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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 64-24

リク「あ、いや」
『……? 俺、何を言い出しているんだろ。クロエを守るのはもちろんだけど、今は先生を……そうだ。先生を探し出して……』
クロエ「うん、ありがとう。私もリクを守るわ、全力で」
 
 微笑んでリクの手を握り返す。
 
クロエ「だから、一緒に帰ろう? ……先生も連れて、三人で」
リク「……そうだね」
 
 クロエを守るということは、早くヒサメ先生を捜し出さなくてはいけないということに他ならない。
 彼を追って戻ったのだから、目的を果たさない限り安全な場所に逃れるわけにはいかない。
 例えすでに亡き者となっていたとしても、その生死を確認するまでは。

▽つづきはこちら

 沈んだ表情のクロエがぽつりと漏らした。
 
クロエ「やっぱり……お兄さんと戦わなくちゃいけないのかしら……」
リク「……ん、そうだね。できれば……戦いたくない」
 
 それは同じ気持ちだった。
 一番いいのは、生きたまま捕らえてどうにか折り合いを互いにつけてもらうことだ。
 しかし自分たちが不利なこの状況でそれは無理な相談だった。
 捕らえるどころかこちらが生き残れるかどうか、なのだ。
 血が足りないのにすでに魔法を連続して撃っている。
 それも走りっぱなしだった。
 クロエの回復魔法をいくら受け取ってもめまいが治まらない。
 
リク「傷つけずに、いや、殺さずに捕らえる方法か……」
クロエ「罠でも張れればいいんだけど、地形もわからないし、道具もないわ」
リク「そうだね……」
 
 ノロワレタ、幸薄い、ヒサメ一族、兄、生きていても仕方のない人間。
 川の氾濫も疫病も飢饉もヒサメ祭りを行わなかったから起きた。
母親が首を吊る。彼が生きていたせいで。
 望まれない命。
 全て後ろ向きの言葉がシズカ=ヒサメに与えられていた。
 それらの言葉を並べてリクは唐突に理解した。
東の言葉の音でいうところの「ノロワレタ」の意味を。
 
リク「先生は呪われている?」
クロエ「え?」
リク「先生は、呪いを受けていて、だから命を狙われているんだ。殺さないと彼らに災いが降りかかるから」
クロエ「そんな……」
リク「俺、東の国の言葉は大まかにはわかるんだ。彼らは俺がわかってないと思って話していたんだろうけど……。途中からはわざわざローゼリッタの言葉で話していたしね」
 
 鎮を先生と慕う人質に話を理解させて、辱める狙いがそこにあった。
 
クロエ「だとしたら……先生の呪いを解けばこの戦いは止められる?」
リク「……上手くいけば」
 
クロエの表情に一筋の光が差し込んだ。
 白魔法を習ってよかった。白薔薇でよかった。
 希望していた青薔薇専攻でなくてよかったと、養成所に来てから今、初めて思った。
 助けられる。
 呪いを解く呪文は習った。
 大魔法使いニケから。
 この戦いは止められるのだ。
 あとはそれだけに見合う力が、自分にあればよいのだが。
 
クロエ「待っててね、先生」
リク「………クロエ!」
 
 希望に湧いて笑顔を見せるクロエをリクが止めた。
 足を止められたクロエもすぐに気がついた。
 立ちはだかる山の陰に一人の男が佇んでいることに。
 
リク「お兄さん……ですね?」
 
 男は、答えなかった。
 だが、5人中、背がすらりと細身のシルエットは彼しかいない。
 
クロエ「ちょうどよかったわ、聞いて下さい、お兄さん」
偲「………………」
 
 人影は、問答無用とばかりに刀を抜いてこちらに真っ直ぐ走りこんで来た。
 冴牙が捕らえられるのを見届けるともう興味を失くして、偲は初めの野営地へと足を運んでいたのだ。
 リクとクロエが剣を探し当てて立ち去ったすぐ後だった。
 濡れていない半紙を馬車の荷物から取り出して、ローゼリッタ人少年少女の後を追ってきた。
 鎮を殺すのが真の目的で、あの二人は公爵に差し出すための氷鎖女一族にとってはオマケに過ぎない。
 だが偲は、何にしても手を抜かない。どんな些細な使命であっても、仕事は仕事。全てきっちりとこなす。
彼の中に曖昧はない。
右か左。白か黒。それしか存在しなかった。
そこに迷いなど生じない。情に動かされることもない。
何があろうと鎮は殺すし、二人も捕らえて公爵に引渡す。
この徹底した仕事ぶりが一族内では、賞賛と批難の対象となっている。
非情な冷血漢。
これほどこの言葉が似合う男はいないだろうと噂されるゆえんだ。
 
クロエ「ちょっと! お願い、まずは話だけでも聞いて!!」
 
 手に入れた剣で初めの一撃を受ける。
 手がしびれるほどの衝撃が伝わり、クロエは歯を食いしばった。
 
リク「お兄さん! 先生の……いえ、弟さんの呪いは解けます、俺たちが解いてみせますから剣を引いて下さい」
偲「……呪いを……解く?」
 
 さすがにこれは響いたのか、無表情の偲が反応を示した。
 
リク「そうです!」
偲「……出任せを」
 
 だがすぐにまた次の攻撃に転じてくる。
 
クロエ「私、呪いを解く魔法を知っているんです!!」
 
 剣を受け流してクロエは訴えを叫んだ。
 
偲「! ……まさか」

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