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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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エリート未満:2

 倒れてピクリともしない姫様の側には、最後の魔法が放たれる直前に飛び込んだやはりクレスと並び立って天才の名高いリク=フリーデルスが防御壁を貼っていた。
 メイディア嬢とは違い、指輪を使った俺の最大の魔法をこんなヤツラに……!
 くそっ、こんなの何かの間違いだ!
 ヤル気満々の俺にとってはありがたいことに試合の続行が言い渡された。
 もう使い物にならない姫さんじゃねーぜ?
 天才少年・クレス=ローレンシアだ。
 コイツを倒せば、俺の方が優れているって証明される!
 トニアなんかに馬鹿にされない!
 見返してやれるんだ。
 そしてレヴィアス先生は俺に言うんだ。
 君が一番だって。

▽つづきはこちら

 試合会場は雑草組のクレスコールに沸いた。
 ケッ。
 弱者が固まって、天才君にすがってんじゃねーぞ。胸クソわりぃ。
 この俺が黙らせてやる!
 ウチのクラスからの声援なんてなかった。ま、当然だな。
 だって、俺たちは全員敵同士なんだ。
 しのぎを削って相手を蹴落として、頂点に立たなくちゃいけないんだ。
 落ちる奴は勝手に落ちればいいってワケ。
 今だって俺がしくじることを皆が望んでる。
 それで代わりに自分がクレスを倒そうと狙ってる。
 前の奴とは格が違うと見せ付けたがっているんだ。
 でもそうはいくか。
 勝つのは俺、カイル=セノ=バックレー様だっ!!
 ……と。
 思えていたのは、どのくらいだったのかな?
 覚えていない。
 後で聞いたら、1分ももたなかったんだってさ。
 相手からの最初の一発目を防ぎきれなくて半分氷付けになってふっ飛んでた。
 俺がもう戦闘不能なのに続けさまに氷の矢が飛んできて怖かった……
 泣いて叫んでいたと思う。
 ……助けてって……
 ………………………………サイテーだ。
 恐怖と悔しさが入り混じって泣き出しそうになり、医務室では必要以上に騒いでごまかした。
 
「うるさいな。捻挫はしているが骨は折れてない」
 
 もっと優しい言葉くらいかけてくれればいいのに、養成所の保健医の先生は怖い。
 全身打撲だったからベッドに運ばれたけど、ケガは思ったよりはしていなかった。
 たぶん、わざと外されたんだと思う。
 でも俺はもっと大怪我していればよかったと思った。
 そしたら少しは言い訳に出来たかもしれないから……
 授業終了の鐘が鳴った。
 あれからどうしただろう? 誰かがあの化け物じみたクレスやリクを倒したのだろうか。
 アイツラは桁が違う。
 言い訳じゃなくてコレはホントだ。
 俺だってレヴィアスクラスの5本指には入るんだ。それがこのザマだ。
 悪いけど、ウチのクラスじゃあんなのに敵うやつなんていやしない。
 アレこそ天賦の才。
 器が違う。
 俺たちなんかじゃとても敵わない。
 やれるとしたら、トニアか?
 アイツしかいない。
 やがて複数の足音が近づいてきて、俺はあわてて布団を頭まで引き上げてもぐりこんだ。
 
「先生、メイディは?」
「たぶん寝ていると思うが」
 
 まずはリクの声が聞こえたが、クレスも側にいるはずだ。
 ヤバイ。俺は見つからないようにとベッドの中で祈った。
 それにあと二人は誰だろう。よくはわからないけれど女の子の声がする。
 
「寝ているなら帰ろうよ。したら可哀想だし」
「リッ君、残念だったねー。もう少しで倒せてたのにィ」
 
 そうか。トニアは一応面子を守ったんだな、と会話から理解した。
 
「おい、ケガ人が寝てるんだ。もう少し静かにしないか」
 
 彼らが保健医にたしなめられて、会話が聞き取りづらくなった。
 
「…メイディ?」
 
 リクが小さく呼びかけている
 アイツ……ひょっとしてあのクソ女が好きなんじゃないのかな?
 そんなこと……どうでもいいけど。
 
「いちいち起こすことないだろ」
「…起きてるかと思って」
「ね、隣のベッドに誰かいるよ」
 
 一人の女子が敷居にしてあるカーテンをめくろうとするので俺は身を固くした。
 
ちょっとダメだよ、あの人だよ」
 
 すると別の子がホラと小声でいた
 つまり、クレスにしてやられた“あの人”……俺と言うことだ
 くそっ。
 やがて彼らが医務室から立ち去ると俺は止めていた息を深く吐き出した。
 けれど再び入れ違いにドアの開く音がして緊張を走らせる。
 現れたのは、雑草組仮面教官だった。
 弟子の見舞いに来たんだ。
 ……レヴィアス先生は……来てくれないだろうな。
 
「…相手の方、何か細工しておりましたでしょ」
 
 カーテン越しに会話が聞こえてきた。
俺の不正がバレていたんだ! 全身が雷に打たれた思いがした。
ヤバイヤバイヤバイ!
どうやら黒ずくめの教官も気づいていたらしくて、でも軽く流していた。
後でレヴィアス先生に申し出るつもりかもしれない。
そうしたら、俺はどうなるんだろう?
きっと庇ってはもらえない。
指輪は俺だけのせいになって、きっとこの養成所から追い出される。
どうしよう……
胸の奥にずんと重い荷物が転がってきた。
 
「例えば…例えばの話…凡人は………天才には…どうしても…その…」
 
 思わぬ危機に直面して、言い逃れの術を必死に探していた俺の耳に、クソ女の声が届いた。
 俺はハッとなった。
 ……そうさ。
 俺は天才の器じゃない。
 指輪……
 魔力のかかったあの指輪をしてすらクレスに敵わなかったそれまでの男だ。
 一応、クラスの5番目はキープしている。
 だけど少し手を抜いたら、下から5番目にだってあっというまに転落するくらいギリギリいっぱいの力を維持してその場に居残っているだけ。
 才能なんて、さほどないんだ。
 俺は知ってる。
 天才は始めから天才であること。
 遅咲きなんてナイ。
 自分の上限を知らなかった当時の俺のたわ言。
 本当は、この2年でよくわかってたんだ。

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