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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 64-31

 部外者を嫌う氷鎖女の里が姫を呼んで受け入れたのは、村の呪いを封じる力を見込まれてのことだ。
 彼女がいるお陰でまだ里は形を保っていると言えた。
 それでも人々の心は安らがない。
 氷鎖女の女に供物を捧げない限り。
 どんな手を施しても安心できないならば、未来永劫怯えて暮らすのが氷鎖女一族なのだとしたら、これほど醜い血はない。
氷鎖女一族は狭い中で血に血を重ねる蠱毒のような性質を持つ。
それだけでも十分に濁って汚れた血だ。
自分は汚れきった血を破壊し浄化するために生を受けた気がする。
 その考えにたどり着いたとき、心のモヤが四散した。
 全て殺せばいい。一人残らず。
 簡単ではないか。
 真の意味で氷鎖女に呪いをもたらそうとしているのは、双子の片割れの方だったのだ。
 衝動に突き動かされるままに、敵の出現を待った。
 

▽つづきはこちら

 
鎮「呼ばれましたか、あにさま」
 
 木の葉を散らして、鎮が参上。
 枝から飛び降り、着地する。
 
偲「………………待ったぞ」
 
 とうとう兄弟、敵としての再会である。
 
鎮「よもやとは思いますが、あにさま。貴方が殺ったのではありますまいな…………」
 
 言いながら刀を構えた。
 
偲「お初か」
鎮「!」
偲「お前が気にかけることでもあるまい」
 
 何の感情も見出せぬ瞳を向けて兄は淡々と言った。
 
鎮「はい。しかし腑に落ちぬのでございます。何ゆえ、お初を……」
偲「怒っているのか」
鎮「お初はあにさまを想ぅておりました」
偲「……知ってる」
鎮「死に際まで、貴方を恋しと呼んでおりました」
偲「……そうか」
鎮「そうかって……それだけ……で、ございますか?」
 
 ぎ、ぎ、ぎ。
 ぎこちなく、首を傾けた。
 
偲「………………」
鎮「それではお初が報われませぬ」
偲「……お前はどちらの味方だ」
鎮「それを貴方がお言いになりますか。シズなら敵だからよい。お初もくノ一なれば、殺し合いは当然ありましょうが。でも……貴方がお初を斬ってはならなかった」
偲「……説教はいい」
鎮「理由がわかりませぬ」
偲「わからずともよい」
 
 冷たく言い放った。
 ワケをいくら説明しようと、並べ立てようと、自己弁護にすらならない。
 そしてまた、言い訳するつもりもなかった。
 正統な理由などないのだ。
 ただ、滅ぼしたいから滅ぼす。
 それだけだ。
 身勝手を悪いとは思わなかった。
 元々そんな感情は備わっていない。
 遠い昔から、氷鎖女が嫌いだったのだ。
 お前なんかイラナイ。
 それは、鎮だけに向けられた言葉ではなかったような気が、今はする。
 
鎮「………………貴方の心は……今、どちらにおわします?」
偲「……さて」
鎮「………………」
偲「自分でもわからぬ」
 
 ぎ、ぎ、ぎ。
ぎこちなく首を傾げてから、すっと冷たい刃を構える。
 
鎮「その前にもう一つ、質問があります」
偲「…………」
鎮「お初の他に、その刃は汚しておりますまいな?」
偲「……ネズミを2匹退治したが……それがどうしやった?」
鎮「ネズミを2匹…………それはつまり………」
 
 リク=フリーデルスとクロエ=グラディウス!
 逃がしたはずだったのに戻ってきたとでもいうのか。
 むざむざ若い命を散らしに。
 
鎮「………あにさま……シズは言いましたな?」
偲「…………」
鎮「シズの身の回りのものが、ただ一つでも失われるようなことありますならば、全力を持って貴方を八つ裂きにしてくれましょうと」
偲「…………」
鎮「そしてこうも言った。相応の報いを受けていただきますと」
偲「…………覚えている」
鎮「………ならばナゼ……ナゼでございましょう!? あの二人は氷鎖女と何の関わりもなく! シズをおびき寄せる役割は果たしたから関係なかったろうに!」
 
 刀をひらめかせて襲い掛かった。
 それを偲の刃が受け止めて、音を鳴らす。
 戦闘開始だ。
 
鎮「あヤツラはまだっ! まだハタチにも満たなかったのにっ!!」
 
 怒りのあまりに頭髪の根元がちりちりと逆立った。
 何も持たない鎮には、……………………彼らが大切だったのだ。
 大事ではないと口にしながらも。
 だから何度も念を押した。
 手出しはならないと。
 彼らを救うために両膝を折ったことからしても、それはわかりやすい好意だった。
 
鎮「あにさまは……あにさまはどうしてそう、意地が悪いのでございましょう……? シズがあんなにあんなにお願いしたのに……もういくばくもないから、放っておいてと言ったのに! あそこはシズの最期の居ることの出来る場所だったのに!」
 
 かぶりを振る。
 
鎮「どうしてどうして…………もう一度、死ねよと言って下さらなかった!? 下手な同情でこうまでかき乱されるくらいであれば、シズは……シズは……!」
 
 何度も何度も刀を打ち付ける。
 素早く、手数を多く、相手に攻撃に転じさせる間もなく。

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