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妖絵巻番外 1番の価値。:9
2009.11.17 |Category …日記
「教員って言ってもまだ新米だし、参考になる話なんてできないぞ?」
「違うんです、あの、聞きたいのはそれじゃなくて……」
アタシの中の良くない考えが頭をもたげる。
彼女さんが別の男と会っていること、言ったらどうなるだろうか。
「か……」
「か?」
「彼女……瞳さん……と」
「うん」
「上手く行ってますか?」
「……? 行ってると思うけど……ナニ?」
「もし、もしかして、ですけど……! 彼女が……」
彼女が浮気したら、どうしますか?
「違うんです、あの、聞きたいのはそれじゃなくて……」
アタシの中の良くない考えが頭をもたげる。
彼女さんが別の男と会っていること、言ったらどうなるだろうか。
「か……」
「か?」
「彼女……瞳さん……と」
「うん」
「上手く行ってますか?」
「……? 行ってると思うけど……ナニ?」
「もし、もしかして、ですけど……! 彼女が……」
彼女が浮気したら、どうしますか?
▽つづきはこちら
とうとう質問をぶつけてしまった。
でも先生はちっとも堪えた様子なく、即答する。
「それはないんじゃない?」
疑いを持たない先生にアタシは地雷を踏んだと思った。
「俺ら、来年、結婚するつもりだし」
「……エ? けっ……?」
……は。
………………結婚……。
……………………ははっ。
……だから。
アタシは何をやっているんだってば。
どうしてアタシは自分の首を絞めることばかりやるのだろう。
思い込んだら一直線。
後先のことを考えずに行動して、何度後悔しただろう。
今回もまた同じ徹を踏んでいる。
そして今もさらに踏み込もうとしている。
諦めの悪い、アタシ。
「先生、あの人、他の男の人と歩いていたんだよ!?」
嫌な女と思われる。叱られちゃう。
アタシが言いつけたせいで壊れたら恨まれちゃうかも。
だけど、もし。
もしも、これで別れてくれたなら、アタシにもチャンスが巡ってくる?
ズルくて甘い考えがアタシの口をふさがせてくれない。
先生はしばらく黙っていた。
やがて、興味を示したのかどんな男かと聞いて来た。
これはチャンスなの?
「あの、髪が立ってて、四角い系の眼鏡で背がかなーり高くって……」
アタシが言う特徴を逐一頷いて聞いていた先生は、なんだ、やっぱりなとつぶやいた。
これはどっち?
どっちの“やっぱり”?
彼女の浮気を薄々感づいていた?
だけど先生の言葉はアタシの予想をあっさりと裏切る。
「たぶんだけど、そいつ、俺ら共通の大学の友人だよ。岡崎とかって呼んでなかった?」
「……へ?」
「ゼミも一緒だったヤツなんだけど。借りた本、返しに行ってくるって言ってたし。そいつも含めて何人かで今もよく会うから。……あー。ひょっとして、それを目撃して、こないだ急に会おうとか言い出したんだな?」
「えと……」
「容疑者当人がいたら、そりゃあ言いづらいよなぁ」
うんうんと先生は頷く。
「どうせ腕でも絡めて歩いていたんだろ。アイツ、人懐っこいからさ、誰にでもやるんだ。老若男女関わらず」
どんぴしゃだ。
腕組んで歩いてた。
でもそんなの、日常だったんだ。誰にでも。
なーんだ。それだけだったの。
てっきり浮気だと思っていたのに。
「わざわざそれを報告に来てくれたワケだ。そりゃドーモ、ご心配おかけしまして。でも大丈夫、アイツラは人を気持ちを裏切るようなことをする人間じゃないから」
「……ご、ごめんなさい……余計なお世話だったです……ね」
先生と瞳さんは、信頼関係でちゃんと成り立っていた。
アタシが中学生の頃から、今まで続いていたんだもんね。
同棲も長いみたいだし……
アタシの入る隙なんか最初からどこにもなくて、浅はかだったアタシは、うなだれてごめんなさいと反省の言葉を述べる以外になかった。
うん、そっか。
知ってたんだね、会っていること。
瞳さんもこっそり会ってたんじゃないんだ。
ただの親しい友人だったんだ。
アタシは先生に駅まで送ってもらい、もう一度、非礼を詫びた。
先生は怒りもせず、用があって家まで送っていけないのは申し訳ないけど、帰りは気をつけなさいと車で最寄の駅まで連れて行ってくれた。
電車に揺られたアタシは、この恋が完全に終わったことを実感する。
3年半の片思いに今、終止符。
楽しい思い出をありがとうございました。
どうかお幸せに。
本当はちっともお幸せに、なんて思えていないくせにカッコつけて心の中で呟いてみた。
まだ未練でいっぱい。
でも何か一つ、乗り越えたに違いない。きっとそう。
今すぐには無理かもしれないけど、いずれいい恋だったと笑って話せるときがくる。
そう信じよう。
そういえば先生も、18歳のとき、片思いの相手が結婚しちゃったんだよね。
アタシも同じ18歳で大失恋だよ。
同じくらい苦しかった?
18歳の先生に、アタシたち、頑張ったよねって言ってあげたい。
「春はお別れの季節だもんね……」
家とは逆方向の駅で降りて、雑然とした街を歩く。
一人で感傷に浸るのもいいけど、背中を押してくれた友人たちが失恋したら、カラオケ行こうと言ってくれていたから、素直に甘えて電話したの。
騒いで笑って食べて馬鹿言って。
弱音と愚痴も漏らして。
ついでに今の自分に合った悲しい歌を選んで泣きながら歌っちゃったり。
皆、つきあってくれて、ありがとう。
君らが失恋したら、次はアタシが慰めてあげるよ。
「イラネーヨ! 失恋しねーよ!」
「アンタと一緒にすんなっての!! キャハハハッ」
「ヒッド! フラレるよーに、呪いかけてやるっ!!」
「キャー! くんなー!!」
失恋した日に一人はツライ。
心のもやを吹き飛ばすように騒ぎ続けた。
けど、それにもやがて終わりがやってくる。
「終電なくなるから、そろそろ帰ろー」
皆と別れて人気のないホームにぽつんと立っていたら、また涙が浮いて出た。
アタシはいつも泣きべそばっかりだ。昔から。
酔っ払いのオッサンがベンチを占領して大イビキさえかいていなければ、絶好の浸り場所。
暦の上では春だけど、夜風はやっぱり冷たくて。
冷たい風にコートと髪をなびかせて、去った恋を偲ぶのもおつだと思っていたけれど、寒くてどうしようもない。
早く来て来て、電車よ~!
なんて頭の中で叫びながら、柱に身を寄せる。
終電合わせて後2本。
こんな時間になってもまだ結構、人が階段を上がってくる。
人気がないと思ったのは、まだ時間には早かっただけみたい。
酔った大学生風の女子グループやサラリーマンのおじさんたちがゴキゲンの会話。
それに混ざって、知った声が耳に紛れ込んできて心臓が飛び上がる。
ちょっと待って、この声確か……
「面倒なんだけど、あそこの駅、知り合いがいてちょっとマズイんだよね」
ちょっと……ねぇ……
「ああ、あの、カンチガイな女の子」
「うん、もう、超カワイイのっ」
まさか、いくらなんでもそんな偶然ないよ、ね?
「お前、年下からかうの好きだからなー。可哀想になってくるよ」
考えてばかりいたから、あの声に聞こえただけ、でしょ?
「だってカワイイんだもんー♪」
「また悪ノリしたんだろ」
こんな時間に二人で会ってていいの?
でも先生はちっとも堪えた様子なく、即答する。
「それはないんじゃない?」
疑いを持たない先生にアタシは地雷を踏んだと思った。
「俺ら、来年、結婚するつもりだし」
「……エ? けっ……?」
……は。
………………結婚……。
……………………ははっ。
……だから。
アタシは何をやっているんだってば。
どうしてアタシは自分の首を絞めることばかりやるのだろう。
思い込んだら一直線。
後先のことを考えずに行動して、何度後悔しただろう。
今回もまた同じ徹を踏んでいる。
そして今もさらに踏み込もうとしている。
諦めの悪い、アタシ。
「先生、あの人、他の男の人と歩いていたんだよ!?」
嫌な女と思われる。叱られちゃう。
アタシが言いつけたせいで壊れたら恨まれちゃうかも。
だけど、もし。
もしも、これで別れてくれたなら、アタシにもチャンスが巡ってくる?
ズルくて甘い考えがアタシの口をふさがせてくれない。
先生はしばらく黙っていた。
やがて、興味を示したのかどんな男かと聞いて来た。
これはチャンスなの?
「あの、髪が立ってて、四角い系の眼鏡で背がかなーり高くって……」
アタシが言う特徴を逐一頷いて聞いていた先生は、なんだ、やっぱりなとつぶやいた。
これはどっち?
どっちの“やっぱり”?
彼女の浮気を薄々感づいていた?
だけど先生の言葉はアタシの予想をあっさりと裏切る。
「たぶんだけど、そいつ、俺ら共通の大学の友人だよ。岡崎とかって呼んでなかった?」
「……へ?」
「ゼミも一緒だったヤツなんだけど。借りた本、返しに行ってくるって言ってたし。そいつも含めて何人かで今もよく会うから。……あー。ひょっとして、それを目撃して、こないだ急に会おうとか言い出したんだな?」
「えと……」
「容疑者当人がいたら、そりゃあ言いづらいよなぁ」
うんうんと先生は頷く。
「どうせ腕でも絡めて歩いていたんだろ。アイツ、人懐っこいからさ、誰にでもやるんだ。老若男女関わらず」
どんぴしゃだ。
腕組んで歩いてた。
でもそんなの、日常だったんだ。誰にでも。
なーんだ。それだけだったの。
てっきり浮気だと思っていたのに。
「わざわざそれを報告に来てくれたワケだ。そりゃドーモ、ご心配おかけしまして。でも大丈夫、アイツラは人を気持ちを裏切るようなことをする人間じゃないから」
「……ご、ごめんなさい……余計なお世話だったです……ね」
先生と瞳さんは、信頼関係でちゃんと成り立っていた。
アタシが中学生の頃から、今まで続いていたんだもんね。
同棲も長いみたいだし……
アタシの入る隙なんか最初からどこにもなくて、浅はかだったアタシは、うなだれてごめんなさいと反省の言葉を述べる以外になかった。
うん、そっか。
知ってたんだね、会っていること。
瞳さんもこっそり会ってたんじゃないんだ。
ただの親しい友人だったんだ。
アタシは先生に駅まで送ってもらい、もう一度、非礼を詫びた。
先生は怒りもせず、用があって家まで送っていけないのは申し訳ないけど、帰りは気をつけなさいと車で最寄の駅まで連れて行ってくれた。
電車に揺られたアタシは、この恋が完全に終わったことを実感する。
3年半の片思いに今、終止符。
楽しい思い出をありがとうございました。
どうかお幸せに。
本当はちっともお幸せに、なんて思えていないくせにカッコつけて心の中で呟いてみた。
まだ未練でいっぱい。
でも何か一つ、乗り越えたに違いない。きっとそう。
今すぐには無理かもしれないけど、いずれいい恋だったと笑って話せるときがくる。
そう信じよう。
そういえば先生も、18歳のとき、片思いの相手が結婚しちゃったんだよね。
アタシも同じ18歳で大失恋だよ。
同じくらい苦しかった?
18歳の先生に、アタシたち、頑張ったよねって言ってあげたい。
「春はお別れの季節だもんね……」
家とは逆方向の駅で降りて、雑然とした街を歩く。
一人で感傷に浸るのもいいけど、背中を押してくれた友人たちが失恋したら、カラオケ行こうと言ってくれていたから、素直に甘えて電話したの。
騒いで笑って食べて馬鹿言って。
弱音と愚痴も漏らして。
ついでに今の自分に合った悲しい歌を選んで泣きながら歌っちゃったり。
皆、つきあってくれて、ありがとう。
君らが失恋したら、次はアタシが慰めてあげるよ。
「イラネーヨ! 失恋しねーよ!」
「アンタと一緒にすんなっての!! キャハハハッ」
「ヒッド! フラレるよーに、呪いかけてやるっ!!」
「キャー! くんなー!!」
失恋した日に一人はツライ。
心のもやを吹き飛ばすように騒ぎ続けた。
けど、それにもやがて終わりがやってくる。
「終電なくなるから、そろそろ帰ろー」
皆と別れて人気のないホームにぽつんと立っていたら、また涙が浮いて出た。
アタシはいつも泣きべそばっかりだ。昔から。
酔っ払いのオッサンがベンチを占領して大イビキさえかいていなければ、絶好の浸り場所。
暦の上では春だけど、夜風はやっぱり冷たくて。
冷たい風にコートと髪をなびかせて、去った恋を偲ぶのもおつだと思っていたけれど、寒くてどうしようもない。
早く来て来て、電車よ~!
なんて頭の中で叫びながら、柱に身を寄せる。
終電合わせて後2本。
こんな時間になってもまだ結構、人が階段を上がってくる。
人気がないと思ったのは、まだ時間には早かっただけみたい。
酔った大学生風の女子グループやサラリーマンのおじさんたちがゴキゲンの会話。
それに混ざって、知った声が耳に紛れ込んできて心臓が飛び上がる。
ちょっと待って、この声確か……
「面倒なんだけど、あそこの駅、知り合いがいてちょっとマズイんだよね」
ちょっと……ねぇ……
「ああ、あの、カンチガイな女の子」
「うん、もう、超カワイイのっ」
まさか、いくらなんでもそんな偶然ないよ、ね?
「お前、年下からかうの好きだからなー。可哀想になってくるよ」
考えてばかりいたから、あの声に聞こえただけ、でしょ?
「だってカワイイんだもんー♪」
「また悪ノリしたんだろ」
こんな時間に二人で会ってていいの?
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●Thanks Comments
おう
このまま失恋を噛み締めながら静かに終わるのかと思いきや!
どうなるどうなる(◎o◎)
因みにあたしも文ちゃんと同じく彼女さんのこと苦手ですな。あんな弄られたら痛々しくて”(ノ><)ノ あいたたたた……
Re:おう
読んでくれてありまとうです(^-^)v
少女漫画的な内容のつもりが、今、妖絵巻らしく、ホラーに傾きかけてて、一生懸命方向修正をしているところです(爆)
あ、危ない;
少女漫画的な内容のつもりが、今、妖絵巻らしく、ホラーに傾きかけてて、一生懸命方向修正をしているところです(爆)
あ、危ない;
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