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ヒーローの条件:6
2008.06.28 |Category …レイメイ番外編
奪われたり取り返したりをしているうちに裂けてしまった人形の一部を開いて、中身を確認する。
「なぁに?」
「……いや。ちょっと破れちゃったから、直そうか」
痛みをこらえながら坂を上がって元の店に立ち寄ると、返してもらった服の中からいつも携帯しているソーイングセットを取り出す。
白い粉が入っていた袋は取り出して、足りなくなった中身には自分のハンカチを丸めて詰め込んだ。
破れた部分を手早く縫い直し、少女に手渡す。
「はい、人形の手当て終了だ」
「わぁ、ありがとう、レッド!」
終ったところで丁度、女の子の家族が迎えに来た。
「あんなところに……!」
「コラ、レイオットー!!」
ご両親と兄弟が広場入り口から呼んでいる。
▽つづきはこちら
そういえば。
私は父の形見の懐中時計を確認した。
11時になる。
開演の時間だ。
少女が家族に手を振り、走り出そうとしてから一度止まって振り返った。
「ありがとう、薔薇騎士レンジャー・レッド! いつも応援してるわ」
戻ってきて、私の頬に素早くキスをすると、小さなヒロインは家族の下へ今度こそ走り去っていった。
白い袋は薔薇の騎士団詰め所に持ち帰り、鑑識を依頼した。
予想通り、人の心身を壊す麻薬の粉だった。
どこで手に入れたかを聞かれたので、男が所持していたこと、それから男を取り逃がしたことを伝えた。
店のおじさまのことは報告しなかった。
おそらく彼も知らずに仕入れたに違いないと思ったからだ。
本当は別のルートで運び出すものが、おじさまの方へ一部が流れてしまっただけだろう。
そうでなければおじさんはあの人形を我々に売ろうとしなかったハズだし、あの犯人の男もあんなやり方をしなくてもおじさんと裏で取引していれば済むはずだ。
男が取り戻そうと思っていたところへ、我々が先に購入しようとしたためにあんなことになったのだと思う。
念のため、私はおじさまの店の商品を改めさせてもらったが、あの人形以外から発見されることはなかった。
同じ人形が並んでいたのに何故、男があの人形だとわかったかといえば、レンジャーのスカーフの色だ。
赤は赤だが、よく見れば1つだけ周りと違う。
思い返してみれば、私も彼女も一つだけ違うのに目を取られて、アレが欲しくなったのかもしれなかった。
あの男は残念ながら、薔薇騎士レンジャーの熱烈ファンではなかったというワケだ。
お金渡して損しちゃったな。
白い粉を渡した時点で候補生でしかない私はすぐにお役御免となり、当初の予定通り、ショーを見てから養成所へ戻った。
町をあげての取締りが行われたと思うが、もう私の関与することではなくなってしまった。
せめて関ったあの男が心を入れ替えてくれたらいいと思うが、そう簡単にはいかないだろうな。
一度、手を染めたらなかなか出てこれるものではないだろうから。
それでも願いが届けばいいと思う。
強い心で打ち勝って欲しいと願う。
負けても立ち上がるヒーローのように。
「ヴァールトせんせっ♪」
養成所に帰った私は、早速、お土産を届けにいった。
「薔薇騎士レンジャーのマントです。きっと先生にお似合いですよ、さぁさ、お召しあれ」
「まぁ待て、ジャック。俺はレンジャーじゃないし、そもそも子供向けでサイズ小さいし、180のこの俺がつけられるかどうか、見て即座に理解してもらいたい」
「あっ、じゃあ、私が今から作ります。そしたらつけてくれますか? マントなびかせて歩いたら、絶対カッコイイと思うんです」
「……そんなに俺に恥をかいて欲しいのか?」
「誤解ですよ。私は先生にステキマントをつけてもらいたいだけです」
ヴァルト小隊長の後ろを追いかけて歩く16歳の私が、数年後、同じ齢で同じ立場に立ち、彼の率いる中隊に編成されるなんてこと、誰が予想できただろうか。
それから、あのとき出会った少女がこの養成所の門をくぐってくることになろうだなんて。
もっとも、その頃の私たちはお互いに忘れて、名前すら思い出さないのではあるが。
ヒーローの心構え。
1、ヒーローはヒーローだから、ヒーローなのだ。
2、ヒーローは何者をも恐れない。
3、ヒーローは常に正義の味方だ。
4、ヒーローはくじけちゃいけない。
5、ヒーローは強くなくちゃいけない。
6、ヒーローは子供の憧れであり続けなくてはならない。
今の所、試験に出るからそのつもりで。
レイディ・メイディ番外編3
ジャック短編
ヒーローの条件
終了