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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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妖絵巻番外編 1番の価値。:2

 何てタイミングの悪い。

「今日は火曜日だよ」
「わかってるよ。用もないのに行かねーよ」

 ママチャリのカゴを見たら、ニコニコマートの袋に生活用品が詰まってた。
 ナニ?
 男の一人買出しですか?
 やっぱり彼女いないんだ。はっはーん♪

「ねぇ、先生、一人暮らしだったの?」
「うん? ああ」
「今度、何か作りに行ってあげよっか?」
「……何か? 粘土細工だったらいらないぞ」
「何でそこで粘土やねんっ!?」

 不審な目を向けてくる先生にツッコミを入れたら、横でやりとりを見ていた美羽ちゃんが笑った。
 いっけない。
 美羽ちゃん忘れてた。

 


▽つづきはこちら


「あの、こんにちは。初めまして。私、文ちゃんの親友の美羽です」
「……? ああ、どうも」

 二人の会話を邪魔したかなと言って、先生はまた自転車のペダルを踏んで退散した。
 完全に姿が消えると美羽ちゃんは、急にアタシの方を向いて力強く宣言。

「私も家庭教師、やってもらおうかな!」

 え? 気に入っちゃったわけ?
 アレを?
 ……知らないよ?
 いいのは外見だけで、怖いよ? 厳しいよ?

「いいよ。名前、なんていうの?」
「えっと……」

 外見や性格と全く似合わない可愛い名前。
 初めは、男らしく、カズというのかと思ったら、ちっとも和まない、ナゴミの方だった。
 笑えるって言ったら、珍しく照れてウルサイ、黙レと怒った。

「へー。古賀 和さんっていうんだー? 猫みたいな名前だね」
「猫?」
「猫がコタツで丸くなる、和み~♪ みたいな」
「えー。全然そういうタイプじゃないからぁ~」

 和まない。
 一緒にいても、まず相手は和まない。
 緊張はするかもしれないけども。
 猫と言えば、猫系の顔はしている。特にアーモンド形の目が。
 性格も人に寄らない孤高の猫。
 でもでも、美羽ちゃんが思っている系の猫ちゃうから。
 絶対にガックリするよぅ。

「和さんの番号教えて」
「えっ!? どうして?」
「家庭教師お願いするの」
「ち、違うよ、直接じゃなくて、派遣元に連絡しないと」
「あー、そっかぁ。指定とかできるのかなぁ?」
「ちょっとぉ~。美羽ちゃん、もう塾行ってるじゃない、無理だよー」
「うん、お父さんに頼んでみる」

 美羽ちゃんと別れてから、アタシはちょっと嫌だなって思った。
 どうして嫌だと思ったのかわかんなかったけど、なんとなく……
 ううん。本当は、理由なんて簡単だった。





 水曜日。
 汚いアタシは先生に言いつけて、お願いした。

「美羽ちゃんの家庭教師にならないでよ、先生!」
「……ハァ? 何言ってんの、お前?」
「だって……」

 美羽ちゃんは小柄で可愛くて、クラスの人気者。
 成績が良くて、運動も出来て、お金持ちで、スーパーパーフェクトな女の子。
 引き換えアタシは、成績は偏っているし、運動はできない。
 得意とする国語も美術も美羽ちゃんには届いていない。
 名前だって、美羽ちゃんはいかにも可愛らしいけど、アタシは文絵とかいう古臭い名前。
 あだ名なんかヒドイんだよ。
 ブンちゃんだよ、ブンちゃん。フミちゃんじゃないの。ブンちゃん。
 このニックネーム、大嫌いだからやめて欲しいのに、もう皆が言ってるから今更、ヤメテと言い出せない。
 嫌なのに笑顔で返事しちゃう。
 美羽ちゃんのことは好きだけど、同じことはしたくないの。
 だって、どうしたって比較しちゃうから自分が惨めに思えてどうしようもなくなる。
 性格のいい美羽ちゃんにそんなつもりがないことはわかっている。
 周りがタイプの違う私たちを比較していないことも知ってる。
 全部、アタシが勝手に比べて勝手に落ち込んでいるだけ。
 アタシの方が好きって言ってくれる友達だっている。
 なのにアタシは美羽ちゃんと比較する心から逃げ出せない。
 アタシはアタシ、美羽ちゃんは美羽ちゃんといくら心の中で唱えても。
 アタシにしかないいいところがあると数えようとしても指を折ることができない。
 いいところなんて、一つもない。
 こんなに吐き出すつもりじゃなかったのに、次から次へと溜め込んでいた醜悪な想いが溢れ、流れ出ていく。
 こんなところを見せたら、嫌われちゃう。
 どうしよう、どうしよう。
言い連ねているうちに感情が中から迫り上がってきて、いつの間にか泣き出してしまっていたアタシに先生が言った。

「……お前は自分が嫌いなんだな」

 アタシはしゃくりあげて、会話することもままならず、ただ頷く。

「奇遇だな。俺もあまり自分が好きじゃないよ」

 思ってもみなかった言葉にアタシは驚いてグシャグシャになった顔を隠すことすら忘れてそちらを向く。

「お前と違って、成績の一番は取ってたけど」

 イヤミを付け加えないでいられない先生に思わず笑いが漏れた。

「一番取れても自分を好きになれないの? そしたら、どうすればいいの?」

イヤミな自信家の先生が自分のことを好きじゃないなんて、驚きだ。

「さあ。わかっていたら、俺もきっと自分が好きだっただろうな」

 高校時代、部活は剣道で主将も務めたらしい。
 クラス委員もやったことがあって、学級委員も経験して、生徒会もやって……
 アタシから見れば、花形人生だ。
 それなのにどうして自分が好きじゃないの?
 それって贅沢でしょ?

「そんなに自信家なのに?」
「おベンキョーは、ね」
「他も全部スゴイじゃん」
「たぶんだけど……」

 先生は机においてあったアタシのノートを開いて目を落とした。

「一番認めてもらいたい人から、存在を認めてもらえたら、変わるんじゃないかな」
「ナニ、ソレ?」
「でも本当は、その一番認めて欲しい人に認めてもらえてなくても、他に必ず評価してくれている人がいる。その認めてくれる人からの評価を否定して、自分なんかって卑下するのは、とても失礼なことだ。だって、欲しいのはオマエの言葉なんかじゃない。オマエの評価なんか無価値だ。あの人の言葉以外はいらないって言っているようなものだからな」

 ……うーん。
 わかるようなわからないような。

「文絵、か……」
「うん?」
「俺はいいと思うぞ。文と絵だろ。文学と芸術。……国語と美術だっけか。得意は?」
「え、あ、うん。あと割りと家庭科……かな」
「そっか。名前どおりに育っていいじゃないか」
「そ、そうかな……」

 この名前を褒めてくれるのは、おばあちゃんくらいだっから、少しくすぐったかった。

「小説、完結したら俺にも読ませるよな。絵もなかなか上手いぞ」

 ………………エ? 絵? 小説……?

「…………ぎっ……ぎゃあああぁあぁあぁ!!!!」

 先生が手にしていたのは、数学勉強ノートではなく、アタシが密かに書き綴っていた挿絵つき小説ノートだった!
 信じられない!!!
 デリカシー!
 この男にデリカシーをっ!!
 おお、神様!!!

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