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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 50-8

 残ったのは哀れな老婆ともらわれてきた娘、そして伯爵夫人だけだ。

 

老婆「お嬢様、申し訳ございません、お嬢様ァ。あんなに嫌がっておいでのご結婚を承諾されて……こんな老いぼれのために……」

メイディア「良いのです。貴女はお母様を悲しませたくなかっただけですもの。何も悪くない。貴女は何も悪くないの。……心配しないで」

 

 年老いていくぶん小さくなった育ての母をもう一度抱いて、メイディアは目を閉じた。

 もういいのだ。

 なにもかも。

 この老婆が咎められなければ、それでいい。


▽つづきはこちら

 

メイディア「公爵様はきっと良い方だわ。だから大丈夫よ、ばあや」

夫人「そうですよ、メイディ」

メイディア「……お母様」

夫人「ばあやも涙をお拭きなさい。貴女が私のためを思ってしてくれたと充分にわかっています。これまでシャトー家に尽くしてくれた貴女ですもの。これからもどうかよろしく頼みますよ」

ばあや「奥様! なんともったいないお言葉」

 

 声を震わせて再びむせび泣く。

 それから夫人は娘ではなかった娘に向き直り、こう告げる。

 

夫人「メイディ。貴女は間違いなく、私たちの子。恥じ入る必要など、どこにもないのですからね。貴女はメイディア。メイディア=エマリィ=シャトーです。シャトー家の一人娘。よろしいですね?」

メイディア「はい………あ、いいえ、お母様。娘は一人でなく、もう一人いますわ」

夫人「あら、そうでしたね」

 

 二人、声をそろえ、

 

二人「シラーブーケ=エマリィ=シャトー!」

 

 言った後でぷっと吹き出す。

 まさか声がそろうとは思わなかったのだ。

 血が繋がっていないことがわかってから、似た行動を取っているのがおかしかった。

 

メイディア「シラーがいれば、シャトー家は安心です。よい殿方が見つかるといいと思います」

夫人「そうですね。メイディアも、………幸せに」

 

 手を離れていくのはもう少し先のはずなのに、夫人はこらえきれなくなって顔を覆った。

 こんなことなら、もっと愛してやればよかった。

 メイディアは不気味な子ではない。

 ただ、愛情を欲していただけだ。

 老婆の言葉が今は胸に痛い。

 

 

 数日後、メイディアとシラーは養成所に戻ることになった。

 友人たちに別れの挨拶と手続きを済ませるためだ。

 ただ、結婚の日取りを今から改めて決めねばならず、その間だけは養成所に身を置くことが両親から許可された。

 本来、こんな勝手な理由で辞めることはできないのだから、無理やりに出てくることになるだろう。

 元々、騎士になるつもりもなくて入所したのだから、養成所側からすればとんでもないことである。

 魔力が使えなくなったとニケまで巻き込んだ騒ぎを起こしてこれである。

 結局、メイディア=エマリィ=シャトーは最初から最後までワガママ身勝手な生徒であった。

 帰りの馬車で二人はほとんど口を利かなかった。

 仲の良くない二人のことだ。

行きもそうであったが、帰りは理由が違う。

 メイディアは自分の出生について告げられたことを思い出していた。

 本物のメイディアは稚児のときの事故で亡くなり、裏庭の片隅にひっそりと埋められていた。

 幼い遺骨は今度、教会に収められることになっている。

 今を生きているメイディアはといえば、どこの誰だかもわからず捨て置かれた赤子であったという。

 拾われて修道院に預けられていたところを、貴族の娘として必ず幸せにするという約束でばあやが引き受けたのだった。

 考えに沈んでいると、珍しくシラーから声をかけて来たので少しばかり驚いた。

シラー「いいじゃない。丸く収まったんだから。公爵のところにいけるなんて、私はうらやましい」

メイディア「! 聞いていたのね!?」

シラー「私だけ残して家族会議。……私を追い出す算段でもしているのかと思って」

 

 正式にシャトー伯爵家相続権を放棄する書類を書いたメイディアに対して、仮面を被るのをやめたシラーがぶっきらぼうに言った。

 

メイディア「そんなこと、ありえないわ。皆、貴女に期待をかけているのだもの。シャトー家をよろしく」

シラー「……よろしくされた」

メイディア「ふふっ」

 

 相続権を譲り、“二人の偽物メイディア”の争いはここに終結を見た。

 本物のメイディアなど、どこにも存在していなかったのである。

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