもないから」
「じゃあフラレたことある?」
「ありますよー。ありますとも。満足ですか~? フラレ仲間できてよかったな。ほら、とりあえず宿題出せよ、宿題」

 トントンと机の上を叩く。
 でもやっぱりアタシはそれどころじゃない。

「どうしてフラレたの? ウルサイと思われたの? メールとか電話、多すぎ? デリカシーないから? 口が悪いから? 性格がねじれて複雑骨折して手の施しようがないから?」
「知らないっつーに。相手じゃないんだから。そもそも付き合ってすらいなかったんだ。メールも電話もしなかったよ。用事があるとき以外はな」
「片思いのままだったの?」

 それは意外。先生を振るなんて、どんな女性だったのだろう。

「悪かったな」
「いつ? いつ? 最近?」
「いいから、宿題」
「その人はどうして先生ダメだったんだろう。今は誰かと付き合ってるの?」
「あのなぁ……カンベンしてくれよ、いいだろ。人の話なんか」

 ちっとも宿題をやる気配のないアタシに先生はがっくりうなだれた。

「ハァー……彼女には好きな人がいて、今は結婚してます」
「結婚!? 年上なんだ?」
「同い年デス」
「えっ、じゃあ21で? 早いね!」
「18で。高校卒業と共に結婚しました。……もういいだろ」
「告白した?」
「あのさー。そろそろマジ手をつけないと時間なくなるんだけど」

 お話をしてくれることを条件にとりつけ、アタシはようやく宿題にとりかかった。
 何で自分がそんな約束させられなきゃならないんだと先生はブツブツ言っていたけど、アタシが集中し始めるとすぐに黙った。
 長期休みは早い時間に来てもらっているため、アタシは買い物をしてくると理由付けて先生を送っていくことにした。
 ただ、おしゃべりしたかっただけなんだけど。
 誘う友達もいなくなっちゃったし。

「肉まん食べたーい」
「何で俺が話したくもない話に付き合わされた挙句に、チャリあるのに押して歩くハメになり、尚且つお前に肉まんなんぞ買い与えねばならんのか」

 文句を並べつつ、買ってくれる先生。

拍手[0回]

PR

●Thanks Comments

●この記事にコメントする

お名前
タイトル
文字色
E-mail
URL
コメント
絵文字 Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
パスワード ※投稿者編集用
秘密? ※チェックすると管理人にしか見えません

●この記事へのトラックバック

TrackbackURL:

≪ 妖絵巻番外編 1番の価値。:5 |PageTop| 妖絵巻番外編 1番の価値。:3 ≫

もくじ ▽

初めましての方へ☆必読お願いします ▽

金魚飼ってます☆ ▽

さらに金魚飼いましてん☆ ▽


ブログ内検索

カウンター

カレンダー

10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

最新TB

フリーエリア


※ 忍者ブログ ※ [PR]
 ※
Writer 【ゼロ】  Design by NUI.T  Powered by NinjaBlog