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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 67-7

シラー「これじゃ悲劇のヒロインもいいところね、アン」
アン「そ、そんなこと……」
シラー「ダメよ、ちゃんと捕まえておかないと。彼、クロエとも逢引してたんだから」
アン「……なにそれ?」
 
 アンの表情が固まった。
 
シラー「リク君、謹慎解けた午前中、休んだわよね? あのとき、図書館にいたのよ。……クロエと」
アン「……どう……して?」
ジェーン「たまたまでしょ」
シラー「さぁ。知らないわ。でも、手を握り合ってたわよ。それは確か。この目で見たんだから」
アン「……ウソ……」
 

▽つづきはこちら

 自分には手をつなぐのすら断わったくせに……!
 アンの心はたちまちの内に絶望の闇に覆われた。
 リクが接触を拒むのは性的な意味が含まれる場合においてであり、それが自ら触れるというのは、そのつもりがまったくないときに限る。
 つまり、クロエに触れるのも鎮に触れるのも、友愛以上ではないという証拠なのだ。
 だが、そんなリクの中だけの事情をアンが理解しているはずもない。
 打撃を受けてよろめくのをジェーンが支える。
 
シラー「顔がよくて何でもできる人だからねー。モテるのが当然と思ってるでしょうし。そういうタイプに一途を求めるのは所詮、無理だったんじゃない?」
アン「そんなことっ……」
  「そんな……こと……」
 
 強く否定しかけて、徐々に力を失う声。
顔を逸らしてうつむく。
 
ジェーン「……アン」
シラー「多くの女の中の一人でいることを甘んじて受けるか、別れてもっとしっかりした男を見つけるか……」
ジェーン「シラー!」
シラー「それとも。……戦うか、よ」
アン「戦う……?」
 
 顔を上げる。
 
シラー「そうよ。戦わなくちゃ。大事なものを守るためにね。いい人仮面していると幸せは逃げる一方よ」
アン「………………」
ジェーン「……んー……まぁ、ね」
シラー「頑張ってね。応援しているわ」
 
 ひらりと手を振ってシラーは離れていった。
 もう後のことは知ったことではない。
 彼女は生来のトラブルメーカー気質を発揮して満足である。
 しかし内容はまったくの嘘ではない。
 確かにクロエと偶然居合わせただけとはいえ、二人で会っていたのだし、手を握り合っていたのも確かだ。
 そこに互いの恋愛感情は微塵もなかったとしても、それは本人たちにだけしかわからない。
 誤解されてもおかしくはないシチュエーションではあったのだ。
 むしろ疑わない方がどうかしているというくらいである。
 
アン「私……私……!」
 
 怒りのためか悲しみのためかガタガタと震えだしてスカートを握り締めた。
 
ジェーン「まず、クロエじゃないわよ」
アン「どういうこと?」
 
 すぐに怒りの矛先がリクではなくクロエに向くだろうことを予想して、ジェーンが先回りした。
 教室を出て行くクラスメイトたちの邪魔にならないように隅まで引っ張ってゆく。
 
ジェーン「だってクロエはアンとリク君が付き合っていること知ってて、横槍入れるような子じゃないじゃない」
アン「わからないわ! リク君が好きだったら、何としてでも奪いたいって思うかもしれないし、それに……アン程度の女の子が彼女になれるくらいなら、私だってって……みんな思ってる!」
ジェーン「そんなのただの被害妄想よ」
アン「だって今までにだって陰口言われてたの私、知ってる! あんな子がって皆、せせら笑ってる!」
 
 おさげの髪を振り乱して首を振る。
 
ジェーン「だとしても、リク君はそのアンを選んだんだから」
アン「でも、リク君はクロエと……私、軽んじられているって……」
ジェーン「本人に確かめなさいよ。きっとシラーの見間違いよ。そうでなければ単に居合わせただけだわ」
 
 このままでは1週間前と同じことになってしまうと気を揉みながら、落ち着かせようと一生懸命に理屈を合わせるジェーン。
 こちらに言い争うつもりはないのに、アンときたら恋人のこととなると周りが見えなくなってしまうのだ。
 身丈に合った恋愛をしていないからこうなってしまうのかもしれない。その点についても確かに同情はあった。
 自分でももしリクと付き合ったなら、こんな風に疑心暗鬼に陥るかもしれない。
 どう考えても普通の女の子では彼に釣合いはしないからだ。
 そしてジェーンもアンも特別、美少女の範囲には入れてもらえないことくらいしっかり自覚していたから尚更である。
 
ジェーン「確かめるなら、リク君に、よ? クロエにその気はないと思うの。彼女はアンを裏切るようなマネ、絶対にしないって」
アン「……なら、リク君ならするの? リク君は優しい人よ! どうしてなの? ジェーンはどうしてクロエばっかり信じて私のリク君を悪者にしようとするの!?」
ジェーン「違うわよ。私はリク君のことはよくわかってないけど、クロエはずっとルームメイトだもん。わかるよ、どういう子かってくらい。この間だってアンを心配して、レイ様と一緒に男子寮にまで突入したんだから」
アン「それはジェーンが仕組んだんでしょ! 余計なお世話だったわよ!」
 
 イラついて足を踏み鳴らす。
 何も知らずにレイオットが探しに来てくれたら喜んだであろうアンだが、誰かの差し金だとわかっていれば逆効果である。
 
ジェーン「……なっ!? よ、余計なお世話って……」
アン「だってそうでしょ!? 私の身にもなってみてよ! 私がリク君とうまく行ってないって皆にバレちゃったし、周り中、変に大騒ぎされたら、私……私……いいさらし者だったわ! オマケにレイ様だってクロエだって、私を心配して探したワケじゃない! ジェーンが頼んだから探したのよ!! そうじゃなかったら、私なんて放っておかれるわ! 私のことなんて誰も想ってくれてないもの!!」
ジェーン「アン! どうしていつもそうなのよ!? 最近、おかしいよ! 皆、貴女の友達なのよ? 皆が心配して……」
アン「嘘ばっかり! ジェーンがお節介なのっ! もう私のことなんて放っておいて!! 私を利用していいコぶるのやめて!! 私が最近、何て言われているか知ってる!? “自己中女”よ?! こんないわれ方、今まで一度だって言われたことなかった! メイディアじゃあるまいし! それでジェーンは可哀想な子なんだわ! せっかくジェーンが慰めてあげているのにアンはひどい態度だわって!!」
 
 言い切って息を切らせる。
 沈黙が降りた。

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