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レイディ・メイディ 第11話

第11話:先生を捕まえろ

氷鎖女「先日の試験の結果は廊下に貼り出される。それを各々確認するように」

 
 朝。

黒薔薇クラスで教官の氷鎖女 鎮が言った。

 

氷鎖女「……えー……その~……まぁ……何だ……えっと……あー……」

学徒たち「?」

 

 一つ咳払いをして、

 

氷鎖女「全体的に……よく……やったと思う。試合に負けた者も今度の反省を生かして次につなげて欲しいと願うものである。……試験については以上」

   「…………授業を始めるでござる」


▽つづきはこちら

 “えー”だの“あー”だの考えている時間が長かった割に短く話を切り上げ、すぐに講義に移る。

 ずいぶん淡泊な褒め言葉だが、あれが彼にとっての精一杯だ。

 言葉とは、必要最低限のことが伝わればそれで構わないというスタイルで年月を過ごしてきてしまった彼にとって、教え子を褒めてあげるのはなかなか勇気のいることであった。

 第三者同士でならばなんということはないのだが、直接相手に感想を口にすることはとても難しいと感じている。

 つくづく自分は人前に出るものではないと氷鎖女は思った。

 今回の試験を目処にしていたのか今回の講義からは新たな魔法が教えられることとなり、学徒たちは大いに喜んだ。

 

氷鎖女「すでに基礎となる土台部分は諸君らの努力によってできあがりつつあると思う。どんなに多くの魔法の種類を知っていようと使いこなせないのでは意味がない。例え一つしか術を知らずとも、それを突き詰めていけば新たな術を知るより奥が深いやも知れぬ」

 

 この教官がどのように受け持ちの学徒を育てようとしていたかが先の実技試合で判明した。

 そして結果は見事に形を成して現れた。

多くの勝利を以て。

 

氷鎖女「ただし、知識は多いに越したことはない。諸君らが一人一人顔も性格も違うように、それぞれに合う術、合わぬ術も出て来よう」

 

 こうなれば後は彼についていけば良いだけなのだと多くの学徒が確信する。

 

氷鎖女「知識の幅が狭ければ選べる幅も狭くなる。よって、今期からは多くどのような術があるのか、またその基本的な使い道を学習してゆこうと思う」

 

 半年をかけてようやく氷鎖女は自分の受け持つ候補生たちの信頼を勝ち得たというところか。

 他の教官たちよりもだいぶ遅れたが、その分、効果が出たときには影響が大きかった。

 

氷鎖女「知識をいきなり多く詰め込んでも使えないのでは仕方なし。その点、諸君らはほとんど土台ができあがっている。しっかりした土台の上になら、どんな建物でも立つ……まぁ、そういうことでござるよ」

 

 ただし、彼は実のところ、そこまで教え子たちの信頼を得ようなどとは考えていなかったのだが。

 ……というよりもその重要性に気づいていなかったという方が早いか。

 彼は数字や理論でものを考えるクセがあり、人間同士のつながりを軽視する傾向にある。

 結果的に学徒たちの信頼を得ただけで、当人は自分がどう思われているのかに気がいっていない。

 今は一方的に学徒たちの方が先生を認めたというところだろうか。

 もちろん、それがまるで通じていない学徒だっている。

 クレス=ローレンシアその人だ。

 教官のおかげなどと少しも感じていないこの少年。

全て自分の力と思ってはばからなかった。

 実際に教官の授業などまともに聞き入れていなかったのだから、彼の実力だけなのかもしれない。

 試験結果が廊下に貼り出されると聞いて、自分とリクとどちらがNO,1だろうなどとおこがましいことを考えてニヤニヤしている。

 自分が大減点を食らったことなどつゆとも思わずに。

 こんな調子では、後で結果確認したら腹を立てることになるだろう。

 何故自分がこんなに評価されていないのかと。

 始まる前に勝ち負けだけではないと注意を受けたことも忘れて。

 

氷鎖女「そもそも四大元素というものは自然界の法則に  ……」

 

 教官は相変わらず抑揚がないしゃべりの退屈な授業を展開していたが、これまでと違い皆、真剣に受けている。

 氷鎖女自身は不思議に思っていたが、きっと試験があって気が引き締まったのだろうと軽く片付けてしまった。

 これから起こる自分にとっての恐怖の幕開けとも知らずに。

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