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レイディ・メイディ 64-25
2008.09.14 |Category …レイメイ 64話
リク「信じて下さい、彼女は白魔法使いなんです! 呪いを解くための技術を持っています」
偲「何だ、そっちか。……無理だな」
10歳で鎮が身を投げるまでに両親が何も手を打たなかったわけではない。
いくら邪魔に扱おうと死を願おうと行き場のない怒りをぶつけて殴ろうと、彼らは親なのだ。
呪われた我が子をそれでも愛そうと精一杯の努力はしてきた。
呪われていなければ愛せるはずだと思う、それが彼らの次男に対する愛情だった。
有名な祈祷師を探して何度も足を運んだ。
けれど何代にも亘って降り積もった怨みは消し去れなかった。
鎮本人にしても西の大陸で白魔法使いに頼んでいないはずはない。
それがこんな小娘などにできるとは思えなかった。
クロエ「私たちを信じて下さい、スペシャリスト…………の、卵です。養成所に帰れば、強力な力を持つ教官がいます」
偲「ならば、鎮がすでに頼んでいよう」
クロエ・リク「!!」
▽つづきはこちら
確かにその通りだ。
あれだけ白魔法の先生がそろっている。解けるのなら、とっくに解けていていいはず。
だとすると見習いであるクロエには、手が届かない話だ。
せっかく希望が見えたというのに……
リク「でも今、そっちかって言いましたね? ……他に、何か……望みがある方法を知っているんですね、お兄さん?」
リクももちろん、参戦してクロエのカバーに回る。
偲「………………」
リク「教えて下さい!!」
偲「………………」
偲「…………できない……」
クロエ「どうして?」
偲「……解けはしない。教えたところで無意味」
リク「そんなの、やってみなくちゃわからない!」
クロエ「あきらめないで」
偲「一番近い俺に出来なかった。お前たちになど、到底できまい」
リク「やってみせます」
偲「…………簡単に、言うな」
偲の発する声の温度が下がった。
攻撃の手が早くなる。
たちまち、クロエは防戦一方に押されてリクは仕方なく魔法を唱え始めた。
できれば傷つけあう前に話をつけたかったのに。
リクの詠唱を邪魔するクナイが投げ放たれ、中断して剣でそれを弾き返さねばならなくなった。
濡れた草で足が滑る。しかも坂である。
実戦経験の少ない二人には圧倒的な不利であった。
鎮と思って追っていたのはダミーの人形で、初は長いこと足止めを食らっていた。
追っている最中に笛を吹いて残りのメンバーに知らせをよこしたハズなのに、誰もこない。
しかも離れた場所に火の手が上がっている。
こちらに知らせはなかったが、炎座が鎮を討ち取ったのだと思い、その場所へと向かった。
どしゃぶりの雨のせいで炎が見えなくなってしまい、探すのに手間取ってしまった。
ひょっとして通り過ぎたのだろうかと迷っているところへ悲鳴が聞こえてきたのだ。
初「! 冴牙!!」
声の方向に向かって走る。
山間に育ち、夜を最も得意のステージとする氷鎖女忍びである彼らには、造作もないことだった。
悲鳴の出所はすぐにわかった。
近づけば黒い木々の間からうっすらと光が漏れている。
炎座が放って雨に消されかけた頼りない炎の光である。
茂みに身を潜めて少し開けた場所を覗き、初はあっと声を上げそうになり思わず息を飲み込んだ。
そこが、地獄だったからだ。
鎮「花を摘みましょう、真っ赤な花を。カゴいっぱいに薔薇の花。コトコト煮込んで甘い甘いジャムを作りましょう。情熱の赤い花びらで作った甘いジャム。あの人は喜んでくれるかしら。恋の魔法を振りかけて、私に気づいて愛しい人よ♪ ああ、愛の女神ローゼリッタ、この恋を叶えて。ああ、大地母神ローゼリッタ、あなたの子らに祝福のキスを♪」
血にまみれて歌っている少女に組み伏せられて、冴牙が呻いていた。
一瞬、本人だとはわからないくらいに小さくなっていて我が目を疑った。
答えはすぐにわかった。あるべき場所に手足がついていないのだった。
残っていた右腕に短刀が何度も突き立てられて、その度に血が飛び散る。
赤い飛沫(しぶき)は可愛らしい内容の歌を口ずさむ白い顔にはねて、赤い花びらとなった。
狂気の刃が振り下ろされる度に冴牙は甲高い悲鳴を挙げ続ける。
鎮「もう外れたかなー?」
明るく言い、腕を引っ張ってみるとまだ切れずに残った肉と筋がピンと張った。
張った筋を伝って血が雫となって揺れる。
鎮「えいっ」
胴体に足を乗せてさらにねじって引くと湿った音を立てていくつかの筋が切れ、支えをなくした肉片がぶら下がる。
地面に雫が飛び散って吸い込まれた。
冴牙「ああああああああっ!!!!!」
鎮「んふっ♪」
不気味な“鬼女”は、千切り取った腕を木の枝に刺して、あたかも木から人間の腕が生えているようなオブジェを作った。
満足してぞっとする笑顔を見せる。
両足は無造作に転がっていた。
爪が剥がれて捨てられていた。
すぐには死なないように手足の傷口には、止血の処理が施されていた。
たった今、なくなった右腕もきつく縛り上げられる。
鎮「大丈夫かよー、冴牙兄ィ。もーしばらく待てば助けがくるからさぁ。頑張りなよぉ」
勝手なことを言っている魔物があの鎮であると、にわかには信じられなかった。
初「……………!!」
大きく見開いた初の瞳に炎座の巨体、そして首を失った悟六の胴体も情報として映し出されていた。
炎に照らされて、沈黙を守っている。
心臓がドクドクと急激に脈打ち始めた。
猛り狂った血を持て余し、胸に鈍い痛みが走った。
見開いて瞬きもできなくなった目が熱を帯び始める。
身の毛のよだつ光景を前に、初はその場に縫いとめられて動けなくなった。
冴牙「はー…はー…た、頼む……殺ひて……」
生きながらの地獄に落とされた冴牙は、歯を折られて空気を漏らした気弱な声で死を願う。
鎮「そう悲しいこと言うなって。……ホラ、助けが来たぜぇ?」
ぐるりと初が身を隠しているまさにその方向へ首を向けた。
初「!!」
冴牙「!!」
見つかった!
全身がざわりと総毛立った。
吹き出た汗でぬめる手の平を服にこすりつけ、初は刀を握り締めた。
初「覚悟、おシズっ!!」
冴牙「ダメだ、逃げろ!!」
半死人となっていた冴牙が転がったままで叫んだ。
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