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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 64-28

 この残虐な景色には見覚えがあった。
 6年前の惨劇!
 妹の首がケーキの上に……
 父は生きたまま焼かれ……
 母はバラバラに……
 リクは口をぱくぱくさせて空気を吸い込もうとしたが、周囲から酸素が消えてしまったかのようにのどに入ってこない。
 息苦しくなって胸を掻き毟った。
 感情が。
 抑えていた感情が心の奥底から膨れ上がってくる。
 
リク「あ……がっ……」
 
 コレをしたのが、あのシズカ=ヒサメだというのか?
 “あの”?
 思考が停止して真っ白になった。

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レイディ・メイディ 64-27

クロエ「今の笛、先生を見つけたっていう合図だったんじゃ?」
リク「よし、急ごう、俺たちも!」
 
 二人、駆け出す。
 そして、滑って転ぶ。
 
クロエ・リク「………………………………」
リク「……クロエ」
 
 ゆっくりと泥に突っ込んだ顔を上げる。
 
クロエ「なぁに」
 
 同じく泥にまみれた顔を向ける。
 
リク「名案があるんだ」
クロエ「奇遇ね。私もなの」
 
 声をそろえ、
 
リク・クロエ「走るのはやめよう!」

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レイディ・メイディ 64-26

 コレは初の敵う相手ではない。
 いや、自分たちも敵わなかったのだ。
 奴があのとき本気だったかも怪しい。
 今ではそう思う。
 こちらを調子づかせて奈落の底に突き落とす遊びではなかったのかと。
 耳をそがれ、鼻をそがれ、まともに見る冴牙はすでに冴牙だったかも判明できないほどになっていた。
 初は恐怖を押し殺して刀を構えた。
 
冴牙「コイツはダメだ! 戦っちゃいけねぇ!!」
初「冴牙!!」
冴牙「俺のことはいい! 初……逃げろ……逃げて……偲と……」
 
 血の泡を飛び散らして叫ぶ冴牙の頭を鎮が踏みにじった。
 
鎮「……仲間想いじゃん? それとも何? あはっ、ひょっとして惚れてたりする? まぁ、わかるよ。いい女だからな、お初は」

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レイディ・メイディ 64-25

リク「信じて下さい、彼女は白魔法使いなんです! 呪いを解くための技術を持っています」
偲「何だ、そっちか。……無理だな」
 
 10歳で鎮が身を投げるまでに両親が何も手を打たなかったわけではない。
 いくら邪魔に扱おうと死を願おうと行き場のない怒りをぶつけて殴ろうと、彼らは親なのだ。
 呪われた我が子をそれでも愛そうと精一杯の努力はしてきた。
 呪われていなければ愛せるはずだと思う、それが彼らの次男に対する愛情だった。
 有名な祈祷師を探して何度も足を運んだ。
 けれど何代にも亘って降り積もった怨みは消し去れなかった。
 鎮本人にしても西の大陸で白魔法使いに頼んでいないはずはない。
 それがこんな小娘などにできるとは思えなかった。
 
クロエ「私たちを信じて下さい、スペシャリスト…………の、卵です。養成所に帰れば、強力な力を持つ教官がいます」
偲「ならば、鎮がすでに頼んでいよう」
クロエ・リク「!!」
 

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レイディ・メイディ 64-24

リク「あ、いや」
『……? 俺、何を言い出しているんだろ。クロエを守るのはもちろんだけど、今は先生を……そうだ。先生を探し出して……』
クロエ「うん、ありがとう。私もリクを守るわ、全力で」
 
 微笑んでリクの手を握り返す。
 
クロエ「だから、一緒に帰ろう? ……先生も連れて、三人で」
リク「……そうだね」
 
 クロエを守るということは、早くヒサメ先生を捜し出さなくてはいけないということに他ならない。
 彼を追って戻ったのだから、目的を果たさない限り安全な場所に逃れるわけにはいかない。
 例えすでに亡き者となっていたとしても、その生死を確認するまでは。

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レイディ・メイディ 64-23

 鎮は相手の身体を隅々までまさぐって、隠し持った武器を取り上げる。
 忍は油断ならないのである。
 自分も含めて。
 
鎮「さぁて?」
冴牙『ぎく……』
鎮「どうしてやろうか?」
 
 頭を踏みつけにする。
 
冴牙「うあっ! チクショウ、テメェ……」
鎮「あっれぇ? チクショウ……何だって? シズ、よく聞こえなかったーあ」
 
踏みつけていた足を外して、冷たく見下ろす。
 
冴牙「い、いや、その……スミマセン、何でもないっス。何も……なっ!」
 

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レイディ・メイディ 64-22

 いつもは寂れている里も今日ばかりはズラリ並んだ提灯の明かりで華やかだった。
暑い真夏に熱い炎を焚いて熱い熱気を放出する人々は、みな何かよくないモノを追いやろうと夢中になっているようにもにも見えた。
炎で闇を追い払え。
炎で闇を焼き払え。
 熱は普段の抱えているわずらわしいことを全て溶かしてくれた。
 理性なんか吹き飛ばし、人々は心地よく狂う。
 ごちそうや酒が振舞われて、大人たちはほろ酔いに。
子供たちは駆け回って、踊りの輪の中に身を投じる。
今日ばかりは遅くまで遊んでいても叱られないから、誰も彼も浮ついていた。
全てが赦される特別な日。
初に誘われて恐る恐る踊りの輪に加わった。
弟を連れていない偲をはじき出そうとする者はいなかった。
……嬉しかった。
踊れや、踊れ。
歌えや、歌え。
食って、呑んで、また踊れ。

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