レイディ・メイディ 第１２話

第１２話：おもちゃのマーチ

　どのくらい眠っていたのだろう？　そんなに大した時間ではなかったハズだ。

　彼は重大なミスを犯していた。

　それは人形の目隠しを取ってしまったことだ。

　元に戻すこともせず、目隠し布は下に落ちたまま。

　布には奇妙な文字が並んでいたのに、どうして警戒しなかったのか。

 

　ちりん……

 

　鈴の音が鳴った。

　一度、二度。

　窓の閉まった空間に鈴をゆらす風など存在しないというのに。

　三度目はすぐ耳元で音を揺らし、クレスはまぶたを持ち上げた。

　ひゅっと風を切る音。

　突然、左耳と頬に熱が走り、痛みとすぐに気付いて頭を廻らせる。

 

クレス「！？」

 

　鈴の音はあの人形のものだった。

　表情のない人形が、机の上に乗って短刀を抱えている。

クレス「げげっ！？」

 

　人形がジャンプ。

クレス目がけて切りかかってきた。

 

クレス「うっわ！？」

 

　椅子を弾いて勢いよく立ち上がり、辛くもそれを避ける。

 

クレス「何だよ、コレッ！！」

 

　持ち前の木製杖で襲ってきた人形を叩き落とし、ドアまで走る。

 

クレス「ちくしょう、開け！　どうして開かないんだよっ、このぉっ！」

 

　魔法でドアを破壊できればよかったのだが、残念ながら人形の素早さがそれを許してくれない。

　背を見せていると服の上から切り裂かれる。

 

クレス「うっ！　痛っ」

　　　「ふざけるな、ゴーレムめっ！」

 

　杖で応戦するが、今度は全く当たらない。

　鈴の音を部屋いっぱいに人形は切りかかってきた。

 

クレス「うわぁ！？」

　　　『こっ……殺されるっ！？』

 

　ドアに背中を押し付けて、顔を手でかばった。

　瞬間、クルリとドアが反転。

　景色が一瞬にして部屋の中から廊下に変わった。

　来たときと同じように尻を突き出して倒れるクレス。

 

クレス「わっ、わっ！　ゴーレムが……っ」

 

　すぐさま起き上がり、めくれ上がった衣服を直して身構える。

 

クレス「……………………ア、アレ？　廊下？」

 

　人形は目の前からいなくなっていた。

　いくらか安堵して息をついた途端、ドアに衝撃。

　見ると刃物の先が飛び出している。

 

クレス「まだ追ってくるつもりか。でももうダメだよ。魔法でぶっ飛ばしてやる！」

 

　魔力を媒介する杖をドアに向けて呪文を唱え始める。

　その間にも人形は何度も木の扉を刃物で刺してこじ開けようとしていた。

 

リク「あ。クレス」

 

　丁度そこへ部屋の主を連れたリクが現れた。

 

氷鎖女「おお、何をやっておる？」

クレス「吹っ飛べ！」

 

　爆破の魔法を放つ。

 

氷鎖女「む。いかぬ。その戸は　　　」

 

　ちゅどーんっ☆

 

クレス「ぎぃゃああっ！？？」

 

　至近距離で放った魔法は扉を壊すどころか跳ね返ってクレスを吹き飛ばす。

 

リク「あ～らら」

氷鎖女「愚か者」

クレス「あが……あがががが……」

 

　後ろに吹き飛んで壁にめり込んだクレスがズルズルと落ちてくる。

　真っ黒になった状態で。

　ドアには魔法を跳ね返す魔法がかけられていたのだ。

　さすがは黒魔術師の部屋……と言いたいところだが、ここはあくまで養成所。

余計なことをする必要はない。

部屋の主の趣味以外の何物でもなかった。

 

氷鎖女「何をやっているでござる。ヒトサマの部屋の前で」

クレス「うっ……くく……」

 

　震えながらもなんとか起き上がり、

 

クレス「何なんだよ、この部屋ーっ！！」　ガルルルッ！

 

　噛み付く勢いで部屋の主に攻め寄った。

　その間にもドアは内側から壊されようとしている。

 

氷鎖女「うん？　誰ぞおるのでござるか？　よもや侵入者ではなかろうな」

 

　リクにつかまれた着物を払って自分の足で立つ。