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ヒーローの条件:4
2008.06.28 |Category …レイメイ番外編
少女と男が遠ざかっていく。
進行方向と彼女らを順に見比べて、私はあせった。
ギャリギャリギャリギャリッ!!!
固い道と車輪の摩擦で火花が飛び散る。
大きめの石を踏んだのか、前を向いていた車体がガクンと跳ねて回転し、後ろ向きになってしまう。
進行方向を背にしたまま、スーパーベビーカー・スカイドラゴンはなお、進む。
元々、赤ん坊しか乗せるようになっていない乳母車に16歳の男と10歳くらいの女の子が無理やり乗り込んだ上に、スピードまで追加されて車体は限界だった。
とうとう車輪が外れて吹き飛んだ。
4つついているうちの後輪が1つ、2つ。
「うおおおおお !!!??」
横を外れた車輪が一緒に転がってくる。
ガッターン!!
▽つづきはこちら
今度は車輪そのものがなくなったらしい。
視界が低くなって、スカイドラゴンが激しく回転始めた。
うううっ、気持ちが悪い。
酔う……!
最後に横倒しになって、乳母車は停止した。
放り出される私。
いたたたた……
大破した車の破片が目の前を転がってゆく。
ああ、ありがとう、ありがとう、スーパーベビーカー・スカイドラゴン。
君のことは忘れない。
この世で一番、見事な最期を遂げた乳母車だった。
こんな乳母車は他にいまい。
見る影もなく破壊し尽くされたスカイドラゴンに感謝を送っているところへ、女の子をふりきった男が一人で姿を現した。
逃すものか!
私を無視して逃げようとした犯人の足を松葉杖で引っ掛けた。
「うおっ!? てめぇ、何しやがる!!」
それはこっちの台詞だ。
つまづいた男の手からすっぽ抜けた人形を奪い、私は松葉杖・ストロングゴーレムに頼って立ち上がった。
「返しやがれ!!」
男が短剣を抜く。
「返せだと、笑止な。これは彼女のモノだ」
そうだとも!
私が欲しくて欲しくてしょうがなかった、あの薔薇騎士レンジャー・レッド人形だ。
それを彼女に譲ったのだ。
お前なんかにくれてやるいわれなどない。
私も応戦するために剣を抜き放った。
「死ねっ!!」
男が短剣を突いてきた。
それほどまでにこの人形が欲しいのか。
いたいけな少女のハートを盗み去り、この私を虜にし、あまつさえこんな中年男さえも狂わせてしまうとは……さすがは薔薇騎士レンジャー・レッド人気!!
「落ち着きなさい、大の大人が子供の人形を盗るなどと! 恥ずかしくないのか!! 人形は他にもある」
「うるせぃ!!」
男に説得は効かなかった。
なんと情熱的な!!
もう、カルメンだ。この男はカルメンに違いない!!
そうでなければ、風と共に去られたりするスカーレット!!
中年なのにやる!!
骨折☆ジャックな私は、その場から動くことは叶わない。
だが幸い問題の人形は我が手中にあるために、カルメンが逃げ去ることはなかった。
片足であっても剣で負けることはない。
私は情熱のカルメンの短剣を弾き上げ、のど元に剣の切っ先をつきつける。
「チェックメートだ」
カルメンは力なくその場に膝をついた。
が、私の包帯の足に目を留めて、口元に笑みを刻んだ。
「……ん? 私の足を見ているのかい? 足払いをして逃げる? 体当たりをする? それも構わないけど、その瞬間に君の首が宙に舞っているかもしれない。……その勇気があるのなら、試してみたまえ。私は薔薇の騎士だ(将来の)。狙いは外さないよ」
考えが当たっていたのか、今度こそ、カルメンはうなだれておとなしくなった。
「カルメン……君の情熱はもっと他のことに向けるべきだ」
「誰がカルメンだ」
「えっ、違うの?」
「どこからそうなった?!」
ごほん。
どうやら カルメンはカルメンではなかったらしい。
よし、仕切り直しだ。