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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 50-7

伯爵「詳しく話なさい」

 

 伯爵に促されて、観念した老婆が語り出した。

 老婆が乳飲み子だったメイディアの世話をしようとベッドを覗き込むとぐったりとして動かない。

 吐き戻してしまっていたミルクでベッドの布団が濡れて、うつぶせになった赤子が窒息してしまったのである。

 乳飲み子の死因としては珍しくない事件だった。

 必死で蘇生を試みるも時すでに遅く、“メイディア”は息を引き取った。

 産み落とす際の酷い苦しみで伯爵夫人がもう二度とは子供が産めないだろうと医者から宣告を受けていたことを知っていた老婆は、たった一つ種の娘を失えばどれだけ嘆くだろうと思い悩んだ。

 あげく、よく似た赤ん坊を譲り受けてメイディアとしてそのベッドに寝かせたのである。

 


▽つづきはこちら

ばあや「まさかそのような証文があるだなんて知らずに……」

伯爵「…………」

ばあや「奥様を悲しませたくない一心でとんでもないことを……」

夫人「…………」

ばあや「結果、お嬢様にまで辛い想いをさせてしまい……」

メイディア「…………」

ばあや「償いはこの老婆の命をもって!」

 

 突然、窓に走り寄り、身を乗り出した。

 

メイディア「待って!!」

 

 メイディアと神父が老婆を取り押さえる。

 

神父「自ら命を断ってはいけませんぞ! そのような行い、女神ローゼリッタは決してお許しになりません! 生きるのです!!」

ばあや「お離し下さい、もうこうするより他に謝罪の方法がございません!」

 

 揉み合って暴れる。

 

メイディア「逝かないで、ばあや!!」

     「お父様、お母様! ばあやの罪はどうかこのワタクシめに!!」

 

 娘の必死の願いに伯爵と夫人が顔を見合わせていたが、先に動いたのは夫人の方だった。

 

夫人「ばあや。勝手に死ぬのは許しませんよ!」

ばあや「…………」

 

 その鋭い一言で老婆は力無く床にへたり込んだ。

 

夫人「貴方、どうします? 今更、メイはメイでなかったと公にしますか?」

伯爵「……………」

夫人「そうなれば、公爵のことも……」

伯爵「君に言われなくてもわかっている! 今更、変更はできん。メイディアのまま押し通す」

夫人「でしょうね。シャトーの名に傷が付きますものね」

 

 こう答えることがわかっていた夫人が勝ち誇って薄く笑う。

 

伯爵「…………」

メイディア「ばあやをどうかお許し下さい! 偽のメイディアとして偽った罪はどうぞ、このワタクシめに……どうか……どうか……」

 

 自分を育ててくれた育ての母といっても過言ではない80過ぎの老人を強く抱き締めた。

 

ばあや「おお……お嬢様、お嬢様、浅はかな私のせいでこんなことに。お許し下さい」

 

 メイディアの腕の中、老婆は小さく丸まって震える。

 靴音高らかに神父に近づいた伯爵夫人は、その手から証文を取って破り捨てた。

 

夫人「偽のメイディア? 何の話をしているのです、メイディ。お母様にはさっぱりわかりません」

メイディア「お、お母様……?」

夫人「まったく。大騒ぎしてはしたない。それが貴族の娘のすることですか」

メイディア「……貴族の娘……」

夫人「さぁ、立ちなさい二人とも。床にいつまでも座っていないで」

ばあや「奥様……おお、奥様……」

 

 夫人の慈悲にわっと老婆は泣き崩れる。

 

伯爵「メイディア」

 

 伯爵の堅い声がメイディアを射貫いた。

 

メイディア「はい」

伯爵「君は今後もシャトー家のメイディアとして扱う」

メイディア「……はい」

伯爵「このことは生涯、口にしないように」

メイディア「心得ております」

伯爵「予定通り、公爵には嫁いでもらうが、いいね?」

メイディア「……………はい」

 

 もう逆らうことはできない。

 消え入るような声で小さく答えた。

 

メイディア「嫁ぎましょう、公爵の元へ。その代わりお父様」

伯爵「何だね?」

メイディア「ばあやのこと、どうぞお咎めなきようお願い申し上げます。追い出したり、折檻したりなさらないで下さい」

伯爵「わかっている」

メイディア「ありがとう存じます」

 

 スカートをつまみ、足をクロスさせて優雅にお辞儀する。

 伯爵は答えずに不機嫌な足取りで部屋を出て行った。

 居所なさげにしていた神父も後を追って姿を消す。

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