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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 第8話

第8話:憧れ

 レイオットは試験の舞台に上がると深呼吸を繰り返してきりっと表情を引き締めた。

 対するは青薔薇候補生・レク。

 こちらも胸に手を当てて高鳴る緊張を押さえ込んでいる。

 

審判「両者、前へ」

 

 二人、前に進み出て鞘から剣を引き抜く。

 キンッ……!

 互いの剣を合わせるのを合図に試合が開始された。


▽つづきはこちら

「キャーッ! レイ様ーっ!!」

「レイ様、カッコイイーッ」

「こっち向いてーっ!!

「そんな奴、やっつけちゃってーっ!!」

 

 途端に黄色い声が飛び交う。

 その辺に敷物を広げて結局、居座ったジャックとガーネット。

 ジャック持参の弁当まで広げてほとんどピクニック気分。

 

ジャック「なんてことだ。あれではわわわわわ君がっ! よし、我々も応援だ、ガーネット」

ガーネット「このお弁当、誰が作ったんだ? 結構イケる……」 モグモグ。

ジャック「私だ」 あっさり。

ガーネット「ぶっ!?」

 

 食パンに野菜やハムを挟んでクルクルと巻き、真ん中を楊枝で止めた丸いサンドイッチは見た目にかわいらしくカラフルだ。ウインナーはタコさん形になっており、デザートのリンゴもウサギさん切りだ。

 他にも煮物にサラダにカラアゲに全て手が込んでいる。

 とても男の手料理とは思えなかった。

 

ガーネット「いや……いいんだけどさ……」

 

 独りつぶやいてプチトマトを口に放り込む。

 

ジャック「よし! がんばれ、わわわわわ君っ! フレー、フレー、わ・わ・わ! がんばれがんばれ、わ・わ・わ!」

 

 クロエ応援用の物にいかにもとってつけましたと言わんばかりの「わわわわわ君、頑張れ!」と書き足した旗を大きく振ってみせる。

 

ガーネット「だから、片方だけを応援したら……」

ジャック「それもそうだな。じゃあもう一人の方も書き足そう」

ガーネット「そういう問題じゃなくて……んぐ。もぐもぐ……お茶」

ジャック「んっ」

 

 ジャック、水筒のお茶をガーネットに手渡す。

 

ジャック「で? 彼女の名前は何というんだ?」

ガーネット「知るワケないだろ……って、“彼女”って誰?」

 

 水筒から口を離して横を見る。

 

ジャック「だから、それを私が聞いているのだ」

ガーネット「アンタが知りたいのは、対戦相手じゃないんです?」

ジャック「その通り。だから、彼女の……」

ガーネット「……彼女?」

 

 試合会場に目を向ける。

 戦っているのは一、二度会ったとしても覚えていられないであろう程度のどこにでもいそうな平凡な少年と一挙一動でさえ無駄がない程に洗練された動きをする、長髪の美少年。

 彼女と呼ばれる女性の姿などどこにも見当たらなかった。

 

ガーネット「誰のコト言ってんだ……」

ジャック「もぅ、頼りにならんなガーネットは。もういい、食べてろ」

ガーネット「あーあー、食べてていいなら食べてよ」

女子学徒たち「レイ様ーっ ステキー!」

ジャック「ん? レイサマか」

ガーネット「レイじゃないのか?」

ジャック「よし、レイだ」

    「ファイトだレイちゃん……っと」 旗に書き足す。

ガーネット「レイちゃんって……」

 

 何を考えているのやら。

相変わらずわけのわからない人だ。

 ガキィィンッ!

 ステージ上では剣と剣がぶつかって火花を散らしている真っ最中。

 長身とはいえ、やはり女だ。力が直接ぶつかりあうとレイオットは不利になってしまう。

 

レイオット「くっ……!」

 

 はじかれて後ろに二、三歩引く。

 

女子学徒「コラーッ! レイ様に何すんのよっ

    「ブー! ブー!」

    「レイ様に傷をつけたら許さないからっ!」

    「やーん、レイ様がんばって! そんな奴、けちょんけちょんよっ」

 

 すっかり悪役にされてしまっているかわいそうなレク。

 

レク『クソッ……やりづらいな。いや、集中だ。ギャラリーなんか関係ないっ』

 

 レイオットが背後にたたらを踏んだ瞬間を見逃さず、懐に飛び込んだ。

 

「そうだ、一気にたたみかけろっ!」

 

 女の子たちの罵声の中で一声、レクを応援する声が上がった。

 

レク「!」

 

 無意識に視線を滑らせて声の方向を確認すると、学徒たちの輪を抜けたその向こうに憧れの人の姿が一瞬見えた。

 

レク『ガッ……ガーネットさんっ!』 ドキ…… 鼓動が大きくはねた。

 

 あの時あの瞬間。

 忘れもしない幼い日。

 彼は森で魔物に教われ、ガーネットに救われた。

 行ってはいけないと強く止められていた森に内緒で遊びに行った帰り道、魔獣の縄張りに踏み込んだレクは腰を抜かして目前で大きく開かれる口をただ凝視しているしかなかった。

 牙が自分を引き裂く場面が頭に浮いて恐ろしさに声も出ない。

 あわやという一瞬、飛び出して来たもう一つの影。

 マントをひらめかせてレクと魔獣の間に割って入ったのはまだ少年だったガーネット、その人だ。

 素早い剣さばきであっと言う間に魔獣を倒して振り返る。

 

ガーネット「おい。大丈夫か、お前」

 

 あれから数年。

 恩人の名前すら知らずにいたが、国の記念日に行われる薔薇の騎士団によるパレードで青の薔薇騎士になっていたガーネットの姿を発見した。

 青い制服に身を包んだ彼は、数年前よりも大人びてもっと凛々しくなっていた。

 レクは憧れからとうとう自分も剣の道に踏み込んだ。

 あの人に一歩でも近づく、そのために。

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