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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 52-2

中年男「おいおい兄ちゃんどーしたぁ? コレが嫌いじゃねぇーよなぁ?」
ジャック「おえぇっ!」
 
 連れのゼザは慣れたもので、コイツはすでに飲み過ぎてるのだと説明した。
 中年男は何ごとか冷やかしたように言って立ち去ってしまい、入れ替わりに別の女が興味を惹かれて寄ってきた。
 やはり正気でしかも態度が硬いジャックは、どこかしら目立ってしまっているらしい。
 
女「アンタ、何やってんだい? ……あれ、若いじゃないか。いーい男だわぁ」
 
 麻薬を取り込み過ぎたためか顔がどす黒く変色した半裸の女が吐き戻して苦しむジャックを下から覗き込む。
 
ゼザ「しっし。今、それどこじゃねーんだよ」
 
 面倒くさそうにゼザが手を振った。

▽つづきはこちら

 
女「いいじゃないか。アタシが解放してやるよ。服は窮屈だろぅ? 脱いでさぁ」
ジャック「やっ…! ちょっ、ちょっと!? こまっ……困りますっ」
 
 吐いている場合じゃない。
 下半身を探られて仰天した。
 
ゼザ「コレは俺とデキてんだよ、ネーチャン、失せな」
女「ちっ、何だい」
 
 下品なジョークだが目が笑っていない。
 体躯の大きな男にすごまれて、痩せた女はつまらなさそうに引き下がった。
 
ゼザ「……ハァ。メタメタだな。しょうがない、今日のところは退散だ」
ジャック「す、すまない」
 
 真っ青な顔をしたジャックに肩を貸して裏切り者のゼザは秘密の集会を抜け出した。
 
ジャック「えらいことだ。こんな集会があちこちで開かれているのに公爵は何もしないのか」
 
 ゼザの家にたどり着いたジャックは水で何度も口をすすいでようやく落ち着きを取り戻した。
 
ゼザ「バッカ、オメー。公爵なんか暗黙の了解みたいなもんだ」
 
 貧しい暮らしから抜け出したくて薔薇の騎士を目指したゼザの家は、没落貴族で土地も財産もほとんど残ってはいない。
 オンボロの屋敷だけはどうにか立っているが、修復もできなくて雨漏りもしている。
 その有り様はジャックの家より酷かった。
 当然ながら使用人はおらず、アルコールと麻薬中毒の父親がわめくように歌ってその辺を徘徊している。
 母親の姿はなく、どこかの男と逃げたとゼザは皮肉な笑いを口の端に浮かべた。
 
ジャック「君は平気だったのか、あの臭い。私はまだ頭がくらくらする。鼻が変になったみたいだ」
 
 擦り切れて中身が飛び出したソファーに腰をうずめ、ジャックは疲労の濃い表情を見せた。
 
ゼザ「俺は慣れっこだ」
 
 対して、ゼザはケロリとしている。
 
ジャック「それから、栄養あるモノを全てつぎ込んでみました栄養ドリンク、マズイけどいかが?……的なあの清涼飲料がなんであんなにも大人気なんだ?」
ゼザ「始めはマズくても、そのうちイイ気持ちになれるからな」
 
 そう言って、フラフラ室内を歩き回っている父親を指さす。
 
ジャック「まさか君は常飲してるんじゃ……?」
ゼザ「そこまでじゃない。さすがに目の前で成れの果てを見せつけられりゃ、怖くて常飲はできないやなぁ」
 
 二人は少しの間、無言になって成れの果ての象徴である父親の行動を目で追った。
 相変わらず何か聞き取れない言葉をわめき散らしている。
 視線をゼザに戻し、
 
ジャック「……あのステキ飲料、指が入っていた」
 
 開いた両膝に腕を預け、背を丸めて頭をうなだれる。
 人肉を口にしてしまったショックから未だ立ち直れないでいるのだ。
 
ゼザ「あー……アレな。普通はあそこまでしないけどな、時々あるのさ。シレネに捧げ物だってな」
 
 捧げられるのは間引きしたい赤子であり、老人であり、うるさい近所の住人だったり、別れた妻であったり。
 邪魔者は公然と煮え湯に溶かされるのだ。
 
ジャック「信じられない……ここは本当にローゼリッタか?」
 
 子供のころは父がダンラックの配下にあったためにエグランタイン城下町に屋敷を構えて暮らしていた。
 けれど、あの頃はまだ何も知らなかった。こんな裏の世界があるだなんて。
 父が汚名を着せられて公開処刑されると屋敷と財産はあらかた没収され、一家は親戚を頼ってローゼリッタ中央部に移り住んだのだ。
 現在の小さな屋敷は、親戚に借金をして商人から中古で買い取ったものである。
 母と他に当てのない使用人たちのために。

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