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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 64-35

偲「……シ……」
 
 衝撃の元をたどって偲は眼球を横に向けた。
 わき腹に深々と、刀が突き刺さっている。
 その刀を握っていたのは、思いがけない人物だった。
 
鎮「共に……地獄へ墜ちましょうぞ、あにさま……!」
 
 体当たりしてきた魔物は鬼気迫る笑みを張り付かせて猫の目を光らせる。
 少女に攻撃が及んだ後ろで、死んでいたハズの彼は自らに刺さった刃を引き抜いてゆらりと身を起こし、体ごとぶつかって兄を刺し貫いたのだ。
 それはただ、執念。
 この言葉以外に当てはまるものはない。
 
偲「シ、ズ……」
 
 信じられないというような響きを含んで唇から呻きが漏れる。

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レイディ・メイディ 64-34

リク『だって……』
クロエ「イヤ……」
 
 大粒の涙を青い目に溜めたクロエがゆっくりとかぶりを振る。
 
リク『だって……先生は強いんだ……』
 
 強いのだから。
 負けるなんてこと、あるはずがないのだ。
 現実逃避をしかけたリクを無理に引き戻したのはクロエの悲鳴だった。
 
クロエ「いやあぁぁぁぁああぁぁぁ!!!!」
 
 ありったけの声量で叫び、それに弾かれでリクが駆けだした。
 

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レイディ・メイディ 64-33

 まだ発展途上でずっとずっと先があったのに。
 二人には輝かしい可能性と未来があったのに。
 途中で止めたらつまらない。
 最後まで見届けることは敵わないけど、それでも途中で取り上げられるよりはいい。
 鎮にとってリクとクロエ、それに教えている生徒たちは者でなく物に近かった。
 自分のモノではない。
教え子ではあるが、弟子だとは思っていない。
特にクロエに至っては、接点など学科の授業でしかないのだ。
それを教え子呼ばわりするのもはばかられるくらいの間柄だ。
先生と生徒。
鎮と誰かではない。
ヒサメ先生と生徒なのである。
まったくの他人ではないけれど、友達とも言いがたい。
知識を与える側と受取る側。
何か困ったときに助ける側と頼る側。
ただそれだけ。

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レイディ・メイディ 64-32

 偲は防戦一方になって押され続けた。
 けれど余裕は失ってはいない。
 冷徹な目が反撃の隙を伺っている。
 地を蹴って大きく後ろに下がると懐に手を入れた。
 
鎮「!」
 
 警戒して踏み込むのを躊躇った次の瞬間、偲の手から放たれた夥しい白い蝶が夜に舞った。
 
鎮「これは……っ!」
 
 まとわりついてくる蝶から思わず腕を上げて顔をかばう。
 周りが見えない。
 その間に偲が走りこんできて刀を振るう。
 
鎮「……ふっ!」
 

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レイディ・メイディ 64-31

 部外者を嫌う氷鎖女の里が姫を呼んで受け入れたのは、村の呪いを封じる力を見込まれてのことだ。
 彼女がいるお陰でまだ里は形を保っていると言えた。
 それでも人々の心は安らがない。
 氷鎖女の女に供物を捧げない限り。
 どんな手を施しても安心できないならば、未来永劫怯えて暮らすのが氷鎖女一族なのだとしたら、これほど醜い血はない。
氷鎖女一族は狭い中で血に血を重ねる蠱毒のような性質を持つ。
それだけでも十分に濁って汚れた血だ。
自分は汚れきった血を破壊し浄化するために生を受けた気がする。
 その考えにたどり着いたとき、心のモヤが四散した。
 全て殺せばいい。一人残らず。
 簡単ではないか。
 真の意味で氷鎖女に呪いをもたらそうとしているのは、双子の片割れの方だったのだ。
 衝動に突き動かされるままに、敵の出現を待った。
 

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レイディ・メイディ 64-30

 自分が殺すはずの相手が何者かに命を奪われた。
 炎座、悟六、冴牙と遊んで理性が吹き飛んでいた頭が冷や水をぶちまけられたように冷めてゆく。
現実が、返ってきた。
 考えられる可能性は、3つ。
 一つはリクとクロエが戻ってきて初と遭遇し、倒した。
 もう一つは、第三の存在。自分たちだけと思っていたのは間違いで、この山には魔物か賊が潜んでいた。
 最後の一つは………………
 そんなはずはないが、偲が手の平を返したことだ。
 
鎮『リクとクロエというのが一番自然なのか? それにしては争った形跡が……』
 
 魔物や賊にしても同じ疑問が残る。
 だとすれば?
 

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レイディ・メイディ 64-29

初「このままでは冴牙が殺される!」
偲「……もう遅い」
初「……まさか……」
 
 手を緩めて、一歩後ろに下がる。
 
初「まさか…………知っておったのでは…………あるまいな?」
 
 引きつった笑みを浮かべて、信じられないと目の前の男を見つめた。
 
偲「……ああ」
初「!!」
 
 聞きたくなかった。
 ナゼ?
 知っていて見殺しにしたというのか、この男は。
 仲間が、里の一族が生きたまま嬲られるのを見過ごしていたというのか。
 
初「……わかった……お前様は……我らをたばかったのだな!? 私を……私たちを……」
 
 怒りと悲しみの入り混じった絶望感に全身が震えた。
 

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