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ヒーローの条件:5
2008.06.28 |Category …レイメイ番外編
「君の情熱はもっと他のことに向けるべきだ。それだけの熱い気持ちがあるなら、他のどんなことだってできるじゃないか。こんな風に手に入れたレッドじゃ、嬉しくないだろ」
黙っているカルメ……男に私は自分が買おうとしていた分の人形代を渡した。
「これで新しい人形を買ってくれ。お金で施しを受けるのは嫌かもしれないが、私が人形を君にプレゼントしたとそういうことにしておいて欲しい」
男の手をそっと両手でにぎり、もうこんなことはしないようにと約束させて開放した。
「どうして逃がしちゃうの、泥棒なのに」
「やあ」
坂の上から、追いついてきた少女が当然のことを言った。
▽つづきはこちら
「彼はレッドに対する気持ちが人一倍強いただの一ファンに過ぎないんだ。今度のことは反省したと言っていたし、許してあげよう」
「でもドロボウは悪いことよ!」
「君の悔しい気持ちはよくわかるよ。だけど、罪を憎んで人を憎まず。……君も薔薇騎士レンジャーファンならわかるハズだ」
「ば、薔薇騎士レンジャー……!! そ、そうだよね!! わかった!」
「さぁ、一緒に戻ろう」
私が両手を広げると少女は坂を走って抱きついてきた。
「レッドー!!」
どすんっ。
少女を受け止めて、私は…………
「はおっ!?」
足に衝撃が走り、悶絶した。
……………………………………………………。
「レッド……大丈夫?」
青ざめてガタガタ震える私を心優しい少女が心配してくれた。
「だ、大丈夫だとも! 正義のヒーローはそう簡単に泣いたりしちゃいけないからねっ」
「うん」
あんまりにも痛かったので、本当は泣きたくて仕方がなかったけれど、ヒーローの条件、第4~6ヵ条に4、ヒーローはくじけちゃいけない。5、ヒーローは強くなくちゃいけない。6、ヒーローは子供の憧れであり続けなくてはならない。……とあるので、泣くわけにはいかないのだ。
ヒーローであり続けるのは大変なのである。
「君こそケガはないかい?」
「ぜーんぜん、平気」
「そうか。よく頑張ったね。でもこれからはあんまり無茶はしないように」
小さな頭に手を乗せる。
「でも、レッドだって、足がケガしているのに無理をして私のお人形、取り返してくれたわ」
「私はいいのさ。何をも恐れない正義の味方だからね」
「私もそうなる!!」
やんちゃな男の子のような笑みを顔いっぱいに広げて、少女は笑った。
「そうか。けど、無茶をするのはもっとずっと強くなってからだと約束してくれるかい? 無謀と勇気が違うことをちゃーんとわかってからだ」
「うんっ! ……じゃなくて……ハイッ!」
元気に返事をした後で、彼女は可愛らしく首をかしげた。
「私、薔薇騎士レンジャーになりたい。仲間にしてもらうにはどうしたらいいの?」
「薔薇騎士レンジャーになるための条件かい? それはね……」
常に正義の味方であること。
正しいことが何かを見誤らない目を養うこと。
ちょっとのことでくじけないこと。
強く優しくあること。
「ただし」
私は小指を一本差し出して、付け加えた。
「強いことは必ずしも、目に見えた力ということではないよ? 剣なんか扱えなくても正義の味方にはなれるからね」
「じゃあ強いってどういうこと?」
「心が強いってことさ。これは剣にも魔法にも権力にだって勝る。それさえあれば、たいていのことはこなせる」
どこまで理解しているかわからないが、少女はいちいちうなづきながら真面目に聞いてくれていた。
「……だけどね、本当は同時に目に見えた力もあるといいと私は思うんだ。そしたら、困っている誰かを助けることが出来るかもしれないだろ?」
誰かの涙を止めることが、できるかもしれない。
力さえ……力さえあったなら。
正しい方向に使うことが出来たなら。
罪におぼれた人を引き上げることが可能かもしれない。
罪を着せられた人に降りかかった闇を払うことができるかもしれない。
それは傲慢な考えかもしれないけれど、私が目指すのはそのような正義の味方なのだ。
「わかったわ! 私も強くて優しい薔薇騎士レンジャーになる!!」
「よしっ」
私たちは、約束の指きりをした。
無謀と勇気は違う。
これはあきれ返ったヴァルト先生に言われた言葉で、実のところ、私は正しく理解できていなかった。
自分でカッコつけて言ったヒーローの条件だって、本当はできてなんていかなかった。
罪ごと人を憎んだり、何でもないことで腹を立てたり、何が正しいかの判断も曖昧。
くじけちゃうことだってしょっちゅうだ。
この少女と同じ。
これからたくさんのことを学んでいかねばならない。
痛い目に遭いながら。
まだヒーロー見習いだから仕方がない。
人形を返そうとして、中から白い粉がこぼれているのに気がついた。
「これは……?」