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レイディ・メイディ 64-33
2008.09.17 |Category …レイメイ 64話
まだ発展途上でずっとずっと先があったのに。
二人には輝かしい可能性と未来があったのに。
途中で止めたらつまらない。
最後まで見届けることは敵わないけど、それでも途中で取り上げられるよりはいい。
鎮にとってリクとクロエ、それに教えている生徒たちは者でなく物に近かった。
自分のモノではない。
教え子ではあるが、弟子だとは思っていない。
特にクロエに至っては、接点など学科の授業でしかないのだ。
それを教え子呼ばわりするのもはばかられるくらいの間柄だ。
先生と生徒。
鎮と誰かではない。
ヒサメ先生と生徒なのである。
まったくの他人ではないけれど、友達とも言いがたい。
知識を与える側と受取る側。
何か困ったときに助ける側と頼る側。
ただそれだけ。
▽つづきはこちら
心と心が通うことはない。
けれどいて当たり前の存在。
ただ与えるのが、ただ与えられるのが。当たり前の存在。
教師を養分としてにょきにょき成長していく、彼らはまぁ、貝割れ大根みたいなモノだ。
今は貝割れ大根でもいつかそれぞれ別の花を咲かせる。
大輪になるかどうかは別として。
どんな花が咲くのかまだわからない。
茎だけが伸びていっている状態に彼らはある。
なのに花が咲くまでに摘みとられたら、大変面白くない。
鎮の中の言葉に置き換えてみれば、このような図になる。
普通の感覚の持ち主が聞いたら、さぞやデタラメな理屈なのだろうが、彼の中ではちゃんと筋が通っているのである。これでも。
少しばかり世間とズレているかもしれないけれど、彼にしてみれば重大なことだった。
まずは約束を破ったこと。
そしてその中身が、彼が楽しみにしていた貝割れ大根を引っこ抜かれたこと。
その貝割れ大根がまだ未熟も未熟であったこと。
ハタチにも満たない少年少女であったこと。
氷鎖女となんら関わりがなかったこと。
彼にしてみれば、炎座も悟六も冴牙も死んで当然だった。
自分に刃を向けたから。
初も可哀想だが、仕方がなかった。
氷鎖女の戦いにおいて氷鎖女だったから。それが不運だった。
けれどリクとクロエは違う。
利用されただけだ。
この、彼らにとってさほど特別に位置していない鎮という人間のために。
例えば歯牙にかかった二人がすでに一人前だったら、鎮はこれほど気を荒立てなかったであろう。
氷鎖女の一族だったら、仕方ないと落ち着かせただろう。
でも違った。
ルールを破った兄は、報いを受けるべきだ。
弟がはじき出した答えはそれだった。
一言。
一言、死ねよと言ってくれたらば、こんなに被害は大きくならなかったのに。
一人、卑屈な男が卑屈な笑みを浮かべて命を絶つだけだ。
来世の幸せを今度こそと願いながら。
だが、偲はそうはさせなかった。
氷鎖女という名のつく全てを、その手で滅ぼすという答えにたどり着いたからだ。
今も死ねと命じればひょっとして、応じたかもしれない可能性も考えただろうに。
それをするつもりはなかった。
面子にかけて。
幼い頃、負けて悔しいその立場を今ここに逆転させようとしているのである。
勝つのは兄。
強いのは偲だと証明せねばならない。
そして……
屈服させねばならない!
一般的にはおかしいとされる、彼らにとっては譲れない理由が、互いの刃に力を与える。
どちらも決め手を欠きながら、それでも一歩間違えば即座に命を落とすギリギリのバランスの中で戦いは永遠に続くかに思われた。
けれど均衡したバランスを崩すのは、いつだって、ほんの、ほんのちょっとした出来事ことなのだ。
草が動いた。
明らかに生き物が蠢く音だ。
だが、ここではまだどちらもソレに気をかけなかった。
気を抜いたが最期だとわかっていたからだ。
しかし同時に2つの影が姿を現して叫んだときに、鎮の眼球がそれを捉えに走ってしまった。
リク「せっ、先生!」
クロエ「やめて、戦わないでぇっ!!」
鎮「!?」
リクとクロエ?
殺したというのは狂言だった!?
気をそらしたのは一瞬だったが、それが仇となった。
皮肉なことに死んだと思っていた教え子が無事な姿を見せたお陰で、決着が、ついてしまった。
鈍い音を立て、肉を服を貫き。
夜のせいで黒光りする液体をぬめらせた刀身が鎮の背中から現れる。
偲「……勝負、あったな」
鎮「……あ……んくっ……」
ぐらりと身体が傾く。
手から鎌が滑り落ちた。
貫かれた、まさにその瞬間を目にしたリクとクロエは木に捕まったまま、大きく目を見開いた。
偲「……俺の、勝ちだ。おシズ」
確信を深めるように、単語を区切りながら相手の耳に低く囁く。
鎮「そのようで……」
鎮「そのようで……」
罠にかかってしまったなと苦笑いを浮かべて兄を見つめた。
まるで将棋に負けたくらいの気軽さで。
腰が落ちる。
でもよかったと鎮は思った。
その場に膝をついて、ぺたりと座り込む。
貝割れ大根がまだ引っこ抜かれていなくて。
腹から突き出ている刀に震えた手をかけると、ちょうど切腹をしているような形になった。
ざんばらになった髪がその表情を覆い隠す。
偲「………………」
クロエ「い……や……」
色を失った口元をわななかせながら、クロエは坂を滑り落ちないように捕まっていた木の幹に痛いほど爪を立てた。
リクは呆然として言葉を失っている。
東の空が赤みを帯びてきたその時刻に、あり得ない光景が目の前に突きつけられていた。
そんなハズはない。
だって、
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