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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 52-3

ゼザ「お坊っちゃんだな、アンタ」
ジャック「……そう…だろうか…」
ゼザ「裏側を知らないわ、俺なんか信用してついてくるわ。もし今の今、俺の気が変わったらどうするつもりだ?」
 
 突然、短剣を抜き放ち、ジャックの鼻先に突き付けた。
 
ジャック「うん。たぶん、困るんじゃないのか?」
 
 刃の切っ先を見て、寄り目になる。
 
ゼザ「疑問系で俺に聞くな」
 
 マヌケな返答に呆れて、刃を収める。
 相手が身じろぎもしないので、これではつまらない。
 

▽つづきはこちら

ジャック「大丈夫さ。君は裏切らないよ」
ゼザ「フン。どーだか。俺はすでに裏切っているんだぜ?」
ジャック「わかっている」
ゼザ「教会から出たこともない修道士みたいにキラキラしたお目々で、本当に悪い人なんて世の中にいません……とか言い出すんじゃないだろうな」
ジャック「……まさか」
 
 ふっと大人びた笑いを漏らす。
 
ジャック「理由はある」
ゼザ「言ってみな」
ジャック「一つは君の望みを叶える用意があること。一つは君がこのままではいけないことを自覚していること。一つは一緒に捕らえた仲間が未だ人質として薔薇の騎士団の手にあること」
 
 ゼザは今年度の2回生春に行われた試験でクロエ誘拐を実行した犯人グループの一人だ。
ジャックと同じ世代の薔薇の騎士候補生だったが、4回生までいっていながら、正騎士にまでなれなかった。
他の騎士団に配属されたものの、周囲と上手くやっていけずに落ちぶれて行き着いた先が13番目の魔女を崇める宗教団体だった。
教祖からの命令でクロエ……いや、クローディア姫誘拐を企てるも失敗して捕えられた。
処刑確定を覆されたのは、ジャックがこの宗教団体に接触を試みたいと願い出たためである。
携わった犯人の中で協力を依頼され、解放されているのはゼザともう一人だけで、あとは未だ牢につながれている。
 
ゼザ「ナルホドな。けど、やっぱりアンタは坊やだ」
 
 安物の酒を注いで、ジャックにも突き出す。
 
ゼザ「望みを叶える用意ったってなぁ。それを反故にするんじゃないのか、騎士団は。一度裏切った……しかも候補生時代は実力が足りなくて正騎士にもなれなかった面汚しを誉れ高き薔薇の団に加えるものかよ。それこそ傷が付く。用がなくなったらお払い箱さ」
 
 ゼザの望みは再び返り咲くことだった。
 実力は充分に足りているという自負があったのに正騎士にしてもらえなかったと不満なのである。
 だからこそ他の騎士団に入ってもうまくやっていけなかった。
 プライドばかりが高く、命令を公然と無視していたのが原因だ。
 
ジャック「それはない。私の、ジャック=フランツ=グレイング=ジョセフ=アラン=スティーヴン=コンスタンティヌス=ウィングソードの名にかけて約束は必ず守らせる。……保険でヴァルト中隊長の名前も賭けておこう。それでも心配ならば、レヴィアス様の名前だって賭けちゃうゾ」
 
 むろん、本人に全くの許可なしであるが。
 
ゼザ「………。相変わらず勝手だな、お前……」 汗、たら~。
ジャック「それほどでも」
ゼザ「褒めていないが、まぁいい。アンタ、俺がこのままじゃいけない自覚があるって勝手に思っているようだが、そいつぁ、かいかぶり過ぎってもんだ。俺はそんなに責任感の強い男じゃない。だから正騎士にもしてもらえなかったんだろうぜ」
 
 自嘲気味に言う。
 
ジャック「かいかぶり? そうかな……」
ゼザ「俺はな、酒と女。それから遊べる金が手に入ればいい。ついでに俺を見下した薔薇の騎士団に唾を吐きかけられればサイコーだったわけよ」
ジャック「それが見事に捕まってしまったと」
 
 相槌を打つ。
 
ゼザ「ああ、あの黒髪の女がな。とんでもない候補生もいたもんだぜ。俺だって候補4回生まではいってたんだ。それを……」
 
 それも1対1ではない。
 姫を守り、尚且つ数人の手だれを相手にしてまだ余力があった。
 資格として送り込まれた面々は、正騎士にこそなれなかったが、その辺りの剣士とは毛並みが違うエリートのハズだ。
 それを一人で相手にして捕えてしまったのだ。
 彼女ならば、今すぐに正騎士として通じるだろうとゼザは言った。
 その正体が黒薔薇教官であることも知らずに。
 
ゼザ「ま。そんなワケで、俺は自堕落なこの生活を割かし気に入っているのよ」
 
 注いだ酒を一気にあおる。
 
ジャック「君はずいぶんと欲がないんだな」
ゼザ「酒と女っつってんのに欲なしに聞こえるのか。大したもんだな」
ジャック「そんなものはたかが知れているだろう? 私はもっと欲深い」
ゼザ「へぇ? アンタのが無欲そうな顔をしているけどな」
 
 興味を引かれて、ニヤリとする。
 突拍子もない言動をとらずにいれば、穏やかでおとなしそうな青年だ。
 誠実真面目な性格が顔に表れていて、聖職者と言っても通じてしまいそうである。
そんな彼の口から欲深いと聞かされれば、多少なりと注意が向く。
 
ジャック「無欲だなんてとんでもない。私は父の汚名を晴らしてウイングソードを再興させるつもりだからね。そのために今回の仕事に推挙してもらったんだ。無理やりにね」
ゼザ「おーおー、大義名分ってやつですか」
 
 空になった自分のグラスにまた酒を追加する。
 
ジャック「さてね。どこまでを欲と言って、どこからを大義名分というのか。規模の大きさで言い方も様々だが、根本は変わらないさ。悔しいから周りをあっと言わせたい……そう思って動くのだから、欲がないとは言ったら嘘になる。慈善事業やお国のためだなんてそれこそ大義名分を掲げているワケじゃないんだ。至って個人的なことだよ」
 
 受取った酒に少しだけ、口をつけた。

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