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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 12-5

クレス「こんにゃろ~!」

 

 痛かったのは確かだ。

 けれどちょっぴり嬉しかった。

 やはり祖母もこうしてクレスが騒ぐと最後の仕上げとばかりに傷口を叩いて「はい、おしまい」と言う。

 

                     「このくらいで泣かないの。(おとこ)()でしょう」

 

 祖母の声が重なったような気がした。

 何故、出会っていくばくもしない若い男と長年共に暮らした祖母とが重なったのかわからない。

 どこにも接点はないし、共通点もない。

 きっと今日の自分はどこかおかしいのだ。

 怒ったフリをしながらクレスは胸がじんわりと温かくなるのを感じていた。


▽つづきはこちら

氷鎖女「……で? 何だっけ? ああ、そうそう。勝ち負けだけでなく……」

クレス「もっ、いいっ!」

 

 勢いよく椅子から立ち上がって縦回転の扉から出ていってしまう。

 逃げるような騒がしい足音が遠ざかると教官室は急に静かになった。

 

リク「? 何の用だったの、アレは」

氷鎖女「はて。まぁ良かろ。して? そちらは何と?」

 

 適当にはぐらかしてリクの用件を促す。

 

リク「やあ、別に用件とかそういうんじゃなくてねぇ……うーんと……なんと言ったらいいか……。さっきも言ったようにただ、先生と話をしたいだけなんだよ」

氷鎖女「拙者となんか話しても楽しくないでござる」

リク「そんなことはない。講義はいつも楽しく拝聴させてもらってるよ」

氷鎖女「……だいたいの者は退屈しておるようだが。物好きな奴よな」 首をすくめる。

 

 実際に眠るために彼の授業を選ぶ失礼な連中も中にはいるのだ。

 教え方が上手でない彼にも多分に責任はあるのだが。

 

リク「俺は楽しいんだ。合ってるのかな。例えば、数学であっても図形なら空間能力を。理学なら自然と化学の(ことわり)を……。どこか魔法や剣術と関連づけて話しているのが面白い。確かに武器をふるう際にだって空間能力は必要だよね。瞬間的に相手との距離をはからなくてはならないし、どのくらい離れているかでかかる負荷も違ってくる。魔法でもそれは一緒だしねぇ」

氷鎖女「ほぅ。よくわかったでござるな」

リク「だって授業で先生が言ってたんじゃない」

氷鎖女「それはそうだが……」

 

 数学なら数学。理学なら理学と割り切った授業ではなく、剣技や魔術と関連づけて説明をするから氷鎖女の授業は説明がやたらと長く生徒を退屈させてしまうのであった。

 ただ、注意して聞いていれば剣術・魔術に役立つヒントが多く含まれているのである。

 

リク「魔法は自然と化学の仕組みも知っておけばとっさの切り替えに役立つし、同じ魔法にしても使える幅が増える」

氷鎖女「そういうことだ」

 

 口元がニヤリと吊り上がる。

 

リク「それから……」

 

 結局リクは一日分の学問授業をサボって教官室に入り浸ってしまった。

 最終的には部屋で将棋など打ち始めてしまう。

 遠い西の果て、ローゼリッタにおいてまさか将棋の相手をできる人物がいると思っていなかった氷鎖女は驚いたようだったが、リクの服装を見て納得したらしい。

 リクは正真正銘ローゼリッタ出身だが、異国人の父にこの遊びは習って知っていた。

 こちらのチェスに似た頭脳遊びである。

 コマを奪い合い、キング(王)を攻め落とす盤上の小さな戦争の図だ。

 打ち手は軍師としてコマをどう動かし、相手を誘導して誘い込むか。そこに尽きる。

 

リク「わー、負けた。やっぱり地元は違うなぁ」

氷鎖女「ふふん。まいったか。……が、いい筋をしておった」

リク「父にも言われたよ」

氷鎖女「(とと)様? ふむ。……そうか」 何度かうなづく。

 

 その後少しの沈黙。

時々起こる、会話の途切れる瞬間というやつだ。

 ぐぎゅるる。

 タイミングを見計らったように、どちらともなく腹が鳴った。

 気づけば窓の外は夕暮れになっており、昼食を食べそびれていたことを思い出す。

 昼食を飛び越えてもう夕食の時間だ。

 こちらの校舎に残っている学徒はまばらで大半は宿舎の方へ移動してしまっている後だった。

 

氷鎖女「お主も行け」

リク「あ~。早かったなぁ。じゃ長々とお邪魔しました」

氷鎖女「うん」

 

 ドアに手を当ててから少し考えて振り返る。

 

リク「また遊びに来てもいいかな? たまにでいいから」

氷鎖女「……サボらぬ程度になら」

リク「了解」

 

 縦回転のふざけたドアをくぐった。

 薄暗くなった廊下を歩き、一度振り返ってみる。

 

リク「おもちゃ箱みたいな部屋だ」

 

 小さく微笑んだ。

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