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レイディ・メイディ 6-4
2007.11.02 |Category …レイメイ 6-10話
簡単に及ぶようでは教官は勤まらないというのに本気で考えている浅はかなメイディア。
この半年間の間にもくだらない大作戦でずっと戦っている。
もはや理由を覚えているかどうかも怪しいくらいなのだが、とにかく一度はギャフンと言わせたいもよう。
真剣になって考えていると呼び出しがかかった。
母親が門の前まで来ていると。
普段なら一も二もなく追い返されてしまうところだが、今日は日曜日。
娘と面会しても良い日である。
呼ばれた方もこの門を開けて向こう側の母親のところへ直接会いに行っても良いワケだ。
正門の前に馬車が止まっている。
何も知らない学徒たちが「貴族の馬車だ」と興味津々に集まっていた。
ジェーン「メイディア様のお母様が来てるんですって! 見に行かない?」
モーリー「行く行く」
アン「あ、うん……」
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訓練を一時中断して追いかける取り巻きたち。
メイディア「お母様!?」
見覚えのある馬車を確認するとメイディアは、この養成所では見せたことのない素直で無邪気な笑顔に変わった。
メイディア「お母様、お母様っ!」
はちきれんばかりの喜びを表して駆け出す。
馬車のドアを御者が開き、まばゆいドレスに身を包んだ貴夫人が姿を現した。
母「メイディ」
メイディア「お母様! どうなさったの? いつお帰りになったの?」
母「メイディ、走らないの」
メイディア「あ……はい……」
あわてて立ち止まり、静々としかし颯爽と貴族の姫らしく足を運ぶ。
姿勢、足の運び方に至るまで教育されており、お姫様は駆け足などご法度なのだ。
はやる気持ちを抑えてようやく門の前までたどりつく。
母「お久しぶりね、メイディア」
メイディア「はい、お母様」
母「驚きましたよ。急に行方不明になったかと思えばこんなところに入校していただなんて……」
深くため息をついた。
メイディア「だって……」
しょぼくれて肩を落とす。
母「何度もお手紙を出しましたね?」
メイディア「はい……」
母「読みましたか?」
メイディア「はい……」
母「ではなぜ戻ってこないのです?」
メイディア「………」
母「貴女はもうすぐ嫁ぐ身なんですよ? こんなところでケガでもしてごらんなさい! 婚姻破棄になるかもしれないというのに……! いいえ、それ以前に貴族の姫君である貴女がこんなところにいること自体シャトー家の恥です」
メイディア「でも薔薇の騎士団は国の誇りだってお父様も……」
母「それは男性のお話しでしょうっ!? 貴族の姫が薔薇の騎士だなんて聞いたこともありませんっ!」
メイディア「そんなことはないわ。だって、赤薔薇を統率する将軍は女性でしてよ? それも貴族の」
母「あの家は代々武家色の強いお家柄で貴族と言っても位はあまり高くありません! けれどウチは違います。シャトー家は格が違うのです。どうしてそれがお解りにならないの、この子は!」
メイディア「…………」
母「ほら、お母様が直々に迎えに来てあげたのです。今すぐ、その門を開けて、こちらにいらっしゃい。新しいドレスの寸法を測りに行きましょう。……貴女の花嫁衣装を、です」
メイディア「……いや……」
母「なんです?」
メイディア「イヤです。お断りして下さいな。メイディアはまだ嫁ぎたくございません」
母「いい加減になさい。貴女のワガママはもう充分。今までもずっと好きなようにさせてきたでしょ? いいこと? 貴女の嫁ぎ先はお父様がずいぶん手を尽くしてお約束して下さったのですよ? この縁談がまとまれば、シャトー家の未来は安泰です」
メイディア「今でも安泰ですからご心配なく」
母「おだまり! 貴女なんかに何がわかりますか!? 相手のお家柄は知っているでしょう? 公爵家ですよ」
メイディア「でもワイズマン公はご老人でいらっしゃいますわ。お子様どころかお孫さんまでいらっしゃって……ワタクシよりもそれこそ何倍も年上でございます」
母「失礼なことを言わないの! 貴女の将来のためです」
メイディア「シャトー家の将来のためでしょう!? ワタクシ、絶対に戻りません! シャトー家から誉れ高き薔薇の騎士が出ればきっとお母様もお父様も気が変わります。薔薇の騎士になったら、きっと活躍するわ! 小隊長になって、中隊長になって…それから大隊長になるの! そうしたら誰もがシャトー家に一目置くようになるでしょう! そして姫だって道が婚姻だけでないと世に知らしめるの!」
母「愚かな考えは捨てなさい! 女性の幸せはどの家に嫁ぐかで決まるものです。メイディア!」
メイディア「次にお会いするときには立派な騎士になっております。期待していて下さいな、お母様。後悔はさせません。きっと、きっとお父様やお母様が鼻を高くできるくらいに成長してみせますわ」
門を一歩、二歩離れて、背中を向けると一気に走りだす。
メイディア「ご機嫌よう!」
母「メイディア! メイディ、いい加減になさい! 戻りなさい、メイッ! お母様はあきらめませんよ、必ず連れ帰りますからね!」
母の声に今度は振り返る事なく一直線に駆けて行く。
周囲は面白半分に見学していたが、今日のところはあきらめたのか馬車に貴夫人が乗り込んで走り去ってしまうとゾロゾロと元の訓練所へ戻った。
「……………あれが…シャトー夫人…」
誰も居なくなった門の側で、一人の少女が立ち尽くしたままつぶやく。
「あの方が……私の ……」
口元に小さく笑みが浮かんだ。