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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 6-5

 訓練に戻ったメイディアをわっと取り巻きたちが囲

 

「今のが、メイディア様のお母様?」

「奇麗な方ね」

「素晴らしい馬車だったわ。あんなの近くで見たの初めて」

「メイディア様、もうお嫁さんになっちゃうの?」

「メイディア様…」

メイディア「おだまりっ!」

 

 突然の怒鳴り声に場がしんと静りかえった。

 

メイディア「いちいち騒がないでちょうだい! ワタクシはお嫁になんか行きません! 薔薇の騎士になってその名を馳せることでしょう。…貴方たちもそのつもりなのでしょう?! だったら、おしゃべりしていないで練習に励んだらいかが?」

 

 苛立ちをぶつけると取り囲んでいた者たちはクモの子を散らすようにそれぞれ練習に戻っていった。

 

メイディア「フー……

 

 現場に居合わせたリクが逃げて行く連中とは逆にメイディアにって行く。

 彼の怖い物知らずは今に始まったことではないが、よくもまぁあの状態のメイディお嬢様に平気で近づけるものだと周囲は半ばあきれている。

 彼は空気を読むのが下手なのに違いない。…かわいそうに。

 

リク「やあ」

メイディア「何? 貴方もいらしたの? 見世物ではなくてよ」

 

 声をかけただけで鋭くにらみつける。声まで刺々しい。


▽つづきはこちら

リク「ああ、友人に引っ張られてね。別に興味があったワケじゃなかったんだけど」

メイディア「あらそ」

リク「心配してくれていいさんじゃないか」

 

 頼むから火に油を注がないでくれと周囲はこちらの様子をうかがいながらも知らないフリだ。

 

メイディア「良いお母様に決まっています。ワタクシのお母様ですもの」

リク「ハハ、そう思っているならいいんだ」

メイディア「貴方に言われるまでもありません」

リク「それはそうだ。家族は大事に…ね」

メイディア「……………だから。貴方に言われるまでもないというの」

リク「そうね。ハイハイ」

メイディア「…………」

 

 少し黙っていたかと思えば、突然、前触れもなく、

 

メイディア「…のどが乾いた」

リク「ふぅん」 軽く流す。

メイディア「のどが乾いたの」

リク「飲んできたら?」 彼女の言いたいことはわかったが、従うつもりは毛頭ない。

メイディア「持って来て」

リク「うーん…入学当時から言ってると思うけど、俺、君の召し使いじゃあないんだよね」

メイディア「そんな台詞は聞き飽きました」

リク「聞き飽きたのならわかるよね?」 にっこり。

メイディア「さっきも見たでしょ? ワタクシはシャトー家の…」

 先回りをして、リク「令嬢・メイディア様」

メイディア「わかったなら持ってきて」

リク「前にも言ったかと思うけど、ここでは家柄は関係ないよ」

メイディア「外に出たら関係あるでしょう?」

 

 一歩近づき、意地の悪い笑みを浮かべる。

 

メイディア「外に出たときに困るとかお考えでない?」

リク「俺は困ることは何も思い当たらないなぁ」 わざとらしく考えるフリ。

  「あっれー? もしかして脅されているのかな、俺は」

メイディア「まさか」

リク「ご機嫌ナナメだからって当たらないよーにね、お嬢様。そうやって権力ばっかり振り回しているといつか周りに誰もいなくなっちゃうよ?」

メイディア「フン」

 

 ポケットから銀の鈴を取り出して激しく鳴らす。いつものように。

 

メイディア「誰かある!?」

 

 途端に数人の取り巻きたちが水を持って参上。

 

取り巻きたち「はい、メイディア様。これをどうぞ」

      「汗をおかきになりましたか? タオルはいりますか?」

      「リクの奴のことはお気にされないように。アイツはああいう奴ですから。ええ、もう」

      「俺から後でガツンと言っておいてやりますよ!」

 

 リクを睨みつけたままで差し出された水を受け取ると、自分に集まっている連中にぶちまけた。

 

メイディア「やっぱりいらない」

 

 そう言い残し、茫然としている連中を尻目に立ち去ってしまう。

 

女子学徒2人「何なの、アレ」

      「いい加減、嫌になるよねー」

「私、もうメイディアの言うこと聞いてあげるのやめにしてるの。だってバカみたいじゃん。つかれるし」

      「私もそうするー」

      「っていうか、よくここまでもったよね。お嬢様だからすぐに音を上げていなくなるかと思ったのに」

      「でも明日の試験で落ちると思うよ」

      「対戦で当たったら、顔狙ってやろ。絶対泣くよね」

      「えー、それはマズくない? 後で仕返しくるよぅ」

 

 女子学徒の会話が聞こえてリクが振り返る。

 

気がつかない男子クラスメイト「おい、お前、お嬢に逆らい過ぎだぞ?」

リク「逆らう? 別に召し使いでもないんだからそういう言い方もどうかと思うんだけどねぇ?」

男子「バッカだなぁ。お前、目ェつけられてんのわかんないか? 知らないぞ、どうなったって。大貴族様っていうのは、平民なんか虫ケラくらいにしか思ってないらしいからな」

リク「ああ、そういう人もいるよね」

男子「おい~ヒトゴトみたいに言うなよ~。お嬢の機嫌が悪いと周りだってとばっちり食らうんだからな」

リク「それこそ俺の知ったこっちゃないと思うんだけど??」

 

 イヤミでもなく、素で返してくる友人に男子学徒は深く肩で息をついた。

 平民を虫ケラのようにしか思っていない貴族。

 これにはリクも記憶があった。

 3年前、両親と妹が殺された精神的ショックのために病院に入院することとなった。

 その間に身寄りを失った彼は、とある貴族に引き取られることになっていたのである。

 肉親を亡くした少年に差し伸べられた手は哀れみでも労りでもなく、才能と美貌を見初められたお稚児趣味の愛玩具としてだったのだ。

 冗談ではないと病院を抜け出したリクが転がり込んだのが、この薔薇の騎士団養成所だったというワケだ。

 

リク「そうやって皆が手取り足取りしてあげちゃうから、お子ちゃまが治らないんじゃないの?」

男子「お前って怖い者知らずな?」

リク「そう?」

 

 二人の会話に先程の少女2人も聞いていたのか参加してくる。

 

女子学徒2人「ねー、リク君もそう思うのー?」

      「やったね♪」

リク「何が?」

女子2人「リク君が“こっち側”なら怖くないよね! 女子は皆、リク君の味方だもん!」

リク「それはどうも…」

男子学徒「チェ、なんだよ、ソレ」

女子2人「うるさい、不細工は黙ってろー」

男子学徒「何ィー!?」

リク「…やれやれ」

 

 言い争う連中を置いて距離を置く。

 ああやって騒がれるのは苦手だ。

 どうして人間としてどこか欠落している自分に好意が向けられるのだろう。

 好意が嫌なワケではないが、何かしら腑に落ちない。

 

リク『俺は魅力ある人間なんかじゃないんだよ。…ねぇ?』

  「さ、練習しようかな。先生が一度見せてくれたアレ…試してみたいんだよね」

 

 一人で黙々と練習を繰り返した。

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