レイディ・メイディ ６－２

　その頃。

学徒がいなくなった学び舎の建物の教官用会議室で、教官会議が開かれていた。

　それぞれの報告書を読み上げて提出。

 

「この報告書だとまだたったの２つしか呪文を教えていないようだけど、……どうすんの？」

 

　どう見ても１２～３才の少年にしか見えないが、実は１５０年も生きている白薔薇教官・ニケ＝アルカイックが言った。

　それに対し、氷鎖女は「何、大丈夫でござる」と額あてを触りながら答える。

 

「ずいぶんな自信ね？」

 

　そう茶化すように口を挟んだのは赤薔薇教官のナーダ＝エリキシア。

燃えるような赤い髪が印象のこの女性は赤薔薇騎士団の小隊長をも努める現役の赤薔薇正騎士だ。

　同じく現役・青薔薇正騎士で教官のヴァルト＝グラファイト＝イェーリングもそんなに甘くはないぞと付け加える。

　ぐるりと見渡してみれば、他の教官たちも同意見だというのが表情からうかがえる。

ヴァルト「貴方は異国からここへ来たばかりであまり知らないだろうが、薔薇の騎士を目指すならトロトロと甘い進行ではついていけない」

 

　もっと厳しくすべきだといかにも軍人といった雰囲気の男・ヴァルトは言う。

 

ヴァルト「初回で他のクラスと差がついてしまっていては、育てるどころか芽を摘んでしまいかねない」

ニケ「そうそう！　クレスみたいに才能がある子だってそっちには混ざっているんだから。つぶさないでよね、もったいない」

 

　どうにもこの地もそこに眠る歴史もロクに知らない異国の人間では役不足に思えてならなかった。

　歴史は教えられるほど氷鎖女は知っていたが、それは知識での話だ。

　実際にここに生まれ、暮らして来た生粋のローゼリッタ国民とはどうしたって違う。

　我が国家を代表する薔薇の騎士は、薔薇の騎士が育てていくのが当然のように繰り返されてきた。

　それがここに来て、いきなり異国の新顔。

しかもやり方が今までの伝統をことごとくつくがえしているようでは、教官たちからの反感や不信も仕方のないことだった。

 

氷鎖女「あいわかった。今回の試験で彼らに成長がうかがえないと貴公らが判断したなら、拙者を首にしてもらって構わないでござるよ」

ナーダ「ちょっと。そこまで言ってないじゃない。ただもう少しやり方を考えた方がって……」

氷鎖女「いや、拙者、他人にものを教えたことがナイのでござる。イェーリング殿やアルカイック殿の言うように芽を摘んでしまっては仕方がない。他の方に譲った方が良いでござろう」

ニケ「じゃあ試験が終わってみてのお楽しみってワケだ♪」

ヴァルト「ニケ、口が過ぎるぞ。我々はヒサメ殿を批判して追い出したいワケじゃあない」

ニケ「わかってるよ」

 

　ヴァルトは伝統を重んじるがために異国の人間である氷鎖女を歓迎はしていなかったが、それを理由に難癖をつけるほど小さい男ではない。

　ニケは年だけはここにいる連中の何倍も生きていたが、基本的に子供っぽい。

顔をそむけておもしろくなさそうに口を尖らせる。

 

氷鎖女「ま、拙者の組のガキ共はそうそう負けはせぬからご安心めされ」

 

　うっすらと口元に暗い微笑を浮かべる。

 

ナーダ『………。自信……ありそうじゃない……』

 

　会議は終了。

学徒たちとは別棟に用意されている教官用の一人部屋へとそれぞれ戻って行く。

 

氷鎖女『まぁ見てろって。ウチのガキ共は手ごわいってコト、見せてやるよ。まだアイツラ自身もわかっていないだろうがな。当日になればわかるさ』

 

　自分にあてがわれた部屋に入り、額あてを取って机の上に放る。

　重量のありそうな見た目に反して軽い音をたて、額あては転がった。

　周囲にズラリと並んだ人形は目隠しをされて、行儀良く座っている不気味な部屋。

　作りかけの人形の首が床に転がり、描きかけの絵が壁に立て掛けてある。

　他にも読みかけの大量の本や何だかよくわからないガラクタ類が雑多に転がっていたが、それらを足で避け、自分の寝るスペースを確保すると布団を敷いて床に眠ってしまう。

　ベッドとやらはどうにもなじめない、などと思いながら。

　祖国では床に直接布団を敷いて寝るのが普通であったから。