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妖絵巻番外編 1番の価値。
2009.11.14 |Category …日記
妖絵巻番外編 1番の価値。
数学のテストで赤点取った後の、三者面談。
このままじゃ受かる高校ないぞと学校の先生に脅されて、青くなったお母さんが早速、連れてきた家庭教師。
何の相談もなしで決められて、ちょっと頭にきた。
だって、まだ2年生なんだから、受験なんてまだ先じゃない。
なんで今からやんなきゃいけないの?
やるのはアタシなんだからさーとお母さんに文句を言ったら、来たばかりの家庭教師ったら、こんなことを言う。
「お前が招いた結果だろ。高校合格してから、文句は言うんだな」
……ムカ。
ナニ、コイツ。
根暗そうで、いかにも真面目なお坊ちゃんタイプ。
自分はいつだって正しいです。
現代科学の信者です。
理数系ですと顔に書いてある。
ウワ、イヤなカンジ~!
アタシ、数学とか理科全般……とにかく数字が絡むヤツって大っキライなの!
▽つづきはこちら
週に3回、月・水・金に家庭教師はやってくる。
しょうがないから、最初の数日は真面目にやった。
初対面だし? 一応、ヤバイと思ってたしさ。
だけど、3週目になったら、もう飽きてきた。
だって、この先生、ユーモアとか全然ナイってゆーかさーあ。
「ねえねえ、先生、大学生なんだよね? 何歳なの?」
回転式の椅子をくるり回して、勉強に飽きたアタシが話しかけた。
「……21」
「へー。アタシと7歳しか変わらないんだね」
「……7歳も、だろ」
「大学生でしょ? 卒論とかいいの?」
「まだだからいい」
「先生、」
「おしゃべりはいいから、やれよ」
「飽きちゃって、全然集中できないんだもーん」
「……さっきもそう言って休憩とりました」
甘えた声を出したけど、ダメだった。
あーあ。教師目指しているらしいけど、生真面目一辺倒じゃ、やってけないよ~?
なんて思ったりする。
とにかくお硬くて、一緒にいるだけで息が詰まっちゃうよ、この人。
絶対に彼女いないよ。……顔はいいけど。
「そんなにつまらないか、数学」
「できないもん、つまらないよ。難しいし」
当たり前なことを聞かれて、アタシは口を尖らせた。
面白かったら、赤点なんかとってマセン。
「基礎が出来てないからだろうな。よし、じゃあレベル下げるか。小学生に」
「ナニソレ。ムカ」
「ムカじゃない。オマエは中学生レベルに達してないの。小学生からで充分だ」
グーでおでこをつつかれて、不覚にもアタシはちょっと照れてしまった。
くっそー。
「いいか。基礎がわかれば、今より必ず良くなるから。戻って勉強って、少し遠回りに感じるかもしれないけど、簡単なところから始めれば易しいから、解ける。解ければ嫌にならない。……数字に慣れることから始めた方がきっと早い」
「それじゃあ、次の期末に間に合わないんですケドー?」
「それはその場しのぎで何とかするから、とりあえず、お前がやるのは数字の底上げ。いいな?」
その場しのぎってゆっちゃったよ、この人!
本当にこんなんでいいのぉ~!?
「センセー。ゲームやっていーい?」
「データ全部消していーい?」
「……や、それは困るかな……」
「じゃあ、俺の前では出すんじゃない。危険だぞ?」
「……ウワ」
この家庭教師というのは、アタシには合っていたみたい。
塾には何度か通わされたけど、結局、何人も生徒がいて、学校と変わらないじゃん。
規模が小さくなっただけで。
塾の教室でもやっぱり、アタシはついていけなくて、結局、ワカリマセーンで済んでしまう。
ううん。済んでるんじゃなくて、アタシがやらないから効果が出ないだけなんだけども。
それはわかっているんだけどぉー。
でも自主的に取り組めるんなら、初めから赤点なんか取ってないよ。
その点、家庭教師だと1対1だから逃げられない。
何度か逃亡しようとしたけど、捕まった。
話しかけて時間切れにしてやろうとしたけど、こめかみグリグリされて、それを許してもらえない。
超・強制!
ムカツク。
ムカつくけど、やらざるを得ない。
「あーあ。アタシって何にしてもダメなヤツ」
「何だよ、急に?」
伸びをしながらぼやいたら、プリントのチェックをしていた先生が顔を上げた。
「何をやっても全然ダメなの」
「……得意教科はあるんだろ? 国語と美術が得意って聞いたぞ? あと家庭科だったか?」
「ダメよ、そんなの。他の教科よりはマシってだけで、クラスで1番なのかって言ったらそうじゃないし」
「1番じゃなくたって、得意な方ならいいじゃないか」
「1つくらい、1番が欲しいよ……」
小さく口の中で言ったつもりが聞こえてしまった。
「ふぅん? だったら、数学、1番取ってみるか」
「げっ。そうくる? ムリムリムリムリ! アタシ、絶対無理!!」
あわてて首を振るアタシに、先生はニヤリと笑って、
「次の期末はまだあまり効果は実感できないかもしれないが、また次の中間には今よりきっと良くなってる。その次はもっと良くなる。そのうち、得意教科の一つが増えるから楽しみにしてろ」
そんな勝手なことを言い出す。
んもー、自信家なんだから。
実際にやるのはアタシだよ?
だけど、なんていうか、ちょっと自信が出てきた気がする。
小学生にまでレベル落として、だから解けるようになったのだと頭でわかっていても、マルがもらえるのは嬉しい。
結果。
期末は努力の割にいい成績には思えなかったけど、お母さんは「その調子よ」と喜んでくれた。
「えぇ~!? 夏休みなのに先生来るのー!?」
「うるせーな。ぎゃんぎゃんわめくな。夏休みだからこそだろ」
待ちに待った夏休みなのに、あの男がキター!!
うん、今では結構、好きなんだけどさ。
でもさ。そこは夏休みじゃない。遊ばせてよ。
「美羽ちゃんと約束してんのに」
「じゃあ、ケータイ貸せよ。美羽ちゃんとは絶好よって俺が伝えといてやる」
「ギャア! ヤメテよ、ヤメテよ!! 信じらんない、バカバカー!!」
「んだよ、うるせーな。なら時間に間に合うように集中しろ。集中の儀式だ」
そう言って、またこめかみを拳でグリグリされた。
痛い……
「……っていうワケでさ。ヒドイんだよ、センセーってば」
「でも最近、楽しそうじゃない? 小テストの成績も良くなってきたみたいだし」
そう。
夏休み終えてのアタシの成績は、ぐんと伸びていた。
「エー。楽しそう?」
「うん。その先生の話ばっかりしてるよ。好きなの?」
仲良しの美羽ちゃんと歩いて下校。
「ち、違うよ。口が悪いっていうかさー。結構、傷つくこと、ズバーンって言ってきたりすんのにさー。お母さんの前では礼儀正しいから気に入られてるしさー」
「大学生なんでしょ? カッコイイ?」
「え、ま、まぁまぁ……かな」
美羽ちゃんの意外な質問にアタシは戸惑った。
しかも今度会ってみたいとか言い出して。
「あっ、でも、アルバイトで来てるから遊ぶわけにはいかないし、アタシも勉強しているから来ても楽しくないよ?」
「いいよ、ちょっと見るだけ」
困ったアタシは何とか断ろうと理由を考えていたら、背後から頭を軽く叩かれた。
誰だと勢いに任せて振り返ったら、噂をすれば影。
自転車に乗った先生だった。
「今帰りか? 寄り道すんなよ」
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