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レイディ・メイディ 11-4
2007.11.13 |Category …レイメイ 11-13話
始業の鐘が鳴り、教室に氷鎖女が入ってくる。
氷鎖女「えーと……」
『なんだ、今日はやけに生徒数が多いな』
人数が多いため、同じ教科だとしても教える学問の教師が何人もいる。
学徒たちは好きに学びたい授業を選択してカリキュラムを組み、どの先生に習うかも選べるのである。
教えるのが上手い教師や人気のある教師の元には当然、学徒も多く集まってくる。
氷鎖女はといえば、例によって初心者向けではない眠りを誘うような講義の展開で学徒に人気がない。
黒魔術の方では完全にクラスとして区切られているので人数はどこも同じだが、学問の方では教室がガランとしているのが常だ。
机も椅子も余っており、人気クラスに入りきれなくてあぶれた学徒が仕方なく来るたまり場のようになっていた。
机に伏せて寝ている者も多いが、氷鎖女が注意しないので余計に昼寝場所と化してしまっていた。
そんな彼のクラスに今日は何故か人が多い。
しかも女子ばかりだ。
原因は普通の感覚の持ち主ならば、リクの周囲に女性しか座っていないことですぐに見当はついたのだろうが、氷鎖女はそういったことに疎い。
誰か同じ教科を教える先生が休んだのかもしれないと単純に考えた。
そんな鈍感な彼がいつも通りのつまらない授業を展開している頃、クレスは職員室で大騒ぎ。
青薔薇のヴァルト教官に取り押さえられていた。
▽つづきはこちら
ヴァルト「お前、ヒサメ殿のクラスだな? まったくあそこは優秀だが、一方で問題も多いクラスだな。後で担任にこのことは伝えておくぞ、クレス=ローレンシア」
クレス「放せ、放せ!」
ヴァルト「まったく、お前は自分をもう少し理解するところから始めた方がよさそうだな」
職員室から放り出し、知りたければ氷鎖女個人の教官室に行って、説教でも受けてこいと突き放される。
クレス「くっそぉ~」
職員室とは、学問・実技両方の教官がそろって机を並べている場所だ。
何かあったときにここへ来れば、必ず教官の幾人かは待機している。
また、会議の場としても使用されていた。
対して教官室は個人執務室である。
執務はどちらで行っても構わないのだが、やはり資料の多い魔術系の教官は個人執務室につめていることが多い。
一対一になれるため、指導室としてもよく活用されている部屋だった。
クレス「ちぇ」
ヴァルトの言葉に従うつもりではなかったが、言いたいことは山ほどある。
仕方なく氷鎖女の個人教官室に足を運ぶことにした。
自分が何故あんな成績をつけられてしまったのか、納得のいく説明をしてもらおうではないかという考えだ。
実際には担任だけが成績を左右するワケでなく、白・黒・赤・青関係なく試験官全員の評価が入る。
公平に試験を執り行うためだ。
むろん、普段の態度や授業中での取り組み、小テストの結果などは担任だけの評価になるのだが。
話を聞いていなかったクレスは、基本的なことも理解していない。
クレス「ちょっと! 開けるよ」
2、3、ノックして返事がないとクレスは勝手にドアを開けようとした。
ノックしても返事がないのだから、現在講義中であるとすぐに気が付けば良かったものを自分が専攻していなかったものだから、ついぞ忘れていたのである。
クレス「返事くらいしたら? トイレ? ホントに入るからね!」
ノブを回すが開かない。
クレス「鍵? ……もー、しょうがないなぁ」
勝手にトイレだと決めつけて、ドアの前で待つことにした。
手洗いならば少しすれば戻ってくるだろうと思ったのだ。
クレス「よいしょっ……と」
背中を木製扉に預けた途端、いきなりドアが縦回転。
クレス「うっわっ!?」
クルリと回って、部屋の内側に落っこちた。
クレス「イッテテ…… 何だよ、このドア~」
尻をさすってめくれ上がった衣服を直す。
クレス「何この部屋、真っ暗じゃん。昼間なんだからカーテンくらい開ければいいのに」
勝手に奥に進んでカーテンを大きく開いた。
クレス「根暗な陰気先生なだけあるよ、まった……………………く!?」
カーテンを開けて日が差し込むと、暗がりに隠れて見えなかった部屋全体があらわになる。
クレス「………………う……」
生唾を飲み込み、大きく息を吸い込む。
クレス「うっわーっ! うっわ、うっわ、うっわあーっ!! だっだだだた……誰かっ! わーっ!?」
その壮絶な状態に血の気が引いたクレスは再びノブに飛びついた。
先程は一瞬のことでどうやって中に入ったのかわからなかったクレスは一生懸命にノブを回すがドアは開かない。
クレス「ど、どうなってんの!? ふざけないで出せっ!!」
部屋の主はいなかった。
代わりに黒い髪の、こちらでは見たことのない装いの衣類を着た小人が気味が悪いくらいにずらりと並んでいたのである。
クレス「なんだよ、来るのか!? やるかっ!? やるのか、ちくしょうっ!?」
勢い良くもう一度振り返ってみると……
クレス「ア、アレ? に……人形……?」
瞬間、小人に見えたのは、ただの人形だった。
みんな一様に目隠しをされており、意味深に思えたがやはり人形は人形でしかなく、恐る恐るつついてみたけれど何の反応も返っては来なかった。
反応があったらあったで困るのだが。
クレス「なんだよ。人形かよ、驚かせやがって」
悪態をつきながら体長40~50cmの人形を一体手に取ってしばらく弄んでみる。
チリンと澄んだ音が鳴り、人形が着ている着物の帯に丸い鈴がついているのに気が付いた。
クレス「よく動くな……」
間接一つ一つがちゃんと動く。
なぜ目隠しがされているのだろうと布を取ってみたが、黒く描き込まれた切れ長の目があるだけで隠す必要などないように思われた。
クレス「目を描いた後で乾かすつもりだったのかな、この布」
凜とした強さが伝わってくるような、それでいて奥ゆかしい色白で美形の女人形だ。
妙に感心してから床の行列に戻した。
他にも部屋の物を勝手に物色してみたりドアを再び調べてみたりもしたが、結局出られないと観念したクレス。
落ち着きを取り戻し、部屋の主が帰ってくるのをのんびり待とうという結論にたどり着いた。
いきなりで驚いた光景だが、たかが人形ではないかと居直ることにしたのだった。
ぐるりと見渡してみると人形と本の山とスケッチブック。
それに描きかけの絵。
そういえば、何もしない授業……つまり瞑想の時間と水晶に魔力を送り込むだけの時間に教えることがない氷鎖女が何をしていたかというと、スケッチブックに何か書き込んでいたり、木を削りながら本を読んでいたりと好き勝手なことをやっていたと思い出す。
生徒に瞑想や魔力を水晶に送り込むだけの修行をさせるのは、自分が別のことをしていたいからだと思っていたけれど。
クレス「……ふぅん? 絵……上手いんだな」
今度はスケッチブックをパラパラとめくる。
クレス「こんなに上手いなら魔術の先生よりも画家になったら良かったのに」