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ヒーローの条件:2
2008.06.28 |Category …レイメイ番外編
さて、町に到着した私は松葉杖を供に中央広場へと繰り出した。
この広場では、日曜になるとよく催しものを開催している。
古着市であったり、焼き物市であったり。
時にはサーカス団や今日のように劇団が来ることもある。
私が熱を上げている薔薇騎士レンジャーというのは、その名のとおり、国が誇る薔薇の騎士団をモデルにしたヒーローショーである。
悪をバッタバッタとなぎ倒す正義のヒーローに憧れない者はいない!……ハズ。
懐中時計をポケットから取り出して確認するとまだ8時だった。
レンジャーショーまではまだ3時間もある。
うむむ。退屈だ。
ちょっとハリキリ過ぎちゃったかなぁ。
お店も開いてないし……と、思ったら。
露天商が準備を始めているぞ?
ショーにあやかって、薔薇騎士レンジャーグッズが盛りだくさん!!
ハァハァ。
なんてイカスお店だろう。
フラフラと私は吸い寄せられていった。
▽つづきはこちら
「おじさま、ソレ下さい!!」
「おじちゃん、ソレちょうだい!!」
私と女の子の声が重なった。
横を見てから、下に視線を落とすと10歳くらいの少女が小銭を握り締めてレンジャー人形を指差していた。
おじさまはまだ店は開ききっていないのに、笑顔で二人に飾ってあった売り物を渡してくれた。
んが、しかし。
「これではなく、その棚の上のです」
「そうそう」
女の子も同意する。
おじさまはどれも同じだよと言うが、そんなことはない。
同じように見せかけて、全部、違うんだ。
私はアレが欲しい!
欲しいといったら欲しい!!
欲しい欲しい欲しい欲しい!!!
いただいたお給金は、ほとんど実家に送金している。
きっと他の皆もそうだと思うが、まぁそんなワケで私も例に漏れず無駄に使えるお金など、あまり持っていないのだ。
となれば、だ。納得のゆく買い物をしたいではないか。
私は他のどれでもない、アレが欲しいのだ。
「違います、その右の隣の隣……え、そうではなく」
「えー、行き過ぎよ。左に戻って」
おじさまを困らせながら私は気がついた。
隣に立つ彼女もひょっとして、同じ物を狙っているのではないかと!
だとしたら……おお! 女神ローゼリッタよ!!
私はどうしたら良いのですか!?
運命とはかくも残酷なものか。
私とこのいたいけな少女を争わせようと、そうおっしゃるか!?
どうか狙っているものが違いますように。
祈っている間におじさまがソレを手にした。
「これかい?」
「それです!!」
二人が同時に叫んだ。
な、な、なんと! 杞憂が現実に!!
「……ほ……他のも一緒だよ?」
念のため、私は言ってみた。
おおっと! 大人気ないというべからず!! わかっているのだ。
念のため、確認をしてみただけさ。
だ、だって、ほら、みんな一緒じゃん。おんなじだよ。人形なんか。
私はアレがぜひとも欲しいのだけれども。
「だったら譲って。一緒なんでしょ?」
「いや、これは私が……」
「私もそれがいいの」
むむむむむ~。
……し、仕方がない。
大人で偉い私は、泣く泣く身を引くことにした。
「はい、これだね、坊や」
「え、坊やじゃありません、私……」
お代を渡して人形を受取ると突然、背後からやってきた男が人形を奪って走り去ってしまった。
少女は突き飛ばされて、尻餅をつく。小銭が散らばる。
何ということを!
泣き出すかと思いきや、少女はすぐに小銭を拾い集め、おじさまに渡すと男を追いかけ始めたではないか。
「待てーっ!!」