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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 第7話

第7話:黒き魔術師・二人の天才

 説明が終わり、早速、試験試合が始まると主だった試験官となる教官たちは白薔薇志望の学徒たちが筆記試験を受けている建物の中へと消えていった。

 白薔薇試験場とは別に設置された部屋には水晶が3つ並んでおり、白薔薇試験場・赤青両薔薇試合場・黒薔薇試合場の様子が映し出され、反射して白い壁に映像を送っている。

 ある者は椅子に座って、ある者は立ったままでその3会場の様子を監視始める。

 そんなところに黒薔薇正騎士のアイビーが姿を現した。

 

アイビー「どうも。久しぶり」

ナーダ「あら、アイビーじゃない。珍しいわね」

ヴァルト「ん? アイビーか」

 

 彼ら三人はピタリと同い年の32歳。

 かつて養成所で抜きつ抜かれつ腕を競った仲だ。

まさに今現在の学徒たちと同じように。

 一見すると女性にしか見えない容姿のアイビーは、顔に似合わず妻子持ちの父親である。


▽つづきはこちら

アイビー「どう? なんか収穫ありそ?」

ナーダ「どうかしらね。赤ではレイオット=ジーエルンって子が有力だわね」

アイビー「どれ?」

ナーダ「まだ試合は始まっていないわ。始まったら注目してあげてちょうだい」

アイビー「ふぅん。で? ヴァルトの方は?」

ヴァルト「青か? ……そうだな。今のところ、他よりも頭一つ出ているのはフェイト=ウィスタリアだが、まだ半年しか経っていない。彼が本物になれるかどうかは保証しかねる。他にも掘り出し者が出ると俺は期待しているのだが……」

アイビー「今はただの石ころでも大化けするのが混ざっているかもしれないって? ……実にヴァルトらしい意見だよ。目の前にある光る原石だけに気を取られない辺りなんか特にね」

ヴァルト「ああ。ホメたくはないが、ジャックもそうだったからな。初めは才能のカケラも見当たらなかった」

アイビー『ジャック? ああ……あの』

 

 さっき出会った青年を思い浮かべる。

 あれをしてヴァルトにここまでいわしめるのだから大したものだ。

 会った印象ではとてもそうは思えなかったが。

 

アイビー「私としては本命の黒が気になるトコだけど?」

ニケ「白も注目しろ~っ」

アイビー「うるさいね、チビ。白は筆記じゃないか。どうやって注目するってのさ。それより黒だよ黒」

ナーダ「黒だってよ、ヒサメ?」 黒の教官を促す。

氷鎖女「さぁ……」 しかしあいまいに首をかしげるだけ。

アイビー「ナニ、コレ。この黒ニケみたいのは」

氷鎖女「?」 自分を指さす。

アイビー「この黒ニケが黒の教官なの、今年の?」

 

 初対面なのに無礼千万。

無遠慮に黒いポニーテールに指を通して遊びだす。

 

氷鎖女「ふぎゃっ!?」

 

 ぞわわっ

 肌が泡立ち、あわてて耳の尖った女性とおぼしき人物と距離を取った。

 

アイビー「女? 男?」

ナーダ「性別をアイビーに聞かれたくないんじゃない? ね、ヒサメ、こいつこう見えても男なのよ」

氷鎖女「然様(さよう)か」

   『あー、ビックリした……何者だ、コイツは』 ドキドキ

アイビー「ナーダは口が悪い」

ナーダ「それこそ貴方ほどでもないわね」

   「で、ヒサメも………………ん? ヒサメは男……だよね?」

 

 今さらのようにハッとなる。

 一番初めに彼が赴任してきたときに一度だけ、あの額当てを外したことがあったが、少年にも少女にも見える幼い顔つきで実はよくわからなかったのである。

初対面で性別を問う質問は、あまりに無礼だと思い聞くことが出来ないままうやむやになっていたけれど、態度や言動からするにたぶん男だろうと予想していた。

 

氷鎖女「……それ以外の何に見えようか?」

ナーダ「あ、うん、まぁ、そうは思ったんだけど、ホラ、アイビー見てたらさ。うん。もしかするのかなって」

氷鎖女「まさか」

ナーダ「ごめんてば」

アイビー「ねぇ。黒のを知りたいんだけど? 私、雑魚をわざわざ見に来たんじゃないの。この黒ニケが教官?」

ヴァルト「そういう言い方をするな。シズカ=ヒサメ殿だ」

アイビー「シズカね」

氷鎖女「……………………」

 

 四川から逃れるように、額あてにそっと手をそえる氷鎖女

 

アイビー「シズカ。黒の有力者は?」

氷鎖女「今はおらぬ。見てるがいい」

アイビー「いないの? 見抜く目がナイの? どっち」

氷鎖女「……まだいない」

 

 脳裏には二人の少年の姿が思い浮かんだが、口にはしなかった。

 ヴァルトと近い考えがあったのと氷鎖女 鎮の人を容易く信用しない性格からくる返答だった。

 代わりに別の黒魔術教官・レヴィアスが会話に割り込み、自分のところの生徒を推していた。

 氷鎖女はこれ幸いとアイビーとの会話を打ち切って、結界内に踏み込んだクレスを視界に捕らえた。

 

氷鎖女『才能でいうのなら……』

審判「両者、用意はよろしいか?」

 

 二人の学徒、向かい合わせでうなづく。

 

氷鎖女『まずはクレス=ローレンシア』

 

 射貫くような視線を感じ、クレスは口元を歪ませて笑った。

 自分に注目しているのがわかる。

 

クレス『見てろよ。あのときはあの魔法しか使えなかったからだぞ。僕にはもっと強力な魔法があるんだ』

 

 “あのとき”とは、氷鎖女と一度実践訓練を行ったときのことだ。

 彼の結界をやぶることができなかったのが悔しかった

 しかしクレスは別の魔法も知っている。

魔女だった祖母から教わった魔法が。

 

クレス『この戦い、勝ち負けだけじゃないと言っていた。それはつまり、戦いの内容が重要ってコトだろ。ちまちま逃げては攻撃を繰り返してのつまらない単調な戦いじゃダメってコトだ。ならばカンタンさ』

 

 開始と同時にクレスは思いきり自前の杖を振り下ろした。

 杖の先から勢いよく氷のつぶてが噴き出す。

 作り出した氷は対戦相手を一瞬にして凍てつかせただけでなく、その勢いで白薔薇正騎士たちが外にまで魔法被害をもたらさないようにと張り巡らせた結界までをも突き破る。

 

「うわあぁっ!?」

 

 対戦相手側にいた学徒たちは騒然となって逃げ出すが、逃げ遅れた者は走るポーズのまま、見るも無残な氷の彫像と化してしまった。

 

クレス「ふふふ、ははははははは」

 

 クレスは祖母という(かせ)を失って今日初めて魔法を使って人に危害を加えた。

 そのなんとも言えない自由をかみしめ、解放感に笑いが収まらない。

 古い建物に無数に張り付いたヤモリに気づくと、ニヤリと歪んだ笑みを投げかける。

 一方この映像は使い魔であるヤモリの眼を通じて試験官たちが控える部屋に届けられていた。

 水晶はヤモリの見たものを壁に映し出す。

 圧倒的な魔力を見せつけ、挑発的な態度のクレスを見た試験官の一人が口を開いた。

 

「クレス=ローレンシア、1点減点」

「救護班、至急、氷づけにされた受験者を救助、治療せよ」

 

 水晶に向かって呼びかけると、外で待機していた正白薔薇騎士たちが一度に動き出す。

 

ニケ「クレス=ローレンシア……。会ったときに確かに感じるものはあったけど……まさかこれほどとは。年の割りにあの魔力、ここにこもっていても感じられるほどだ。恐ろしい逸材かもだけど……」

 

 小さな身体に似合わぬ大きな白いローブに身を包んだニケ=アルカイックが言った。

 彼はクレスに俄然興味が沸いたようだが、同時に隣に立つヴァルトの様子を伺う。

 

ヴァルト「彼に騎士になる素質など微塵も望めないな」

 

 ヴァルトは映像から目を離さずにキッパリと言い切った。

 

ニケ「だよね、やっぱり」

 

 少々ガッカリしたように肩をすくめる。

 

ナーダ「けれど、いいの? 落第させることに異論はないけど、このままあの子を放置しておいて。そのまま大人になったらあの子、第2のシレネになっちゃったりするかもよ」

 

 半分冗談、半分本気でナーダが言う。

 押し黙る部屋。沈黙が重い。

 

氷鎖女「ま、とりあえず今後の様子を見てからでも遅くはないでござるよ」

 

 相変わらずのマイペースぶりを発揮して氷鎖女は椅子に座った。

 他の面々はそれを呆れ顔で眺めていたが、

 

ナーダ「そうね、試験はまだこれから。悩むのはそれが終わってからにしましょう。これから他の問題児も見ていかないといけないんだし」

 

 ナーダは自分の赤髪をくしゃくしゃに触って氷鎖女の隣に腰を下ろす。

 そして試験官たちはそろって続く別の試合に視線を戻した。

 ずっと彼らの様子をうかがっていたアイビーは、小さくうなづいて黒髪のポニーテールを見やった。

 

アイビー『はぁん。“まだいない”ってそーゆーコトか。確かにあのままじゃ才能はあっても薔薇の騎士には推薦できないよね』

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