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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 60-21

 埒が明かないとクロエがニケを連れに走った。
 
クロエ「……というワケなんです。どうにかしてあげて下さい」
ニケ「ヒサメの双子の兄? ダメじゃない。部外者を入れちゃあ」
クロエ「全面的にリクがいけないんです。それはもう悪者なんです、彼は。私とニンジャ先生は悪くありませんから。ちっとも」
ニケ「………………」
 
 じと目で言い訳たっぷりのクロエを見やる。
 
クロエ「でも今更、可哀想ですよ。だって10年振りだって言ってるのに」
ニケ「それでヒサメはちゃんと断わっているんだ? それならそれで話は済んでるじゃない」
クロエ「でもぉ。お兄さんが可哀想! ニケちゃん、どうにかして? だってこの辺は宿なんてないんですよ?」
ニケ「とは言われても…っと」
 
 現場に到着して、見覚えのない異邦人に目を留める。
 

▽つづきはこちら

ニケ「誰が双子?」
クロエ「ヒサメ先生」
ニケ「………………」
クロエ「シノブさんっていうんだって」
ニケ「……誰が、双子?」
 
 あまりに似ていない。
 素顔を知っているだけに信じられずニケがもう一度問う。
 
クロエ「ヒサメ……先生」
 
 こちらも自信なさげに声が小さくなる。
 
ニケ「………………」
 
 どこまで“普通”からハミ出せば気が済むんだと悪態をついてから、鎮を呼び寄せる。
 
鎮「ニケ殿! あの……申し訳ございませぬ、これはウチの兄でその……」
ニケ「事情は聞いた。……で? 自分の兄を疑っているって?」
鎮「疑っているワケでは……でも……あの……もしもがあってからでは遅いとあの……あの……」
 
 身内がらみで規則を破った手前、ばつが悪いのかまた歯切れが悪くなっている。
 
ニケ「………………」
  『女王の見る目は確かか……』
 
 腕を組んで息を鼻から吐き出すニケは、叱られるのではないかと縮こまっている小心者の青年を眺めて考え込んだ。
 おとなしく誠実真面目。他人のために咄嗟に動ける人間。
 まず他人のことを考える。
 それがシズカ=ヒサメという人間だと女王は断言していた。
 いくら命を助けられたとはいえ、宮廷に呼びたてて少しばかり会話をしたとして、それほどの信頼を寄せるのはあまりに軽率であまりに危険だと初めニケは思っていた。
 だがこの2年過ぎの養成所生活で彼が信頼に足る人間であることはよく理解した。
 それで今またこうして、久しぶりに会った自らの片割れにも線引きをしようとしている。
 本当は側にいたいだろうに、己に厳しく、最悪のことを想定してくれている。
全てはクロエとリクのためを考えてだ。
 女王の見立ては間違っていなかった。
 シズカ=ヒサメは信用に値する優秀な人材だ。
 力の程は申し分ない。
 どこの誰なのか、それさえハッキリすれば、正式にこの国の、女王の家臣として加えても構わないのではないか。
 今はそう思っている。
 
ニケ『どこかの貴族に養子縁組を組ませて、身分を固めさせれば……』
 
 そしてクロエ姫……いや、クローディア女王に長く仕えさせる。
 これがベストではなかろうか。
 人はいつ変わるかわからないが、現在のところ、彼ほど非凡でありながら無欲で素朴な青年は他にいない。
 働きに対する正当な評価で見返りを与えれば、ついてくるはずなのだ。
 実際にシズカが警戒してするこの兄が何者なのかは敢えて問わずに、許可を出すことに決めた。
 いずれ、自分の配下に引き抜きたいと真面目にニケは考えているのだ。
 自分の持ちうる知識を与え、クローディアとリクの盾としての役割を担わせようと。
 
ニケ「身内はヒサメに任せるよ。四六時中、一緒にいて見張っていれば問題ないでしょ?」
鎮「ニ、ニケ殿……」
ニケ「規則は規則だから、行き先が決まったらそっちに移動してもらうけど。ま、少しの間くらいは仕方ないよ。その代わり、ちゃんと来客届の書類にサインして、来客用のプレートもつけて歩かせること。いい?」
鎮「は、はい、ニケ殿!」
クロエ「ニケちゃん!」
ニケ「もしもがないように、しっかり監視してよ? 責任はキミだけじゃなくて、許可を出したこのニケにもかかるということ、忘れないように」
鎮「はっ!」
 
 よほど嬉しかったと見えて、返事を返すとすぐさま兄に駆け寄ってすりついた。
 まるで黒猫のように。
 
鎮「あにさま、許可が下りましたゆえ、これからはシズと共に行動して下され」
偲「………………」
クロエ「よかったね、先生♪」
リク「よ……よかったですね………………お兄さん……」
  『生ゴミ食べさせられなくて……』
フェイト「…………ホントに…………」
    『牢に閉じ込められて放置されなくて……』
偲「………………」
 
 偲、青ざめながらこっくりうなづく。
 
人形「心配……痛み入るでござる」
リク・フェイト「いえいえ。人間としてトーゼンです」
 
 だって、鎮こそが人間としてとてもマズイから。
 
鎮「あにさま、ニケ殿に礼を申し上げて下され。ニケ殿はシズの上にあるお方でございまして、ちっせぇけど、偉いご身分の方」
 
 そう言ってニケを紹介する。
 偲が頭を下げるとニケは気にしないようにと返して、宿舎へと歩き出した。
 
鎮「ようございましたな。でもくどいようですが、おかしな真似は夢なさらぬよう、お願い申し上げまするぞ。シズは躊躇なく、刺しますからそのおつもりで」
クロエ・リク「セーンーセー!」
フェイト「ま、いいだろ。どうせ口だけさ。本当は嬉しくて仕方ないんだろうし。俺たちはもう消えよう」
クロエ「えー。驚いたぁ」
フェイト「何が?」
クロエ「フェイトでもマトモな気の回し方するのね?」
フェイト「……あのな。俺をどういう目で……」
 
 クロエとフェイトが軽く言い合っている間に、リクは偲に鎮から大変な仕打ちの気配がしたら、すぐに自分たちに助けを求めて下さいと伝えた。
 
リク「……それじゃあね、先生。くれぐれも無茶な考え起こさないでね」
鎮「無礼者。拙者は無茶などしたこともない」
リク「もうすでにそこが心配だよ」
 
 それでようやく別れる。
 不意に沸いて出た運命の再会は、とんでもなく疲れる一日だった。

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