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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 51-3

 担当の教官に納得いかなかった箇所を質問しに行っていたリクがすっかり遅くなってしまったと窓の外を覗いていた。

 

リク「日が落ちるの早いなぁ。もう真っ暗だ」

 

 独り言をこぼした彼の背後に気配があった。

 ゆっくりと振り向くとその鼻先に、擦り切れて薄汚れたウサギのぬいぐるみが突き付けられる。

 

リク「……おっと」

 

 ウサギは左右に体を揺すってこう言った。

 

ウサギ「やいコラ。こんなところで何をしている? いつまでも校舎に残っていないで、早く宿舎に帰りなさい」

リク「ははっ。スミマセンでした、ウサギ教官。ただ今、戻ります」

 

 調子を合わせて頭を下げるとウサギは「よろしい」と偉そうにふんぞり返ってみせた。


▽つづきはこちら

 ぬいぐるみを操って、おかしな声色を出していたのはもちろんメイディアである。

 

リク「コレは?」

メイディア「キース君です」

リク「ずっと前の試験のとき連れて行こうと大騒ぎしていたやつだよね?」

 

 リクは別の班だったが、このぬいぐるみも連れて行くと言って聞かずにフェイトやクレスたちを困らせていたのは知っていた。

 令嬢の持ち物にしてはいやにみすぼらしいと思って見ていたのでよく覚えている。

 しかも首のすわりが悪くて粗悪品。

 オマケにあんまり可愛くないのだ、これがまた。

 彼女の手元に来なかったら、誰も欲っしてくれそうにない安物のぬいぐるみ。

 人形好きだったリクの妹だってきっといらないとはねつけるであろう。

 

メイディア「あげる」

リク「大事にしているものじゃないの?」

メイディア「ええ。だから貴方もちゃんと大事にしてあげて?」

リク「理由もないのにこんな大切なものはもらえないよ」

メイディア「だって、貴方は友達が少なくて独り言多いから」

 

 なにやらとんでもないことを言われた気がする。

 

リク「……ごめんね、独り言多くて」

  『そんなに独り言多かったかな?』

 

 指摘されてちょっぴり恥ずかしくなった。

 友達が少ないなどと、常に人々の輪の中心にいる彼に向かってそれはないのではないかと誰かがもし聞いていたら反論することだろう。

 言い切った彼女は悪びれもなく、ぬいぐるみを手に持たせてきた。

 

メイディア「キース君は、何でも聞いてくれるの。絶対に貴方を否定したりしないし、拒絶もしないわ」

 

 それはそうだ。魂のない、ぬいぐるみなのだから。

 

リク「俺は誰からも否定も拒絶もされていないよ」

 

 誰もが神に愛された子だとその美貌と全てに優れた才を手放しで称えてくれる。

 どこへ行っても引く手あまたなのだ。

 よい意味でも悪い意味でも。

 

メイディア「でも貴方はしているんじゃなくて?」

リク「え……」

 

 突拍子のないメイディアの指摘にリクがわずかに反応した。

 けれどすぐにいつもの柔らかな微笑みに戻す。

 

メイディア「前にも言ったことあったかしら?」

リク「何かな」

メイディア「ワタクシ、貴方のことが大嫌いだって」

リク「あはは、聞いたよ、何度も。大声で面と向かってね」

メイディア「そう。今この瞬間も貴方が大嫌い」

リク「うーん。そうやって本人目の前に改めてヒッドイんだから」

 

 おどけて頭をかいてみせる。

 そんな彼に続けて鋭い批判が叩きつけられた。

 

メイディア「嘘よ」

リク「嘘?」

メイディア「貴方はヒドイなんて思っていないし、傷つきもしない。そんなのは些細な事なの。どうせワタクシのことなんて……いいえ。世の中の全部がどうでもいいことだから」

リク「それは誤解だよ。そんなこと、思ってない」

 

 否定の意を表してゆっくりと首を振る。

 どうでもいいのではないのだ。

 彼は、ただ感じられない。いや、感じないようにしているだけなのだ。

 家族が殺されたあの日から、ずっと心を閉ざして。

 けれどメイディアにそう思われているなら、自分が悪いのかもしれないと思った。

 

メイディア「ワタクシは他人の心なんてちっともわかりません。見たままの表面しか。レクのように気遣い上手でもないし、優しくもない。裏を読むことだって下手です。クロエのように閉ざした人の心を花開かせる屈託のない素直さも明るさもありません。だから、本当の貴方なんて知らない。だって隠しているからわからないもの」

リク「えーと…? …俺は今、どうして責められているのかなっと」

 

 どう切り返したものか見当がつかずに曖昧に笑う。

 

メイディア「でも、だから。貴方の仮面のようなその顔が嫌いなの。言っておくけど、キレイな顔を仮面と称しているのではないのよ?」

リク「わかっているよ。君は俺をキレイだなんて思ったことはないんだろう?」

メイディア「当たり前ですわ。模造品などに興味はございませんもの。一度、本気で笑ってごらんなさいよ。そんな気味の悪い笑顔をいつも貼り付かせてニヤニヤしていないで」

リク「……………」

 

 この一言で、リクの顔から笑顔が消えた。

 笑顔こそが通常の表情となっている彼にしては珍しいことだ。

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