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レイディ・メイディ 第61話

第61話:リクの恋人
 氷鎖女兄がしばらくの滞在を許されて数日。
 双子は四六時中べったりくっついている。
 食事や就寝のときは当然としても、授業のときまで傍らにいるのだから、傍から見たら異常なくらいだ。
 だが、それ以上に異常なのは、これだけ仲が良さそうでありながら、鎮の手の位置が必ず刀を抜ける位置に収まっていることである。
 ただくっついているのではなく、実際には監視の役目を光らせているのだとほんの一握りの人間は気づいていた。
 授業が終了して質問をしたいリクが鎮を追いかけて呼び止めると左右対称の動きで双子が同時に振り返る。
 生活が始まってみると動作が同じで外見があまりに似ていないのに関わらず、二人が似ているような錯覚に陥るのが不思議だ。

▽つづきはこちら

 質問に答え終わると鎮はまた兄にぴったりくっついてしまい、リクは密かにため息をこぼした。
 ハッキリと言葉にして意識していたわけではないが、本当のところ、兄という存在が登場したことで自分がおざなりに追い出された気がしてならなかったのである。
 元から鎮の心の中には愛する家族がいて、そこに自分の存在がないことなど百も承知だったハズだ。
 それでも実際に兄の側を離れようとしない鎮に対して、小さく妬ける痛みが心の奥底でうずいていた。
偲という危険の可能性を遠ざけたいがゆえに、特にリクとクロエの前では兄との距離を縮めようとする鎮なのだが、手が抜刀の位置にあることを気づかない内の一人であるリクにはもちろん理解できていない。
 
リク『このまま……お兄さんと故郷に帰っちゃうんだろうな……』
 
 前にも長くは付き合えないと言われたばかりだ。
 遠くに行ってしまう、そういうことだったのだと思い返しては、重たい気持ちになる。
 彼がいなくなってこの先、誰を師と仰げばよいのだろうか。
 その溢れる才能に裏づけされた自信家の面が、他の教官に物足りなさを感じさせる。
 あの人たちの話を聞いていてもつまらないとつい思って軽んじてしまう。
 リクの知識欲を満足させてくれるのはいつだって、次の瞬間に何を言い出すかわからない奇人変人なシズカ=ヒサメだけなのだ。
 正直言えばどこにも行って欲しくない。
 ずっとこの養成所に残って指導して欲しい。
 けれど、どこか暗い影を背負った彼にようやく幸せが訪れたのだから、邪魔立てなんかしたくなかった。
 暗い影というのが何だかは知らない。
 ただ単に見たとおりの暗い性格のせいでそう見えるだけなのかもしれなかったが、リクは自然と自分に重ね合わせていたのだ。
 心に壁を作り、誰にも踏み込ませない。
 孤独の中に身を置き、感情を殺す。
 表面上は人当たりが良く、いつも微笑んで人好きする性格に見られがちのリクだったが、本音のところではそうやって周りに距離を置いているのだ。
 そう、メイディアに指摘されたように。
 彼女の目に狂いはない。
 その通りなのだ。
 心から笑っていたことなど、本当はほとんどなかった。
 家族の無残な死と2週間ほどではあったが、お稚児趣味の貴族に囲われた屈辱の日々、そして唐突な魔力の爆発による貴族殺害の記憶が彼をそのような人間に変えた。
 東の国から流れてきたという以外に知らないシズカ=ヒサメの過去にもきっと何か大きな事件があったに違いないのだと勝手にリクは思っていた。
 本当はそんなことなど何もないのかもしれないのに。
 救ってあげたいと無性に思った。
 だが、実際には何も出来ずにいる。
 そうして兄という存在が現れた。
 自分を重ねていた人が幸せにたどりついたなら、それでいいはずだ。
 だから、一緒に喜んであげないと。
 
リク『うん、それでいいんだ。俺なんかが間に入ったらダメだし、入れっこないし、入れてももらえないに決まってるんだから……』
 
 質問を終えて、遠ざかる鎮の背中をぼんやりと見つめ続けた。
 曲がり角に消えてしまうまで。
 
リク『これでいいんだ。よかったんだ。先生が独りでなくなって……』
 
 これで自分はまた独りぼっちだけれど。
 
 
モーリー「ねぇねぇ、アンー?」
 
 休み時間を利用して遊びに来ていた白薔薇のモーリーがアンとジェーンの間に太目の身体をねじ込んだ。
 
アン「なぁに?」
モーリー「リッくん、ゲットチャンスじゃなぁい?」
アン「な、何言ってるの、突然!?」
 
 わかりやすく、顔を赤らめる。
 
モーリー「だってさ、リッくん、ヒサッちをイカスお兄さんに獲られちゃったじゃなーい」
 
 廊下で突っ立っているリクの背中を指差す。
 
ジェーン「あー、言えてる。あのヒサッちがあんなに懐いているなんてねー。すんごいあり得ない光景だもん。リッくんもショックおっきいよー」
 
 納得してジェーンがうなずく。
 
アン「と、獲られたってそんな……」
ジェーン「もー、アレだよね。鳶に油揚げさらわれた感タップリ」
モーリー「予想だにしなかった強敵、しゅっつげーん♪ きゃははっ」
アン「ちょ、ちょっとぉ!」
モーリー「ペット獲られて傷心だしさ、メイディアもいなくなっちゃったしさ。チャンスでしょ?」
アン「どうしてそこでメイディア……」
 
 久しぶりの名前が挙がって、どきんと心臓がはねた。
 
モーリー「だって、リッ君、メイディア好きだったじゃん?」
アン「…………え?」
モーリー「わかりやすいよねぇ? だって、他の子に自分からちょっかい出したの見たことないもん」
アン「で、でも性格悪いって本人に……」
モーリー「そのときは好きだったかどうか知らないけど」
アン「そのときは……って……そんなの……いつから思ってたの?」
ジェーン「ああ、試験のときの……崖から落ちそうになったとかいうやつでしょ? アンと3人で」
 
 すぐにピンときたジェーンが代わって説明を加える。

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