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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 52-4

ゼザ「へーえ、驚いた。正義の味方のお言葉とも思えないね」
ジャック「失礼だな。正義の味方だって欲の皮が突っ張るときもあるんだ。ドブで拾った小銭をインマイポケットしちゃったり、試験場に使われる立ち入り禁止の山でキノコ狩りに繰り出して、今夜の食事の足しにしようとか考えてしまったり」
ゼザ「……ずいぶんみみっちぃ正義の味方だなぁ」
ジャック「正義の味方にも諸々の事情があるんだ」 ……貧乏だから。
ゼザ「ほーう。そりゃ知りませんで」
 
 笑ってから、話を元に戻し、
 
ゼザ「アンタの言う最後の一つだが、騎士団に楯突き、姫君の命を狙う輩が仲間の命を惜しむと思うか? 仲間ったって、一緒に行動していただけの連中だ、目的だってそれぞれ違う。ヤツラがどうなろうが俺の知ったこっちゃないのさ」
ジャック「そうかい?」
ゼザ「そうさ。だからアンタは甘チャンだってんだ」
ジャック「どうかなぁ。どうだろう」
 
 腕を組んでうなる。

▽つづきはこちら

 
ゼザ「覚えておくんだな。いつでもアンタの背中を狙っている奴が側にいるってことを」
 
 さきほど突きつけた短剣をるり回して口の端を吊り上げる。
 
ジャック「忠告は有り難く受けておくよ。けど人のことを言う割に、君も存外、甘いな」
ゼザ「うん?」
 
 意外なことを言われてゼザは太い眉を引き上げた。
 
ジャック「私が君で、相手を殺すつもりなら、そんな忠告はしない。信用させて、ザックリ……だ」
 
 立てた人差し指を斜めに動かす。
 
ゼザ「へっ。しゃべり過ぎたな、俺も」
ジャック「いいじゃないか、信用させておけば」
ゼザ「……違いねぇ」
 
 二人はグラスを互いの合わせて音を鳴らした。
 
ジャック「ところで先程の女性とはまた会えるだろうか」
ゼザ「何だよ、気に入ったのか? そりゃあ邪魔してすまなかったな」
ジャック「いや。見知らぬ男性にあのような振る舞い。彼女が危険だ、妙な男に引っ掛かって大変なことになる前に注意しなくては!」
ゼザ「うわ……やっぱ、アンタ、お坊っちゃんだよ」
 
 がっくりと頭を垂れる。
 危険もなにも、例の女が望んで男に寄ってくるのだから、説教をしたところで改まるどころかうるさがられるだけである。
 このお坊っちゃんはわかっているだろうか。
 
 二人は夜遅くまで冗談を交えながら、今後のことについて話し合った。
 ゼザの話によると、シレネはすでに復活しており、力をためて機会をうかがっているのだと言う。
 それを騒ぎ出したのは、黒い宗教団体の上層部だ。
 彼らはシレネが全土を巻き込む大戦争を再び引き起こすと信じている。
 ゆえにシレネ側に立ち、崇め奉ることでその怒りの矛先が自分たちに向かないようにしているのである。
 姫を狙った彼らの目的も怒りを鎮めるためだった。
 
ゼザ「シレネの怒りは王族に向けられたもんだ。王族が13番目を粗末に扱ったからな。それなのに国民まで巻き込まれちゃかなわない。……だろ?」
ジャック「それはそうだ」
ゼザ「だからよ。王女を差し出して、国民のことは許して下さい」
ジャック「…………」
ゼザ「そうしたくて俺らは王女をかっさらおうとしたワケ」
ジャック「理にかなっているような気がするな」
ゼザ「……一応な」
ジャック「シレネの呪いは眠りとなって姫に降りかかったが、王子の愛で目覚めたという話は? それでめでたしじゃないの?」
 
 ローゼリッタに古くから伝わる話ではこうだ。
 姫の誕生を祝って、宮廷賢者が一人ずつ祝福の言葉(魔法)をかけることになっていた。
 ところが13人いる賢者を呼ぶための金の皿が1枚足りない。
 そこで12人だけを招待したのだが、仲間外れにされて怒った1人が突然会場に現れて姫に呪の言葉をかけたという。
 15歳の誕生日に糸車の針が刺さって死ぬと。
 けれど最後の12番目の賢者が、こう切り返す。
 姫は死ぬのではなく、ただ眠るのだと。
 やがて姫は100年の眠りにつくが、姫を助けるために現れた王子の接吻により目を覚ます。
 これが一般に知られる物語だった。
 
ゼザ「めでたしじゃないだろ。それでシレネはどうしたよ。呪いは眠りに変えられてきっと悔しい思いをしているだろうぜ」
ジャック「王子に倒されたんじゃなかったっけ、13番目の魔女は」
ゼザ「さらに悔しいわ」
ジャック「そんなこと言われても……」
ゼザ「シレネにとっちゃ、めでたしじゃねーのよ。奴は巻き返しの機会を狙ってる」
ジャック「君たちはおかしい。魔女は滅んでもういないんだ」
 
 酒と女と金、そして薔薇の騎士団に唾をかけられればいいと言ったゼザだが、彼も黒い宗教団の中にいた人物だ。
 口ぶりからしてもシレネ復活を信じているのではないかと思われた。
 そしてそのとおり、ゼザは断言した。
 
ゼザ「いる。魔女は復活している」
ジャック「どうしてそんなに頑なに……」
ゼザ「ほんの数年前に滅んだナロゥ・ペタを覚えているか」
 
 酔いが回って赤い顔をしたゼザは、身を乗り出してジャックの大きめの双眸を覗き込んだ。
 
ジャック「内乱に明け暮れて結局、崩壊した小国だな。もちろん知っている」
ゼザ「アレを滅ぼしたのが、正体不明の仮面を被った黒き戦乙女!」
 
 英雄端でも語るようにして、ひざをパチンと叩く。
 
ゼザ「全身黒の喪服に仮面。その素顔は誰も知らない」
ジャック「知らないなら、誰でもその役をできるってことだ」
 
 冷静なジャックの言葉を無視して彼は話しを続ける。
 
ゼザ「どこからともなく現れたその女は、幽閉されていた王子を助けだし、反対派の軍隊を破って王都まで連れ戻し、見事、即位させることに成功する。それからナロゥ・ペタに進攻してきていたダハト軍を次々に粉砕。彼女はまるで知っていたかのように相手の策を読み、逆に巧妙な罠をめぐらせて自滅に追いやった。彼女は魔法を使っていないのに魔法使いだと称えられたそうだ。無血勝利という奇跡も起こしたらしい」
ジャック「……相当の切れ者であるのは確かだな」

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