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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 51-8

メイディア「先生……」
氷鎖女「うん?」
メイディア「…………色々と……ありがとうございました」
 
 ひとしきり泣きわめくとようやくメイディアは、見ているだけで同情を誘うくらい弱々しく立ち上がって扉に手をかけた。
 レヴィアスから見放され、魔力が消失してもうダメかと思っていたときに引き上げてくれた氷鎖女のところにいけば、何とかしてもらえるかもしれないという淡い期待を抱いてきたけれど、やはりダメなものはダメだと悟ったらしい。
 
氷鎖女「もし……」
 
 出て行こうとしたところで、後ろから声がかかった。
 
メイディア「はい?」
氷鎖女「もし、嫌な男の元に嫁ぐのと殺されるのなら、どちらが良い?」
 
 曲がってもいない額当てを直す仕草で、わかりきったことをもう一度問う。
 

▽つづきはこちら

メイディア「…………ワタクシは純潔を守りたいと思います」
氷鎖女「命あってこそだが」
メイディア「ご心配なく。家のためには命を経つわけには参りませんから………………言ってみただけです……」
氷鎖女「……そか。よく、わかった」
メイディア「……はい」
 
 メイディアが鼻をすすりながら出て行った後、執務室の氷鎖女はガラクタだらけで狭くなった部屋の中を行ったり来り、腕を組んで何事かを考えている。
 
氷鎖女「……他人の俺が動く理由なんて、万に一つも見当たらないな。うん、関係ない」
 
 あらゆる角度から検討したが、教師と生徒という枠以外に何の接点も義理もないと判断を下したのである。
 乱雑にかれた人形を手にとって眺める。
 
氷鎖女「……………………」
 
 
 約束の期日。
朝もや煙る日曜、早朝。
 メイディアは仲間に一言も告げる事なく、迎えに来た馬車に乗り込んだ。
 見送りは担任の氷鎖女と義妹シラーブーケの二人だけ。
 まだ養成所を辞めることを伝えていないからである。
 外部から干渉できない国立の養成所を辞めるというのは、そう簡単なことではないのだ。
 強引だが、こっそりいなくなった後で辞める旨を伝える文書を送り付けるしかない。
 
メイディア「色々と……お世話になりました」
氷鎖女「ああ。そちらほど迷惑な生徒もめったにいまいが。いなくなればさぞや皆、喜ぼうな?」
メイディア「はい」
シラー「お手紙、書くように皆に言うわよ。そんなシケた顔しないで。公爵よ、公爵! 私なら大喜びで行くわ」
 
 シラーが慰めとも本音ともつかない言葉をかける。
 
メイディア「……………そうね。きっと良い方よ、公爵様は」
氷鎖女『……どうかな』
メイディア「先生、最後にお願いが」
氷鎖女「何か?」
メイディア「先生のお顔、拝見させていただいてもよろしい?」
氷鎖女「……よろしくない」
メイディア「最後ですのに」
氷鎖女「…………」
 
 額当てに手を当てて、直すしぐさをし、
 
氷鎖女「最後にはなるまいよ」
メイディア「いいえ。最後です。もう、公爵領エグランタインから出ることは、女王への謁見の際にしかございません。でもそんな席に先生はいらっしゃらない」
氷鎖女「……拙者の顔などどうでもよろし。それよりアゴに伝えたいことは?」
 
 メイディア、無言で首を振る。
 
シラー「友達には?」
メイディア「いいの」
御者「お嬢様、そろそろ」
 
 御者に促され、仕方なくドアを閉める。
 
メイディア「さよなら」
氷鎖女「待て」
メイディア「はい?」
氷鎖女「これを……」
 
 人の形に切り抜いた白い紙を3枚を渡す。
 
メイディア「これは?」
氷鎖女「持っておけ。肌身はなさず。……きっと役に立とう」
シラー「ゴミ渡してどうするのよ」
氷鎖女「しっ…失敬な! ゴミではござらん」
メイディア「…………よくわかりませんが、わかりました。ありがとうございます」
氷鎖女「よいか、決して捨てるでない。自分以外の者にも見せてはならぬ。絶対でござるぞ」
メイディア「? ええ、きっと。お約束致します」
氷鎖女「そうだ、花嫁衣裳の内側に誰にもわからぬよう縫い付けておけ」
メイディア「?」
 
 御者が馬に鞭を入れ、見る間に遠ざかる馬車。
 
シラー「あーあ。行っちゃった。いいなぁ。私も公爵夫人になりたい」
氷鎖女「どうであろうな、肉で60過ぎと聞く」
シラー「それならしばらく我慢してれば、死ぬじゃない。後はもう好き放題よ?」
氷鎖女「うん、そうも言ぅたのだがな。毒でも盛ってやれと」
シラー「ははーん。言うわね、先生も」
   「ところで先生」
氷鎖女「うん?」
シラー「本当に先生の顔ってどうなってんの?」
 
 好奇心に輝く視線に氷鎖女は警戒を示した。
 
氷鎖女「………さらばっ!」
 
 脱兎のごとく逃げ去る。
 
シラー「あっ!?」

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