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レイディ・メイディ 10-4
2007.11.09 |Category …レイメイ 6-10話
失恋して傷ついているであろうメイディアを追いかけたクロエがやっと追いついてその肩に触れる。
クロエ「メイディア」
メイディア「あら、クロエ。いかが致しまして?」
思ったより落ち込んでいるようには見えなかった。
また怒りに身を任せるでもなく、普段通りの表情に見える。
クロエ「いかが……って……あの……その……さっきのことだけど……」
メイディア「さっき?」
クロエ「私……ごめん……後をつけてしまったの……」
メイディア「…………………………」
クロエ「あ、あのっ、でもお兄ちゃんだと思って…………あ、でもいけなかったよね。ごめん」
メイディア「そうね。はしたない。レディのすることではございません。お気をつけなさい」
クロエ「……うん……」
メイディア「それで? 何か御用?」
クロエ「あんな言われ方して落ち込んでいるんじゃないかと思って……」
メイディア「あら。同情かしら」
クロエ「同情なんかじゃないわ! あの人、ヒドイと思ったのっ! メイディアもどうかと思うけど、あそこまで言う必要ないじゃない?! あんまりよっ。ぷんっ」
メイディア「ふぅん……」 少し考えて、
「貴女が腹を立てるところではないと思うけれど、でも、まぁワタクシをどうかと思うと面と向かって言う勇気はかってあげましてよ」
クロエ「……う……ご、ごめっ」
メイディア「謝るくらいなら初めから言わない。本音なら謝ったりしない。……よろしくて? クロエ=グラディウス」
クロエ「あ……うん……」
メイディア「他に御用がないのでしたら、ワタクシ、失礼させていただきますわ」
言い残してその場を去る。
▽つづきはこちら
クロエ「…………大丈夫だった……みたい……ね?」
心配し過ぎだったろうか。
後ろ髪引かれる気もしたが、部屋に戻ることにした。
一方、クロエの前で強気を保ったメイディアだったが、段々悔しさが込み上げてきて、歩きながらの風景がにじんで目に映った。
メイディア「何よ。何でも思い通りになるなんて思っていないわ。何も思い通りになんてなったことナイもの。祭りの夜にお父様やお母様が戻って来て下さった試しはないし、誕生日に声を聞かせてくれることもなかった。周りはおべっか使うだけしか能のない人達」
袖で涙を拭う。
メイディア『仮面みたいな笑顔を張り付かせた陶器の人形たち。人形はせせら笑う。自分では何もできない私を笑う。後ろ指を指して笑うの』
「何よ。働いているわ、私は。交換の道具なのだから。口が達者で何が悪いの? それはお互い様だわ」
日曜日の誰も近寄らない学び舎まできて、壁に背中をあずける。
そのまましゃがみこんでひざを抱えた。
メイディア「何よ。一人で何もできないですって? できなくて何がいけないの? 今にできるようになるわ。今にビックリするくらい素敵なレイディ(貴婦人)になって……いつか見返してやるんだから」
鼻をひとすすり。
メイディア「その時になって、後悔したって遅いわ。見る目がなかったのねって手ひどくフッてやるんだから」
「……ね?」
いつの間にか足にすり寄ってきていた猫に問いかける。
こんなところに、迷い込んできたノラ猫だろうか。
メイディア「私はメイディよ。アナタは?」
猫「にゃあ」
メイディア「……上が黒で下が白いのね」
金色の眼をした猫の背中をゆっくりなでてやる。
猫はゴロゴロと喉を鳴らして気持ちが良さそうだ。
メイディア「うふふっ」
声「こらー、ダイヤモンドチェリー。どこ行ったんだー? エサ持って来てやったんだぞ」
ミルクの入った皿を手にした少年が角から姿を表す。
メイディア「……!」
クレス「……あ」
少年は同じ黒薔薇専攻のクレスであった。
クレス「……っ」
大きな青い瞳にいっぱいの涙を溜めたメイディアと目が合って思わず動きを止める。
メイディア「…………………………」
瞬きをすると粒になった透明の液体が白い頬を滑り落ちる。
クレス「えと……」 間が悪く、言葉を失う。
メイディア「……何?」 袖で拭って平静を装う。