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レイディ・メイディ 45-4
2008.06.28 |Category …レイメイ 43ー45話
落ち葉を舞い上げ、森の中をひた走りながら、連続で魔法を飛ばす。
リク「くそっ、当たらない! 木が邪魔だ!!」
木々に行く手を阻まれ、視界を遮られ、魔法が思うように届かない。
加えて相手は地の利を生かすのが恐ろしく巧みだ。
不規則に生えそびえた木々を味方にしている。
こちらのように落ち葉を舞上げて走ることもなく、もちろん足を取られて滑ることもない。
リク『誰かがいれば、連携とろうと思ったのに…!』
走れど走れど、誰にも遭遇せず、気配すらない。
どうやら、自分以外は全滅してしまっていたようだ。
リク『皆が悲鳴上げるの、わかるよ。こりゃあ…………怖いわ』
とてもじゃないが、人間に追われている気がしない。
どうかすると、ずっと同じ距離を保ってピッタリ背中に張り付いているのは、ヒサメ先生であることを忘れてしまいそうだ。
▽つづきはこちら
リク『いや、実際に俺はほとんど忘れて本気になってる……。先生だってわかってるけど、でも……』
手を抜く勇気がない。
所詮、模擬戦だからと足を止めてしまっても、捕まって、ああ残念ですむハズなのだが、それをするのをためらわせる戦慄が体中を駆け巡っていた。
リク『落ち着け、考えるんだ、リク……! 木が多いところは不利だ。広いところに誘い込もう!!』
倒すよりも追いやるのを目的と切り替えて、少々大きめで派手な効果の魔法を放った。
リク『もう少しだ、もう少しで原っぱに出る!!』
この森は養成所から歩いても10分はかからず、格好の遊び場だ。
中がどういう構成なっているかくらいは、あまり日曜も外に出ないリクだって承知していた。
森の中心部には少し開けた場所がある。
そこを決着の場と決めて走った。
リク「よし、出たぞっ!」
原っぱに飛び出すと杖を握り直し、次の魔法の準備をする。
リク「? また気配を見失った。どこだ!?」
呼吸を整えて右に左に視線を走らせる。
リク「来る……? ……どこから?」
「………………来た」
隠れる場所がないとあきらめたのか、堂々と薄暗い森の中から姿を現した氷鎖女にリクが魔法を放つ。
リク『もう障害物はナシ! 隠れる場所もナシ! 先生は魔法を使ってこない! つまり、攻撃手段もナシ!!』
「………勝てる!!」
勝利を確信して、次々と魔法を連打。
これほどの短期間で連打できるのは、2回生においてはリクとクレスだけだ。
魔力は底尽きることを知らず、恐るべき力を秘めた術者の体内から導き出され、杖を伝って2年間育て上げた水晶球から放たれる。
なのに、
リク「あっ、当たらない!?」
『障害物もないのにっ!!』
相手は最小限の動きでスピードを重視した細かい魔法をかわしながら、悠然と距離を縮めてくる。
使うと宣言していた防御魔法も、実際は一度も使っていないであろうことが想像できた。
リク「ダメだ…っ! 当たらないなら、範囲の広い魔法で…っ!!」
クレスが失敗したように、リク自身がアンを止めたのと同じ轍をキレイに踏んで、……………………彼は自滅した。
氷鎖女「♪」
リク「たははァ~」
顔にラクガキされて、ガックリとその場にひざを折る。
最後に大技を使い、自分の視界も奪って結局、捕まってしまったのだった。
リク「なんて描いたんですか?」
氷鎖女「……ぞうきんの搾り汁」
ちなみにアンは「腐った牛乳」だったとのこと。
リク「………はぁ」
緊張が一気に解けて、どっと疲れがのしかかってきた。
リク「参りました……」
肩を落として両手を小さく万歳する。
一瞬、勝てると思ったのが大きな間違いであった。
天才だのなんのと騒がれてはいるが、この人がいる限り、自惚れていられないなとリクは思って苦笑いを浮かべる。
リク『だいたい、ヒサメ先生に天才だなんて言われたこと、1度もないもんな。クレスも俺も』
氷鎖女「ま。そう嘆いたものでもござらん。70点くらいやってもいい」
リク「70点……他に誰かいるんですか?」
氷鎖女「もうそちらで最後でござる」
リク「時間はええと……」
氷鎖女「1時間12分」
リク「たったそれだけしか逃げてなかったの? ウソォ~」
もっと時間を稼げていたつもりだったのに。
ショックだ。
氷鎖女「1時間きってしまうとは思わなんだ。1時間内に全員捕らえてやろうと思ってたに。無念」
リク「ははっ……喜んでいいんだか何だか……」
肩をすくめる。
皆の待つスタート地点へ戻ろうと歩き始めたリクの服を氷鎖女がふいにつかんだ。
リク「? 先生?」
氷鎖女「待ち!」
言葉に重なって、目の前の地面が異様に盛り上がった。