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妖絵巻番外編 1番の価値。:3
2009.11.15 |Category …日記
……結局、美羽ちゃんのお願いはお父さんに却下され、そもそも先生は月水金が都合がいいからバイトを入れているのであって、他の曜日は大学で取っている講義とかで無理。
さらに同じ日に別の生徒は時間的に請け負えないことが判明。
そんなことを知らなかったアタシは散々、先生の前で泣き喚いて恥をかいてしまった。
黙っていても何も変わらなかったというのに。
ちゃんと知っていたら、あんなみっともない姿を見せずに済んだのに、あんまりだ。
冷静になってみるとなんて子供っぽいワガママだったことだろう。
次の金曜日は風邪を引いて具合が悪いと嘘をついて、先生に来ないようにと電話をしてもらった。
具合が悪いと思い込んだら、本当に具合が悪くなってきた。
……ような、気がする。
ベッドにもぐっていたら、お母さんと先生の声がする。
ちょっと! 来なくていいってちゃんと電話してくれたの、お母さん!?
しかも玄関で帰ってもらえばいいのにお母さんったら、余計な気を利かせてドアとかノックしてくるし!!
▽つづきはこちら
「あら? 寝ちゃったかしら? さっきまで起きていたんですけど、すみません」
さっきまで起きてたとか余計なこと言わなくていいからっ!
「文絵―? 文ちゃーん? 先生来て下さってるわよー?」
呼ばないでよ、何で起こそうとするかな、病人に!!(仮病だけど!)
寝てます、アタシは寝ています!!
布団を頭からかぶる。
「いえ、構いませんよ」
「そうですか? ごめんなさいね」
「いいえ」
そんな会話をしていたから、大人しく帰ってくれるのかと思った。
さすがに寝ている乙女の部屋には入らないか。
ウチのお母さんよりは、一応、常識あるみたい。
……と、いうのは甘かった!
フッツーにドア開けて入ってくるし!!
ああああ!
アタシにはわかるっ!!
この男に彼女はいない!
断言できる!!
いたとしても、1ヶ月以上は続かないであろうと!!
世の中はどうしてこう不平等なの!?
顔は良くても性格が悪くて、デリカシーに欠けるこの男にはきっと一生、彼女なんてできないでしょう!
いいえ、これは平等と言える?
あれだけ頭良くて運動できるから、デリカシーという能力が絶望的に低いのよ!!
ありえない~!!
でもしょうがないから、寝たふり続行していたら、枕元にコンビニビニールが置かれた。
音から察するに、結構な重さがありそう?
「タヌキ寝入りかよ、この泣き虫が」
………………。
頭の上から、低い声が布団を突き抜けて突き刺さる。
こンのヤロ~!!
アレは忘れるべきでしょ、その場で!!!
乙女の心を言葉のナイフでメッタ刺しにした極悪非道な男は、お母さんにお大事にと頭を下げると今度こそ家を出て行った。
アタシはすぐに飛び起きて、怒りを拳に込め、無実な枕にめり込ませる。
しばらくわめき散らしてから、ふと先生が置いていったコンビニの袋に目を止めた。
入っていたのは、アタシが毎月買っている少女誌の最新刊。
そういえば今日は発売日だった。
うーん。もしやお見舞いのつもりだったのかな。
ていうか、あの顔でこの少女誌をどんな風に買ったんだろう。
想像したら、すっごいおかしいんですけど!
認めて欲しい人から存在を認めてもらえたら、自分が好きになれるかもしれない。
先生の言葉を実感できるときが、ある日突然、実現する。
2学期の終業式が終わって、待ちに待った冬休み。
クリスマスイブに電話がかかってきて、学校に呼び出された。
どうしよう!!
人生で初めて告白されちゃった!
クラスでは何人か彼氏持ちとかいたけど、アタシには現実味がなくて、漫画の中の話だと思っていたのに!
しかも相手は密かに気になっていた男の子!
仲は良かったけど、グループでだったし。
友達としか思われていないだろうなって思っていたのに。
「よかったな。返事は早くしてやれよ。待つ方は苦しい時間だからな」
「う、うん。そうだよね。あんまり待たせるのも悪いし、返事しなくちゃね!」
成績も1学期では考えられないくらい伸びた。
クラスで1番とかはまだまだ遠くて、ようやく平均値に届いた程度なのにお母さんは喜んじゃって。
この程度で喜んでちゃ仕方ないだろうとお父さんは褒めてくれないけど、お母さんはクリスマスに好きなゲーム買ってくれるとかこっそり約束してくれた。
友達もすごいじゃないと言ってくれるし、担任の先生も頑張ったと褒めてくれる。
数学もそんなに嫌じゃなくなってきたかもしれない。
今、アタシ絶好調?
奥田君と付き合い始めてから、アタシはみるみる自分を好きになっていく。
そっか。認められるってこういうことだよね。
お母さんが、友達が、学校の先生が、古賀先生が、奥田君が、皆がアタシを容認してくれている。
幸せってこういうことだよね。
アタシの頭はたちまち、奥田君でいっぱいになった。
奥田君は優しくて、荷物が重そうにしてると持ってくれたり、アタシのいいところを見つけ出してくれたり。
明るくて優しいとか。
気取ったところがなくてしゃべりやすいとか。
気遣いが上手だとか。
アタシが嬉しくなるとようなことを言ってくれるの。
プレゼントとかもセンスが良くて、冬休み明け、買い物帰りを捕まえてお年玉ねだったら、スーパーの買い物袋から飛び出していたたくあん丸ごと一本手渡してくるような先生とは大違い!
「先生~、女の子のプレゼントに消費期限近い100円引きシールつきのたくあん渡してるようじゃあ、モテないよー?」
「なんだよ、たくあん美味いだろ」
「そうじゃなくてさー。奥田くんなんか、こんな可愛いマフラーくれたよ?」
「俺なんか、あんな可愛いたくあんくれてやっただろ。いらないなら返せよな」
「……とっくに食べちゃったよ、お父さんが」
3学期が終わる頃、アタシの成績はもう心配なくなっていた。
めったに褒めてくれないお父さんが頑張ったと言ってくれるくらい。
数学が上がったら、何故か他の教科も成績上がって。
イイコトばかりが続く。
ずっと上り調子でいくんだとそのときまで、アタシは信じて疑ってなかった。
終業式、奥田くんに早過ぎる別れを告げられるまでは。
どうしてなのか全然わからなかった。
ケンカなんてしていないし、むしろ周りからうらやましがられるくらい仲が良かったと思っていたのに。
急すぎて何でかわかんない。
「アタシに悪いところがあれば直すよ。何か気に障ったこと、言った?」
「……ごめん、そういうことじゃないんだ」
そう言いながら、彼は今まで一言も言わなかった、アタシの悪い点を挙げ始めた。
ちょっと明る過ぎて、そのテンションについていけなかったとか。
(つまり、ウルサイ女と思われていた)
メールや電話が多くて、勉強が手につかなくなったとか。
(つまり、ウザイ女と思われていた)
友達に付き合いが悪くなったと思われ始めたとか。
(アタシより友達に気兼ねしていた)
「ブンちゃんは悪くないんだけど……ごめん、」
実は他に好きな子ができちゃった。
本当は、それが一番の理由だったみたい。
アタシの中が急にカラッポになった。
毎日泣いた。
春休みで良かったと感謝した。
彼氏が出来て、しばらく連絡を取らずにいた友達に電話をかけたら、家族旅行だとかもう遊びの予定が入っているからとかで誰も捕まらなかった。
やることも思いつかなくてヒマ。
いつもなら、奥田君と電話したり会ったりしている頃なのに。
前は何をやっていたっけ?
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