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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 6-6

 第1回目、試験当日。

 正式に薔薇の騎士見習いとしてこの養成所に入団してから初めての試験になる学徒たちは一様に不安顔をしている。

 試験会場は普段は閉鎖されている、もう一つの敷地にあった。

 

アイビー「可愛いモンだね、ビビッちゃってさぁ」

 

 くすくすと人の悪い笑みを浮かべてその様子を見に来たのは、黒薔薇の正騎士・アイビー=レグン。

 

ジャック「あ、えと……アイビー……さん? アイビーさんも来てらしたんですね?」

 

 黒地に青い斑点のドラゴン「エリーゼ」から飛び降りて、手綱を樹にしばりつけている青年が声を掛けた。


▽つづきはこちら

アイビー「……? 誰だっけ?」

ジャック「ヒドイな、青薔薇・第3部隊・小隊長のジャック=フランツ=グレイング=ジョセフ=アラン=スティーヴン=コンスタンティヌス=ウィングソードであります 敬礼。

アイビー「ああ」

    『長ッ!』

 

 黒薔薇正騎士のアイビーはとがった耳をわずかに動かしてうなづいてみせた。

 そういえばいたな、といったように

 小隊長クラスは多くいるもので、しかも向こうは青。こちらは黒ときたらそうそう面識があるハズもない。

 自分はエルフという珍しい亜人種だから覚えられやすいだろうが、こちらからはいちいち覚えてはいられない。

 しかし、“ジャック=(中略)=ウイングソード”なら知っている。

 ジャックだけではありがちな名前だが、“アンラッキーのジャック”といったなら小隊長ながらに知れ渡った名である。

 知れたいわれは決してカッコの良いものではなかったが……

 

ジャック「やっぱ気になりますよね! 将来もしかして自分の部隊に来る逸材がいるかもしれないし」

 

 手綱を結び終えて歩いてこようとすると、愛竜のエリーゼがその頭をパクリ☆

 

アイビー「……………。」

ジャック「ギャッ!? い、いけない、エリーゼ!! 別に置いて行こうというワケじゃないんだ、寂しくないよ、近くにいるって! ホラ、いい子だから…イ…イデデデッ」

エリーゼ「ガジガジ」

ジャック「いだーっ! エリーゼ、ストーップ!!!」

 

 ようやく解放されたときにはもう血まみれ。

 

ジャック「もー、オイタはダメだって言ってるじゃないか、可愛い奴

 

 ヨロヨロしながらもドラゴンの頭をなでる。

 こんな彼は、数年前に留年を繰り返してようやく薔薇の正騎士の地位を手に入れた24歳。

 剣の実力は小隊長では収まらない強さを誇りつつ、出世できないのは、その不運のためであるともっぱらの噂。

 学徒の頃から歩けば棒に当たるような不運の持ち主で、鳥のフンが落ちてきて目に入ったために勝てる試合が逆転負け。ただ歩いていただけなのに、誰かが引いていた馬に蹴られる、犬に咬まれる、馬車にはねられる、痴漢に間違われる、盗賊の人質に取られる、一人勝手に迷子になる等々、限りない不幸を一身に背負った男なのだ。彼は。

 もちろん、クジに当たった試しはない。

 それでも礼儀正しく明るく爽やかに生きる彼の姿に感銘を受けて生きる力が沸いてくる人がいるとかいないとか……

 とにかくそんなアンラッキー☆ジャックは薔薇の騎士団内の語り草となっていた。

 

アイビー「危ない奴……

 

 シラけた顔で見ているともう一人、青薔薇の正騎士がやってきた。

 ジャックの副官にあたる、ガーネット=グラディウスだ。

 

ガーネット「ジャック隊長! いないと思ったらこんなところに!」

ジャック「ああ、ガーネット」

ガーネット「ああ、じゃないだろ。てっきりまた迷子になって泣いてるのかと思った。……引き取りに行くの、俺はもう嫌だからな

ジャック「そうカッカするなよ。今日は君の妹が出るっていうから応援に来たんだ」

ガーネット「今週は我々が治安部隊として町を廻る番なんだぞ?」

ジャック「わかっているよ。だから、他の隊に代わってもらったんだ。来週が我々だよ、ガーネット君」

ガーネット「そういうことは早く言

ジャック「エー、もう君が回してくれたんだとばっかり……

ガーネット「今聞いたのに伝わるハズがないだろう!?」

 

 今では戦争もないローゼリッタでは、薔薇の騎士団が何をやっているかというと魔物が突然襲来してきた時に出動する他は町の治安部隊として小隊が回っていた。

 中隊は主に次世代……つまり養成所の指揮や小隊の指揮に当たっており、大隊は執務、公務などで忙しく働いている。

 軍は維持するだけでも金がかかる。

 それは当然、民衆の懐から成り立っているのであって、若い世代には人気があっても、何もしないのではただの税金食らいと働き手たちには人気がない。

 だから現在では警察を兼ねた治安部隊として存在を示しているのである。

 いくら平和が続いたとしても、薔薇の騎士団が看板としてあるからこそ保たれているものなので、無くす訳にはいかないのだ。

 

ジャック「まぁまぁ。それよりホラ、垂れ幕と旗を作ってきたんだ。お弁当もあるし……一緒に応援しよう、クロエ君を!」

 

 そう言って巻いてあった巨大な布を開いて見せる。

“がんばれ! クロエ=グラディウスちゃん☆ ガーネットお兄ちゃんも見ているぞ!! 目指せ白薔薇”

 

ガーネット「……………………………」 ひく……

ジャック「よし、行くぞ、ガーネット君っ☆」

 

 ハリキッて学徒たちに紛れ込んで行ってしまう。

 

ガーネット「あっ!? 待て! そっちは試験受ける学徒の集まり、隊長! 隊長!?」

アイビー「あ~あ。行っちゃったよ」

 

 養成所の責任者や教官が学徒たちに試験の説明をしており、その整列している最後尾にジャックがなぜかキチンと並んでいる。

 

ガーネット「ジャ……ジャック隊長、こっち、こっち!」

 

 一生懸命、外れた所から合図を送る。

 しかしちぃ~っとも気がつかないジャック。

 最後尾のレクの後ろに並んで何気なく整列している。

 レクは後ろにいる変な人に気づかず、こちらに何やら一生懸命に合図を送っているガーネットを見つけてハッとなっていた。

 

レク「あっ、ガーネットさん!?」

後ろの人「知り合いかい?」

レク「うん、俺、昔、魔物に襲われたとき、あの人に助けてもらったんだよ。すっごいカッコ良くてさぁ、それで薔薇の騎士を目指そうと思ったんだ」

後ろの人「へぇ。憧れから騎士にねぇ? うんうん。私もそうだったよ」

レク「お前もそうなん? やっぱそーだよなー……って……

  『アレ? 俺が一番後ろじゃなかったっけ?』

後ろの人「何かこっちに合図送ってるぞ。君のこと覚えてたんじゃないのかな? 良かったね、えっと……

レク「……って……

 

 丸くしたレクの目に映るのは、青い制服。小隊長だということを示す勲章。

 

レク「うっわっ!?」

後ろの人・ジャック「えっと、君は何て言うんだろ?」

レク「わわわわわっ」

ジャック「“わわわわわ”か。変わった名前だね」

 

 そう言って柔らかく微笑むと、大きく息を吸い込み、

 

ジャック「ガーネットォーッ! わわわわわ君がぁっ、君にたす……

 

 言い終わる前に一陣の風がやってきて、突風のよーにジャックを連れ去って行ってしまった。

 もちろん、ダッシュでやってきたガーネットである。

 台の上で説明を行っていたヴァルトがめまいを起こしてしゃがみこむ。

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