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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 7-2

 満足な結果を誇示したクレスは邪悪な笑みを張り付かせたままで「勝者・クレス=ローレンシア」という声を背中に聞きながら、石作りの試験舞台を降りた。

 次に四角く切り取られた石の舞台に上がるリク=フリーデルスと間近にすれ違い、鼻を鳴らす。

 自分のライバルになるのは恐らくこの男だと直感的に感じていた。

 挑発に乗ることなく、リクは階段を上がって行く。

 

クレス「ふん、スカしちゃってサ。ホントは内心ビビッてるクセに」

 

 一度足を止めて振り返る。

 

「両者、準備はよろしいか?」

「ハイ」

「いいよ」

 

クレス「お前の実力とやらを見せてみなよ、リク=フリーデルス。僕にちょっとでも近づけるのかどうか、見定めてやるから」

 

 試験官室で両手の指を組み合わせ、そこに細いアゴを乗せる氷鎖女。

 

氷鎖女『才能でいうのなら……まずはクレス=ローレンシア』

   『そしてもう一人……』

 

「では、……始めっ!」

 

 リクの試験試合が今、スタートした。


▽つづきはこちら

 ところで。

 観戦に洒落込もうと離れたところまで歩いて来たクレスを待ち構えていた影が一つ。

 

メイディア「貴方っ!」

クレス「ん?」

 

 腕を組んで仁王立ちするクラスの名物女。

 シャトー家とかなんとか言って、権力を振り回しているいけ好かない女だ。

 

メイディア「貴方、貴方、貴方ッ!!」

 

 怒りに燃えた瞳で一直線にクレスに近づく。

 とうとう鼻先が触れるくらいにまで。

 

クレス「な……なんだよぅ」

 

 勢い負けしてつい口ごもってしまった。

 

メイディア「なんだよですって? まぁ、そんな知らない口を利くのはどのお口でしょうっ!?」

クレス「……あ……」

メイディア「ええ、そうです。そうですよォォ~? 貴方のッ! カッコつけて放った魔法ッ! まだワタクシたちが習ったことのない魔法ッ! ええ、それはそれは見事でしたわ。ええ、ええ、それはもう……ワタクシの自慢の髪を凍らせるくらいにねっ!!」

 

 彼女は……

 左半分だけ凍りついていた。

 左鼻から鼻水が垂れている。……が、それも凍っていた。

 自慢の黄金の髪はやはり左前半分だけ凍てついて、変に触ったら折れてしまいそうだった。

 

クレス「避けられない方が悪……っ」

メイディア「おだまりっ!」

 

 ペペペペペペッ☆

 胸倉をつかまれたクレスは頬に平手を往復50回食らった後、コブラツイスト、四の字固めを経由してその辺に打ち捨てられた。

 まるで粗大ゴミ扱いだ。

 先程の魔法の威力、そして邪悪なる空気を感じ取って他の学徒たちは彼に近寄ろうとしなかったのだが、このいけ好かない女だけは違ったようだ。

 被害をこうむった一人だというのに、クレスの残忍さなど意に介さず。

 ある意味、さすがと言っておこう。

 頬を真っ赤に腫らして口から血を流し、横たわっていたクレスが目を覚ましたときにはリクの試合が終わる頃であった。

 気を失っていたのはわずかだったハズだ。

それで勝敗がついたというのか。

 

クレス「せっかく力の程を見てやろうと思ったのに邪魔しやがって、あの女……………っていうか、気絶させるかフツー。クソッ……い、今に見てろ。凶暴女め」

背後から声「どなた? 凶暴な女性って?」

クレス「スミマセン、ゴメンナサイ。違イマス。アンタジャアリマセン」

 

 魔法でもないのに氷点下の風を背に受けて、クレスは声の正体をあえてさぐろうとは思わなかった。

 

クレス『くそぅ。僕の試合見てたクセにっ! なんて奴だ』

 

 恐れを知らないとはまさにこのこと。

 自分を畏怖しない少女にクレスは腹をたてた。

 彼らが騎士を目指すという前にその候補生にすらなれるかどうかの試験があった。

 候補生になれたとしても騎士にまでたどりつける確率は低いというのに、それ以前に候補生となってここで学んでゆく資格があるのかを始めに試されたのだ。

 そこで大部分の者が落とされるワケだが、不思議なことに魔法や剣術をすでに学んでいても落ちる者は落ちるし、0からスタートする者でも残る者は残る。

 底に眠る才能を見抜く眼力を持った試験官たちが、力添えをしてやれば今後も充分に伸びるであろう可能性をある程度見極めるだけでなく、受験者たちがこの内容に意味があるのかと訝しんだアンケートやふざけた問答にも選ばれる理由があったのだ。

 学徒たちには知らされていないが、精神分析や適応能力を測られたのである。

 養成所に入るそれだけで大変ではあったものの、クレスに持ち前の魔法を大々的に披露する機会は恵まれなかった。

 能力検査は試験官の前でだけ行われたからだ。

 そして候補生になってからも運の悪いことに担任となった教官が魔法を使わない授業ばかり展開

する。

黒魔術師を育てるのにかかわらず、だ。

 本当だったら、いきなり授業で大きな魔法を見せつけ華々しく鮮烈デビューを飾り、数多のライバルを黙らせてやるつもりだった。

 しかしその計画もヒサメクラスだったために実現しなかった。

 幼くして両親を亡くしていたクレスは祖母と二人きりで質素な暮らしをしていたが、親がいないという本人ではどうにもならない理不尽な理由でからかわれたりいじめられることが多かった。

 村の悪たれ共は自分たちと少しでも違っているとそれを理由にからかいに走る。

どこでもありがちな背景だった。

 そのせいでこの養成所に入ってからもほとんど他人と接する事なくこの半年を過ごしたクレス。

 養成所ではクレスの家族構成を知る者などいないし、知ったとしてもそんなことでからかってくる連中はここにはいなかっただろう。

 だが、村でのことを未だ引きずっている彼は人に寄ろうとはしない。

完全に身構えてしまっている。

 ほとんどの学徒はルームメイトやクラスメイトの中に気の合う相手を見つけているというのに、彼には未だ友人と呼べる人間が一人もない。

 本人もそんなモノは望んでおらず、むしろ周りは全て敵だという勢いである。

 鮮烈デビューで印象づけたかったのも周囲にナメられないためだったのだ。

 が。この半年間、その機会に恵まれずに埋もれていた。

 本当の僕はもっとスゴイんだ、知らしめてやるなどと心に強く思い描きながら、一人の天才少年は凡人として退屈な授業に耐えていた。

 誰も彼の才能の真価を知らなかった。

 先程の惨事を目にするまでは。

 ようやくここにきて、真の実力を示せるときが来たのである。

 声も出ない様子で目を見張る学徒や白の正騎士たち。

 奴らの青ざめた顔ったらない。

 

クレス「なのに……」

 

 この女は何だ。

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